第一章16
**ヴァルハラ・ステーション、傭兵たちの巣窟にて**
少し薄汚れた姿のライトとライラは、二人の重装甲の傭兵に付き添われ、あらゆる場所から集まった傭兵たちで溢れる通路を歩いていた。
ここには、海賊の巣窟のような混沌はなく、秩序ある力強さと、危険な雰囲気が満ちていた。
彼らは、司令室へと案内された。
戦争兵器の残骸から作られた玉座には、片腕が機械、片目が赤いサイバネティックレンズの、大柄な男が座って待っていた。
彼こそが、「ヨーリック司令官」、ヴァルハラ傭兵部隊の最高指導者だった。
「インワン・フリーダム…」
ヨーリックの声が、嗄れた合成音声となって響いた。「連邦の関所を突破して、ここまで来るとはな。お前たちは、勇敢か、あるいは、愚かのどちらかだ。そして、ヴァルハラの司令官は、そのどちらのタイプの人間とも、時間を無駄にはしない」
彼は、瞬きしないサイバネティックの目で、ライトを見つめた。「お前たちの用件を言え。そして、俺の時間を無駄にするな」
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ヨーリック司令官の嗄れた合成音声が、静まり返った司令室に響き渡った。
ライトは、サイボーグの重装甲に身を包んだ護衛兵たちが、彼に襲いかかろうとするかのように身じろぎしたにもかかわらず、恐れることなく、その男の赤いサイバネティックの目と向き合った。
「あなたの時間は貴重だ。我々の時間も、同様に」ライトが、口火を切った。「単刀直入に言おう。インワン・フリーダムは、ブラッドムーン連邦との全面戦争を開始する。そして、我々は、あなたの全軍を、この戦いに雇い入れたい」
その尊大で、直接的な言葉に、部屋にいた何人かの傭兵が、静かに笑った。
「連邦との戦争だと?」ヨーリックは、笑った。
それは、金属が擦れ合うような、乾いた笑い声だった。
「俺は、反乱グループを、山ほど見てきた。奴らは立ち上がり、そして、死んでいった。奴らは皆、同じ結末を迎える。金も払えない、ただの死体になるだけだ。連邦には、お前たちの兵士一人に対して、百万人もの兵士がいる。お前たちの『戦争』は、ただの『集団自殺任務』だ。そして、俺は、誰かの理想のために、俺の部下を死なせはしない」
「それは、以前の話だ」
ライトは、即座に言い返した。「連邦が、その弱さを露呈する前の。奴らが、『機械の群れ』という見えざる敵に攻撃され、陣形を乱される前の。そして、三大勢力のうちの二つが、手を組む前のな」
その言葉に、部屋の笑い声は静まった。
ヨーリックのサイバネティックの目が、わずかに細められた。「マリアン・コンバイン王国…ベアトリス提督の、誇り高き艦隊が、ジャックの亡霊と手を組んだと…面白い」
「だが、絶望した者たちの同盟が、勝利を保証するわけではない」ヨーリックは続けた。
「それは、ただ、葬式を盛大にするだけだ。金はどうだ?戦争には金がかかる。お前たちは、どこから、俺に払う金を、持ってくる?」
「ここからです、司令官」
ライラが、一歩前に出た。
彼女は、携帯用のホログラムを起動させ、部屋の中央に、惑星ネロルの3D映像と、複雑な地質スキャンデータを映し出した。
「惑星ネ-ロル。初期評価によれば、地表下の『ネオ・タイベリウム』鉱床は、闇市場で、500兆クレジット以上の価値があります」彼女は、よどみなく言った。
「我々は、雇用契約を提案します。5年間の、全生産量の20%の分配。加えて、惑星の解放に成功した暁には、莫大な初期契約金を、即金で」
ヨーリックは、武器の玉座に、背をもたせかけた。
「まだ、手に入れてもいない星の、20%の分配か。随分と、大胆だな」
彼の赤い目が、再び、ライトを捉えた。「言ってみろ、キャプテン。お前は、かつて、第7部隊にいた。連邦が、どう動くかを、よく知っているはずだ。何が、お前に、他の者たちが、これまで失敗してきた戦争で、『お前』が勝てると思わせる?」
ライトは、その機械の目を、油断なく見つめ返した。「なぜなら、今回、私は、理想のために戦うのではない」彼は、平坦に言った。
「私が戦うのは、二つの、致命的な過ちを犯した、敵だ。一つ目、奴らは、『機械の群れ』を、過小評価した。そして、二つ目は…」
「…奴らは、私を、敵に回した」
冷たい沈黙が、部屋を支配した。
