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GalacXER 銀河の執行者  作者: Boom
第二章 [反乱軍と同盟の反撃]
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第二章 24

--- 旗艦「ヴィンディケーター」作戦司令室にて ---


今日の雰囲気は、いつもとは異なっていた。これは、「ザン・セクター解放連合軍」として初の公式な戦争評議会だった。


参加者は最高指導者たち、ジャック司令官、ベアトリス提督、そしてウィリアム王子。そして今日、彼らには新たなメンバーが加わっていた。マリアン・コンバインのアリステア司令と、サラダー共和国のエヴァ司令だ。二人は清潔な新しい制服を身にまとい、決意に満ちた表情で立っていた。ライトキャプテンは、オブザーバー兼特殊部隊指揮官として参加していた。


「諸君、ようこそ」ジャックが会議の口火を切った。「ステーション・ケルベロスでの勝利は、我々に最も貴重な贈り物をもたらしてくれた。それは、貴官らお二人だ」


「マリアン・コンバインの名において」アリステアが一歩前に出て、ベアトリス提督に敬礼した。「我が生き残りの兵力は、王室艦隊に合流し、提督のあらゆる命令に従う所存です」


「そして、サラダー共和国情報部の名において」エヴァが続けた。「中央政府はまだこの同盟について関知しておりませんが、私の部隊と私自身は、ジャック司令官の部隊に全面的に参加し、適切な時期が来れば、共和国との連絡大使としての任を果たします」


今や、人類の三大勢力による同盟が、完全に誕生したのだった。


「素晴らしい」ジャックは頷いた。「貴官らが加われば、我々のセクター全域解放計画は、より強固なものとなる。だが、前進する前に、彼を知り己を知らねばならない」


彼はライトの方を向いた。「キャプテン、時間だ」


--- 場面転換:高度セキュリティ独房にて ---


独房の中は冷たく、静まり返っていた。ただ一つの白い照明が、椅子に拘束された囚人の体を照らしている。彼は、ステーション・ケルベロスで捕らえられた第7部隊兵の一人だった。ヘルメットは外され、その若々しい顔には、頑固さと憎しみに満ちた眼差しが浮かんでいた。


ドアが開き、ライトが一人で入ってきた。


「フン…」囚人は鼻で笑った。「誰かと思えば、伝説の『仲間殺し』じゃないか。雑魚の反乱分子どもと英雄ごっこか。自分の手の血が何色か、忘れたようだな」


ライトはその侮辱を無視し、椅子を引きずってきて向かいに座った。第7部隊流の「尋問」、心理戦の始まりだった。


「今、部隊を指揮しているのは誰だ?」ライトは平坦な声で尋ねた。


「死ね、裏切り者」


「お前たちはキメラ計画について、どれだけ知っている?エレクター=カイのことは?」


「俺から何が聞き出せると思っている?俺たちは、お前が耐えきれずに逃げ出した地獄の炎の中で、訓練されてきたんだ!」


ライトは、元同僚の目を深く見つめた。「地獄の炎、だと?違うな。我々は『実験室』で創られた。お前も、俺と同じただの操り人形だ。ただ、お前の手綱がまだ繋がっているだけのな」


その言葉に、囚人はわずかに動揺した。「何を言っている…」


「事実を話している」ライトは続けた。「お前が守ろうと喚いている連邦こそが、機械の群れの侵略の黒幕だという事実をな。奴らは『キメラ計画』で奴らを兵器として操り、ザムを犠牲にし、そして、秘密を守るためなら、ステーション・ケルベロスも、お前たち全員も、犠牲にする準備ができていた」


「嘘だ!」囚人は怒鳴り返したが、その眼差しは揺らぎ始めていた。


「そうか?」ライトはデータパッドを取り出し、エレクター=カイについて告白するソーン博士の音声記録と、惑星ネロルで「地上部隊を見捨てろ」と命じるケイレン将軍のホログラム映像を再生した。


