第一章 23
--- **救出任務** ---
アリステア司令とエヴァ司令と共に立つライトは、頷いた。「よし!全員、私に続け!」
今や任務は、救出作戦へと変わった。ライトは、解放されたばかりの捕虜たちを率いて、混沌の中を突き進んだ。彼らは、既にエリアを確保していた「ウォー・ハウンド」部隊の支援を受けた。
敵が士気を失い、四方八方から攻撃を受ける中、戦闘は容易なものとなった。彼らは、戦闘が依然として激しく続く、主ハンガーベイまでたどり着いた。
マキとサイラスが、待機している最後の降下艇を、援護射撃していた。「全員、乗れ!」ライトは叫んだ。
彼は、最後の捕虜が安全に乗り込むまで、殿となって援護射撃を続けた。そして、彼が最後に飛び乗ると、後部ランプが閉まり、間もなく終焉を迎えるステーション・ケルベロスから、離脱した。
--- **旗艦「ヴィンディケーター」艦橋にて** ---
ライトが艦橋へ入ると、そこには、ジャック司令官とベアトリス提督が待っていた。彼の傍らには、アリステア司令とエヴァ司令がいた。元捕虜である彼らは、今や、より強固になった新たな同盟の象徴だった。
全員が、メインスクリーンに映る、内部から破壊され、最後の火の玉となって爆発するステーション・ケルベロスの姿を見つめていた。不可能に見えた任務は、成功したのだ。
「報告します、司令官」ライトは言った。「任務成功。サラダーからの同盟者と、マリアン・コンバインの兵力を奪還しました」
ジャックは、彼を見て、心からの誇りに満ちた笑みを浮かべた。「よくやった、キャプテン」
戦争はまだ終わらない。しかし、この日の偉大な勝利は、希望の炎を、宇宙全体に燃え上がらせた。
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ステーション・ケルベロスでの任務が完全に完了した後、ライトと彼のチームは、旗艦へと帰還し、報告を行った。雰囲気は、かつてないほどの喜びと安堵感に満ちていた。ジャック司令官は、連合の指導者たちの前で、ライトを称賛した。
「任務を成功させただけではない。君は、我々に、新たな同盟者と、貴重な情報をも、持ち帰ってくれた」
彼は、今やインワン・フリーダムの管理下に置かれた、静かなステーション・ケルベロスの映像を見た。「今や、我が艦隊は、残存する連邦軍を、完全に掃討した。そして、我々は、大きな贈り物も、手に入れた」
ジャックは、意味ありげに微笑んだ。「生き残っていた、第7部隊兵を、数名、捕らえた。今、彼らは、我々の独房で、『尋問』を待っているところだ」
彼は、会議室の全員を見回した。「そして、このステーション・ケルベロスについては、インワン・フリーダムの名において、これを、接収すると、宣言する!」
その宣言に、ウィリアム王子は、わずかに眉をひそめたが、ジャックは、すぐに説明を続けた。
「心配はご無用。ここで得られる全てのものは、『同盟』全体の、利益のために、使われる」彼は言った。「このステーションは、宝の山だ。我々が得られる、最高の、兵器生産拠点となるだろう」
「そこは、我々が鹵獲した、核兵器を保管するのにも、最適だ」ジャックは、真剣な声で続けた。「そして、そこにはまだ、我々が、後で解き明かすべき、連邦の秘密が、数多く、眠っている」
彼は、ベアトリス提督に向き直った。「提督、貴官の艦隊には、惑星マリア解放任務の準備のために、十分な休息と、整備を行っていただく。このステーションからの、兵器の改造と生産については、我々、インワン・フリーダムの、任務とさせていただきたい」
それは、理に適った、役割分担だった。この日の勝利を、明日の、より偉大な勝利へと、繋げなければならない。
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ステーション・ケルベロスでの勝利は、連合艦隊全体の士気を高める大きなニュースとなった。最も重要な秘密基地を破壊し、連邦の技術を奪取したことは、この戦争に、本当に勝てる可能性があることを、皆に知らしめたのだ。
基地「合流点」の中央食堂は、かつてないほど活気に満ち、笑い声に溢れていた。インワン・フリーダムの兵士と、「ウォー・ハウンド」の傭兵たちが、盛大に祝杯をあげていた。
「そんで、俺がその関節に爆弾をねじ込んでやったのさ!ブーム!あのゴライアスはスクラップよ!ハハハ!」ギデオンが、レックス中尉を相手に、自分の武勇伝を夢中で語っていた。「腕は悪くないな、素人にしては」傭兵がからかい、歓声と笑いが沸き起こった。
別のテーブルでは、ライラが静かにデータパッドで何かを分析し、向かいにはサイラスが座り、静かな目でその喧騒を眺めていた。
そして、ライトとマキは、食堂の最も暗い隅のテーブルで、それぞれ静かに飲んでいた。言葉はなかったが、二人にとって、この沈黙こそが、共に乗り越えてきたことへの受容と理解だった。それが、彼らなりの休息だった。
--- **母艦「ウィンターズ・クレスト」王室応接室にて:英雄の帰還** ---
アリステア司令は、支給されたばかりの清潔な白い制服を着て、直立していた。その目には、この上ない興奮と緊張が浮かんでいた。
応接室のドアが開かれ、ウィリアム王子とステラ王女が入室された。
「王子殿下!王女殿下!」アリステアは、忠誠を込めて即座に膝をついた。「お二方のご無事を、心よりお慶び申し上げます!」
「お立ちなさい、アリステア司令」ステラ王女が、先に歩み寄り、その声は暖かさに満ちていた。「貴方が私たちに膝をつく必要はありません。感謝すべきは、私たちの方です。あの日の貴方の犠牲が、私たちが逃げ延びることを可能にしたのです」
「貴官はマリアン・コンバインの名誉を完璧に守り抜いた、司令」ウィリアム王子が付け加えた。「貴官の名は、歴史に刻まれるだろう」
その賞賛の言葉に、アリステア司令は顔を真っ赤にし、言葉に詰まり、恥ずかしそうに俯いた。「王女殿下のためとあらば、この身、千度でも捧げます!」
ステラ王女は優しく微笑んだ。「そこまでする必要はありませんわ、司令。貴方が無事に戻ってきてくださったことが、何よりです」彼女は言った。「いつか、私たちが惑星マリアを取り戻した暁には、感謝の印として、王宮の庭へ、個人的にお茶にお招きいたしますわ」
!!!
その言葉は、アリステアの心に雷のように突き刺さった!彼の、最大の夢!彼は一瞬硬直し、人生で最大の声で答えた。「は、は、はい!王女殿下!!!」
--- **展望室にて:キャプテンの思索** ---
宴を抜け出した後、ライトは再び静かな展望室に戻ってきた。彼は目の前に広がる、きらびやかな艦隊を眺めた。今日出会った、様々な人々の顔が頭に浮かんだ。勝利と楽しみのために戦うギデオンとレックス、王家への忠誠のために戦うアリステア、自らの過去を消し去るために戦うマキ、新しい故郷を作るために戦うエララ、美しいものを守るために戦うステラ王女。
では、自分は?自分は一体、何のために戦っているのだろう?
彼は、ポケットから乾いた「冬氷華」をそっと取り出した。ステラ王女の言葉が、頭の中で響いていた。「静かに生命が育まれる場所」。彼は、エララが子供たちに本を教えていた時の笑顔を思い出した。
もしかしたら、答えは、彼が思っていたよりも、ずっと単純なのかもしれない。もしかしたら、彼はただ、あのような光景をもう一度見るために、戦っているだけなのかもしれない。