その言葉は、シンプルだったが、声に込められた決意は、鋼鉄の山のように、重かった。
ヨーリックは、長い間、黙っていたが、やがて、ゆっくりと頷いた。
「フン…その覚悟。この時代では、希少な商品だ」彼は言った。
「よかろう。俺の全戦力を、ただの『約束』に、賭けるつもりはない。だが、俺も、ギャンブラーの一人だ」
「俺の、最高の一個中隊を、貸してやろう。『戦場の猟犬(War Hounds)』。俺の、最高の中尉が率いる部隊だ。奴らは、惑星ネロルの解放作戦に、お前たちと共に参加する」
「もし、お前たちが成功し、星と鉱床を、本当に手に入れたなら、その時は、ヴァルハラ・ステーションと、俺の全軍が、お前たちの指揮下に入るだろう。もちろん、相応の、値段でな」
「だが、もし、お前たちが失敗すれば…」
彼の目は、細められた。「…俺の『戦場の猟犬』が、お前たちの死体から、報酬を、回収することになる。これで、合意か?」
「合意だ」
ライトは、短く、力強く、応じた。
「いいだろう!」
ヨーリックは、初めて、笑みを見せた。金属の歯が、現れた。「レックス中尉!出ろ!」
特別に改造された重装甲の、一人の男が、影から、現れた。
彼の体は、ガーよりも、一回り大きく、鎧の至る所に、戦闘による傷跡が刻まれていた。彼は、ヨーリックに頭を下げた後、戦いを渇望するような目で、ライトを見つめた。
「これより、『戦場の猟犬』は、お前の指揮下に入る。キャプテン・ライト」ヨーリックは言った。「俺を、失望させるなよ」
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宇宙戦争は、本格的に勃発した!旗艦「ヴィンディケーター」が率いるインワン・フリーダムの艦隊は、連邦の「タイラント」艦隊と、激しく衝突した。双方の小型戦闘艦が、狂った蜂の群れのように、弾丸を撃ち合った。
そして、同盟派の、切り札が、到着した。
母艦「ウィンターズ・クレスト」が、連邦の陣形の上空の次元から、ワープアウトした。
その巨大で、優雅な姿は、星々の光を完全に遮り、やがて、主砲「氷の牙(Ice Fang Cannon)」が、閃光を放った。
巨大な、極低温の青いエネルギー光線が、カレン将軍の母艦「タイラント」に、直撃した!
連邦の母艦は、大破し、エネルギーシールドは砕け散り、側面の装甲は引き裂かれた。
ブリッジにいたカレン将軍は、自分が、敵を過小評価していたことを、即座に悟った。「撤退だ!全艦に、今すぐ撤退を命じろ!」彼は、狂ったように命じた。
「地上の兵士たちは、見捨てろ!生き延びるのだ!」
士気を失った連邦艦隊は、無秩序に撤退を始め、同盟艦隊は、奴らを、惑星ネロルの星系から、完全に追い出す、好機を得た。
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**惑星ネロルの地上にて**
母艦の撤退は、地上の連邦兵にとっての、終わりを意味した。
上官に、見捨てられたと知った、彼らの士気は、崩壊した。
そして、その瞬間、革命派の増援が、到着した。
「戦場の猟犬」の、数隻のドロップシップが、戦場の真ん中に着陸した。レックス中尉が率いる、重装甲の傭兵たちが、マキのチームと、住民の反乱グループに合流するために、現れた。
彼らは、生き残った連邦兵を、最後の波として、包囲し、掃討した。
戦闘は、最後の連邦兵グループの、降伏の宣言と共に、終わった。惑星ネロルは、解放された。
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**ライトの帰還**
その歓喜の中、ステルス艦「ラッティカーン」は、生き残った戦闘の中を、無事に、同盟艦隊へと帰還した。
ライトは、艦を、旗艦「ヴィンディケーター」に着艦させ、即座に、ブリッジへと向かった。
彼は、ジャックとベアトリス提督が、既に、ホログラムスクリーンで、勝利の光景を見つめているのを、見た。
「司令官、提督」ライトは、敬礼した。
「交渉は、成功裏に終わりました」彼の隣に、レックス中尉のホログラム映像が現れた。「『戦場の猟犬』中隊は、雇用契約の準備ができています、司令官」「ポート・スクラップヤードの、キャプテン・ヴァレリアーナも、ここでの我々の成功を条件に、合意しました」ライトは続けた。