「俺たちは、お前が戦うように訓練された敵ではない」囚人が真実に打ちのめされている中、ライトは言った。「俺たちは、真の『悪魔』を止めようとしている唯一の集団だ」


ライトは立ち上がり、部屋を出ようとした。「よく考えてみろ。お前の真の『主人』は誰なのか。そして、どちらが盲信しているのかをな」


彼は去っていった。元同僚を、彼の世界そのものを崩壊させる真実の中に、一人残して。疑いの種は、敵の最強部隊の心臓部に、蒔かれたのだった。


感情を揺さぶる尋問を終えた後、ライトは心身ともに疲れ果てていた。彼はあてもなく基地の通路を歩き、無意識のうちに、慣れ親しんだ場所、ザムからの難民たちの避難所へとたどり着いた。ホールの片隅で、エララの一団がリラックスして談笑しているのが見えた。それは、彼が無意識に渇望していた光景だった。


最初に彼に気づいたのはエララだった。彼女はすぐに立ち上がり、彼の方へ歩み寄ってきた。彼の疲れた表情と虚ろな目を見て、彼女の直感が、思考よりも先に働いた。


フッ!


彼女は、彼に飛びつくように抱きしめた。それは、恋愛感情などではなく、暖かく、心配に満ちた抱擁だった。見えない戦いから帰ってきた兄を、妹が慰めるような。


「おかえりなさい」エララは、彼の胸に顔をうずめながら小さく言った。「すごく疲れているみたい。大丈夫よ、もう大丈夫だから」


一瞬硬直していたライトは、ゆっくりと力を抜いた。彼は、彼女の頭にそっと手を置いた。彼女の抱擁の暖かさが、彼の心を蝕んでいた冷たさを、少しずつ追い払っていった。


しかし、その穏やかな時間は、長くは続かなかった。


「ライトキャプテン」


氷のように鋭い声が、背後からした。マキが、腕を組んで、いつからそこにいたのか、二人を見つめていた。


「貴様と話がある。今すぐにだ」


その声はいつも通り平坦だったが、ライトは、その中に明確な圧力と「不満」が隠されているのを感じ取った。


ライトは名残惜しそうに、ゆっくりとエララから腕を解いた。彼は、すまなそうに彼女に頷いた。エララは、ライトとマキの間を、理解できないというように交互に見たが、素直に身を引いた。


マキは何も言わずに踵を返し、先導するように歩き出した。ライトはついていくしかなく、エララと仲間たちは、困惑しながらその後ろ姿を見送った。


人気のない通路に着くと、マキは立ち止まり、彼に向き直った。


「感情的な絆は、戦場では負債だ、キャプテン」彼女は、ライトが予期しない言葉で切り出した。「作戦の安全性を損なう。あの娘は、貴様の弱点だ」


「エララか?」ライトは眉をひそめた。「彼女は仲間だ」


「貴様は、彼女の近くにいると自己防衛レベルが低下する」マキは、機械のように分析した。「心拍数は下がり、警戒レベルも低下する。油断した工作員は、死んだ工作員だ。貴様のパートナーとして、その脆弱性を指摘するのが私の義務だ。そして、彼女がその脆弱性だ」


ライトは絶句した。彼は、マキの無表情な顔と、読み取れない二色の瞳を見つめた。(彼女は、このために俺を呼び出したのか?弱点だと?)彼は心の中で思った。(彼女の声、いつもより冷たい。だが、何か…苛立ちのようなものが?)


彼は状況を理解しようと努めた。この女は「ゴースト」、生きた兵器、常に氷のように冷静だったはずの人間。だが、先ほど、彼女がエララを見た時の反応は、機械のものではなかった。それは、何か別の、「所有欲」や「嫉妬」を示すような…。


(彼女は、戦術的な弱点を指摘しているのではない。彼女は…)ライトの腕の中にいたエララの姿が、頭をよぎった。そして、それを冷たい視線で見つめていたマキの姿と、交互に浮かんだ。(…別の女を、排除しようとしている)


その考えは、ライトを驚かせ、思わず笑い出しそうになった。(こんな感情、何て言うんだっけな?嫉妬か?)その考えは、目の前の女にはあまりに馬鹿げていて、似合わないように思えた。だが、考えれば考えるほど、確信が持てなくなった。


ライトは、彼女が予期していたような反論はしなかった。代わりに、彼は薄く、読み取れない笑みを浮かべた。


「君の言う通りだ」彼は平坦に答えた。


そのあっさりとした同意に、マキは一瞬、虚を突かれた。彼女は、彼が反論するか、否定するかを予期していた。「理解しているのなら、彼女とは距離を置け。任務へのリスクとなる」


「同感だ」ライトは続けた。彼は、彼女に一歩近づいた。「絆はリスクだ。感情は脆弱性だ」


彼は、彼女の二色の瞳を深く見つめた。「だからこそ、俺は思う。今の君の振る舞いは、非常に興味深い、マキ」


その言葉は、マキの心に雷のように突き刺さった!彼女の体は、即座に硬直した!


