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第二章 27

「任務は、数時間後に始まる」ライトが、沈黙を破った。「これは、お前にとって、最後の選択の機会だ。俺を助け、奴らを止めるか、それとも、いつでもお前を見殺しにできる主人に、忠誠を誓い続けるか」


囚人は、長い間黙っていた。やがて、彼は、小さく鼻で笑った。


「お前を助ける、だと?この、裏切り者め。話が、それほど、簡単だとでも思っているのか」


彼は、顔を上げ、ライトの目を見た。その眼差しは、もはや憎しみではなく、憐れみに、変わっていた。「お前は、何も、わかっていないのだな、ライト。どれだけ、連邦が、邪悪であろうとも、奴らこそが、我々を創り出した、唯一の存在なのだ。第7部隊こそが、我々が持つ、唯一の家族なのだ」


「だが、一つだけ、情報をくれてやる。お前を助けるためではない。お前を、試すためだ。『仲間殺し』のお前が、本当に、我々を、打ち負かすに値するかどうかを、見るためにな」


彼は、身を乗り出した。「ステーション・ケルベロスに駐留する部隊長は、『ゼロ・ナイン』。コードネームは、『スペクター』だ」


ライトは、眉をひそめた。彼は、その名を、聞いたことがなかった。


「奴は、初期型だ。我々の世代よりも、前のな。『真の忠誠者』であり、部隊で、最も恐ろしい男だ」


「奴には、独自の改造が、施されている。短期戦闘予測演算システム。奴は、お前が動く、約0.5秒前に、お前の動きを、『見る』ことができる」


その言葉に、ライトの全身に、冷たいものが走った!それは、つまり…


「そうだ」囚人は、彼の心を読んだかのように、言った。「お前は、正面からでは、決して、奴には勝てん。それは、不可能だ」


「だが…」彼は、続けた。「…弱点はある。そのシステムは、不安定だ。膨大な処理能力を、消費する。もし、お前が、奴を、90秒以上、高速かつ、連続的な戦闘に、引きずり込むことができれば、奴のシステムは、オーバーヒートし、一時的に、『クラッシュ』する」


「お前には、わずか3秒の時間がある。奴が、未来を見えなくなる、その3秒間。それこそが、お前の、唯一のチャンスだ」


囚人は、壁にもたれかかった。「俺が、くれてやるのは、それだけだ。さあ、行け。そして、俺に、証明して見せろ。お前が、正しい道を、選んだのか、それとも、ただ、逃げ出した、臆病者に過ぎないのかをな」


ライトは、独房を出た。彼は、望んでいた「情報」を、手に入れた。しかし、それは、任務を容易にするものではなく、この任務の果てに、彼が、かつての自分自身よりも、遥かに恐るべき「悪魔」と、対峙することになるという、情報だった。


---


ライトが、冷たい尋問室から、一歩踏み出そうとした時、彼は、立ち止まり、最後に一度だけ、第7部隊の囚人を、振り返った。「命令は、受けた。これから、『スペクター』と、対峙する」彼は、平坦な声で言った。「お前が、くれた情報…もし、嘘だったら、ただでは済まさん」


囚人は、乾いた笑い声を、漏らした。「せいぜい、生き延びる努力を、することだな、裏切り者。それだけが、お前が、ずっと、得意としてきたことだろう?」


ライトは、何も言わず、踵を返し、艦橋へと、向かった。


--- **旗艦「ヴィンディケーター」艦橋にて** ---


ライトが、艦橋に到着すると、そこには、連合の指導者たちが、既に彼を待っていた。雰囲気は、緊迫していた。


「ちょうどいいところに来た、キャプテン」ジャックが言った。「状況は、新たな段階に入った」


メインホログラムスクリーンには、驚くべき光景が、映し出されていた。サラダー共和国のある植民惑星の軌道上で、巨大な戦闘艦隊が、集結していたのだ!左翼は、マリアン・コンバインの生き残りの、優雅な白い戦闘艦。右翼は、サラダー共和国の、力強いオレンジグレーの戦闘艦!


「ここは、惑星ヴェリディアだ」ジャックは説明した。「ステーション・ケルベロスでの我々の勝利の報が広まった後、サラダー政府は歴史的な決断を下し、我々と正式に合流した!今や、二大勢力の主力艦隊が集結した。これは、史上最大の反連邦勢力だ!」


別のスクリーンが点灯し、あらゆる場所から殺到する何百もの救援要請メッセージが表示された!「そして、これは、共に立ち上がる準備ができた他の植民惑星からの叫びだ。セクター全域で、火花は散らされたのだ!」


しかし、ジャックの表情は再び険しくなった。「連邦も、このことを知っている。奴らの情報部は、この大集結を必ずや探知しているはずだ。そして奴らは、持てる全てを投入して、この艦隊を破壊しに来るだろう。特に、奴らの秘密兵器をな」


彼は、ライトの目をまっすぐに見つめた。「君の『エレクター=カイ』破壊任務は、今やこの戦争における最重要任務となった。ライトキャプテン、君とマキは、連邦の主力艦隊が到着し、惑星ヴェリディアで我々の同盟軍を虐殺するために奴らを使う前に、機械の群れの制御信号を断ち切らなければならない!」


「君が、この新たな希望の、唯一の盾なのだ」


「残りの支援については…」ジャックは、救援要請で満ちた地図を見た。「…我々が持つ、全ての戦力を、送り出す!傭兵も、エララの一団も、我々の他の部隊もだ!我々は、全戦線を開く!連邦が、どこから手をつけていいか、わからなくなるほどの、混沌を、作り出すのだ!」


それは、最も壮大で、最も危険な作戦計画だった。


ライトは、即座に理解した。彼は、力強く、敬礼した。「拝命いたします、司令官」


彼は、静かに、艦橋を後にし、ハンガーへと向かった。そこでは、「幻影ファントム・ストライク」チームが、彼の、最後の命令を、待っていた。


---


「ナイトフォール」は、虚空を静かに進んでいた。艦内は、触れることができるほどの緊張感に満ち、誰も一言も発さなかった。


「待ち伏せポイントまで、あと10分」ライラの声が、沈黙を破った。「微かなワープエネルギーの波を探知しました。奴らが来ます」


「全員、備えろ」ライトが平坦な声で命令した。「これより先、全てが一瞬で起こる」


そして、それは起こった。前方の宇宙空間が歪み、次元の裂け目が開かれた!血月連邦の巨大な戦闘艦隊が、次々とワープゲートから姿を現す。戦艦、巡洋艦、そして何千もの戦闘機。それは、惑星ヴェリディアへと向かう、破滅の軍団だった。


「なんてこった…」兵器システムを管理していたギデオンが、小さく呟いた。「あれは、『テュポン』艦隊。連邦最強の主力艦隊だ」


「目標はどこだ、ライラ?」ライトは冷静に尋ねた。


「捜索中…機械の群れの指揮艦は、通常、陣形の中央に…奇妙なアンテナを持つ艦が…見つけました!」


ホログラムスクリーンに、ある戦艦の拡大映像が映し出された。その周囲には、巨大な量子アンテナが何本も設置され、不気味な赤いエネルギーが微かに放たれていた。


「あれが、『ヘカトンケイル』。キメラ計画の移動式指揮要塞です」


「可能な限り接近する」ライトは言った。「ライラ、『無効化パルス』を準備しろ」


「ナイトフォール」は、ゆっくりと、敵の戦闘艦の間の隙間へと忍び寄っていった。それは、シャチの群れの中を泳ぐ鮫のようだった。


「あと500メートル…400…」ライラが距離を報告した。しかしその時、**<!!!エネルギーフィールド異常探知!>** ライラのスクリーンに、黄色の警報が点滅した!


「まずい!」彼女は叫んだ。「奴らの巡洋艦の一隻が、試作型の重力センサーを搭載しています!まだ私たちの姿は見えていないかもしれないけど、何かがここにいると『感じて』いる!」


その巡洋艦が、ゆっくりとこちらに砲塔を向け始めた。「もう時間がない!」ライトは一瞬で決断した。「ライラ!今すぐ信号を撃て!何が起ころうともだ!」


「でも、まだ近接距離ではありません!信号が妨害される可能性が!」


「他に選択肢はない!やれ!」


ライラは歯を食いしばり、送信ボタンを押した。「ナイトフォール」の腹部から小さな送信アンテナが展開され、見えないデータビームが「ヘカトンケイル」へと真っ直ぐ放たれた。


そして、その瞬間、連邦の巡洋艦が、彼らが潜んでいた位置へと発砲した!ドォン!!!「ナイトフォール」は攻撃を受け、激しく振動した。ステルスシステムが停止し、敵艦隊の目の前で、彼らの姿が暴露された!


「信号は送信完了!でも、30%がブロックされました!」ライラが混沌の中で叫んだ。


「どういう意味だ!?」ギデオンが問い返した。


「つまり、私たちは奴らを『切断』したんじゃない。奴らのシステムを、完全に『バグらせた』のよ!」


「ヘカトンケイル」艦上で、安定していた制御信号がショートした!命令を待っていた機械の群れに、今や何百万もの「誤った命令」が同時に送られた!奴らの光学センサーの目が、赤から黄色へと点滅し、再び赤に戻った。奴らは「機能停止」も、完全な「狂乱」もせず、完全に「予測不能」な軍団と化したのだ!


**<!!!シールド消失!ステルスシステム、完全破損!我々は暴露された!>**


「ナイトフォール」は攻撃の衝撃で一時的に制御を失い、ステルスが解除されたことで、何百隻もの敵艦隊の、唯一の標的となった。


外の光景は、まさに地獄だった。機械の群れは、もはや見境なく攻撃していた!一部は連邦の艦を攻撃し、一部は同士討ちを始めた。しかし、完全に理性を保っている連邦の戦闘艦が、全ての砲門を彼らに向けていた!


「キャプテン!今すぐ離脱を!」ギデオンが叫んだが、ライトは静止していた。彼の視線は、包囲網の中心に浮かぶ指揮艦「ヘカトンケイル」に注がれていた。


「ライラ、さっきの妨害信号、その発生源をもう一度スキャンしろ」彼は、不気味なほど冷静な声で言った。


「馬鹿なことを!時間がありません!」


「今すぐやれ!」


ライラが急いで命令に従うと、彼女は驚愕に目を見開いた。「ありえない…『エレクター=カイ』の信号発生源は、遠くの送信ステーションからじゃない。あの艦自体からよ!『ヘカトンケイル』に、エレクター=カイが搭載されている!」


その言葉に、全員が息を呑んだ。全ての計画が、最初から間違っていたのだ。


そして、ライトは、彼の後頭部に走る、慣れ親しんだ冷たい感覚を覚えた。別の「狩人」に見つめられている、狩人の直感。彼は即座に悟った。(あの囚人、嘘はついていなかった。だが、全てを話してもいなかった)彼は心の中で思った。(スペクターは、ケルベロスに駐留していただけじゃない。脱出したんだ。そして、奴はここにいる。あの艦に!)


突如、「ナイトフォール」が再び激しく揺れた。今度は被弾ではない。


「トラクタービームです!我々の艦を引きずり込もうとしています!」サイラスが報告した。


これは、終わりだ。捕獲される。だが、ライトにとって、それは「好機」だった。

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