「何を言っている?」彼女は、元の氷のような声を取り繕おうとしながら、問い返した。


「分析している」ライトは、彼女が先ほど使ったのと同じ論理で返した。「君の心拍数はわずかに上昇し、瞳孔は拡大している。そして、明確な任務目的もなく、この会話を始めた。これらは全て、感情的反応の兆候だ」


彼は、再び口の端を上げた。「君こそが、任務の『負債』になりかけているんじゃないのか、マキ?」


!!!


これこそが、トロイの木馬である彼が、初めて「ゴースト」を読み切った瞬間だった!マキの眼差しは、即座に変わった!冷徹さは消え、凍てつくような怒りの炎に取って代わられた。彼女の赤い瞳が、妖しく光ったように見えた。


「私を分析するな、第7部隊」彼女は、侮蔑を込めて彼の古巣の名を呼んだ。


しかし、ライトにとって、その反応こそが、最も明確な肯定だった。彼は正しかった。彼は彼女に勝ちたかったのではない。ただ、理解したかったのだ。


ライトは、圧力を下げるように、一歩下がった。「君を分析しているのではない。俺の『パートナー』を、理解しようとしているだけだ」彼は、真剣な眼差しで彼女を見た。「心配するな、マキ。俺の『弱点』が、任務の邪魔になるようなことはさせない」


彼は一瞬黙り、彼女の心を最も深く突き刺す、最後の言葉を放った。


「…君も、今感じている『何であれ』が、君の任務の邪魔にならないように、せいぜい努力することだな」


そう言うと、ライトは静かに踵を返し、去っていった。一人、通路に取り残されたマキは、立ち尽くしていた。生きた兵器である彼女が、人生で初めて、言葉を失い、自らの感情に混乱していた。ライトは、彼女を見抜いただけではない。彼は、彼女の中に隠された「人間性」を、受け入れていると、告げているのだ。それは、彼女にとって、敵の全軍と戦うよりも、遥かに恐ろしいことだった。


ライトが去ろうとした、その時。フッ!一つの影が、驚くべき速さで彼の前に割り込んだ!ライトが体勢を整える間もなく、マキは片手で彼の胸を軽く押した。しかし、その力は絶大で、彼は数歩後退させられた。


ドン!


ライトの背中が、通路の冷たい金属の壁に叩きつけられた!マキは追いすがり、彼の頭の横の壁に片腕をつき、彼を完全に閉じ込めた。美しくも無表情なその顔が、近づいてくる。ライトが彼女の呼吸を感じられるほど近くに。彼が、その二色の瞳の詳細をはっきりと見ることができるほど近くに。


冷たい青い瞳と、彼がこれまで見たことのない、何か感情に揺れる赤い瞳。それは怒りではない。それは、混乱か?所有欲か?


「調子に乗るな、キャプテン」マキは冷たく囁いた。「私を読み切ったと思うな」


彼女が何かを言いかけた、その時。


「ライトキャプテン?」


丁寧で、格式ばった声が、全ての緊張を断ち切った。二人がそちらを見ると、マリアン・コンバインの清潔な白い装甲服を着た王室護衛官が立っていた。彼は丁重に敬礼したが、その視線は、壁際に立つ二人の姿に、わずかな驚きを浮かべていた。


「お邪魔して申し訳ありません。ステラ王女殿下より、至急の伝言でございます。殿下は、貴官に可及的速やかな拝謁を望んでおられます」


マキは、まるで夢から覚めたかのように、一瞬動きを止めた。彼女の目の炎は消え、瞬時に元の氷のような冷たさに戻った。彼女は腕を下ろし、何事もなかったかのように身を引いた。


ライトは、不思議な安堵感を覚えながら、軽く咳払いをして気を取り直し、護衛官に頷いた。「わかった。案内を頼む」


彼が、通路の角を曲がる前、彼は振り返らずにはいられなかった。マキは、まだ元の場所に立っていた。がらんとした通路に、ただ一つの孤独な影として。彼女の視線は、彼を追っていた。何の感情も読み取れない、そしてそれ故に、最も恐ろしい視線で。

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