「彼らの、秘密の輸送ルートと、情報網は、今や、我々のものです」
ジャックは、ライトに、向き直った。
そして、心からの、そして、最も誇らしげな笑みが、彼の顔に、現れた。「よくやった、キャプテン」彼は言った。「君は、ただ、傭兵を連れてきただけではない。君は、我々に、軍隊と、ネットワークを、もたらしたのだ。見事だ」
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**希望の夜明け**
今や、戦争は、完全に、その様相を変えた。惑星ネロルでは、同盟派のエンジニアと労働者のチームが、即座に、「ネオ・タイベリウム」鉱石の、収穫を開始した。彼らは、二つの新たな同盟者、海賊と傭兵への、信頼を築き、報酬を支払うために、昼夜を問わず、働いた。
旗艦「ヴィンディケーター」のブリッジにて、革命派の指導者たちは、未来を見つめていた。
「惑星ネロルからの資源と、我々の新たな同盟者と共に…」
ベアトリス提督は、初めて、希望に満ちた声で言った。
「…ついに、我々は、惑星マリアを、我々の故郷を、奪還するための、計画を立てるだけの、十分な戦力を、手に入れた」
ライトは、天体図の映像を見つめていた。
黒く変色した、惑星サム。同盟派の、青色になったばかりの、惑星ネロル。
そして、その遥か向こうには、まだ、敵の、赤色である、惑星マリアが。
戦争は、まだ、長い。
しかし、今や、彼らは、もはや、影の中に隠れる、小さな反乱グループではなかった。全てを、取り戻す準備ができた、「サン・セクター解放軍」だった。
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ライト、レックス中尉、そして、キャプテン・ヴァレリアーナ(ホログラムを通じて)が、二つの新たな同盟の、締結成功を報告した後、旗艦「ヴィンディケーター」のブリッジの雰囲気は、これまでにない、希望に満ちていた。
「素晴らしい、キャプテン」ジャックは、満足げに、ライトに言った。「今や、我々には、軍隊も、ネットワークも、資金もある。我々に欠けているのは、ただ一つ。我々の、真の敵が、何であるかを知ることだ」
全員の視線が、最高の解読チームによって、分析されている、「プロジェクト・キメラ」の、ハードディスクに、注がれた。
「ライラも、解読チームに加わっている」
ジャックは、付け加えた。「彼女の報告によれば、データは、複雑に暗号化されているが、イージスステーションの破壊が、予備のキーサーバーを、損傷させたようだ。それが、我々に、隙を与えた。彼女は、予想よりも、はるかに早く、解読できるだろう、と考えている」
まるで、ジャックが話し終わるのを、待っていたかのように、情報部の士官のコンソールで、警告音が鳴った。「司令官!データが、データが、解読されました!メインホログラムスクリーンに、転送します!」
ブリッジにいる全員が、一斉に、メインスクリーンに、目を向けた。
現れたのは、兵器の設計図ではなかった。それは、複雑な、「制御信号」の、動作図だった。
そして、最高機密の、実験記録の、ビデオクリップが、添えられていた。
目にした光景に、誰もが、言葉を失った。
それは、連邦の科学者からの、「命令」によって、模擬標的を攻撃する、機械の群れの映像だった。
奴らは、まるで、操り人形のように、一斉に動いていた。
「神よ…」
ベアトリス提督は、静かに、呟いた。彼女の顔は、真っ青だった。
「惑星マリアでの攻撃は、侵略ではなかった。それは、自作自演だったのだ!」
「奴らは、機械の群れを、生物兵器として、使っていたのだ…」
ウィリアム王子は、怒りに震える声で言った。「我々を、排除するために。自らが、救世主となる、状況を作り出すために。あの、獣どもめ!」
恐るべき真実が、暴かれた。
ブラッドムーン連邦は、ただの独裁者ではなかった。
奴らは、起こった全ての災厄の、背後にいた、戦争犯罪者だったのだ。
ジャックは、血管が浮き出るほど、固く、拳を握りしめた。
「惑星マリアだけではない。惑星サムもだ。奴らは、意図的に、惑星全体が、飲み込まれるのを、許したのだ。奴らの、実験の痕跡を、隠蔽するために」
彼は、ライトに、向き直った。
彼の眼差しは、冷徹な、決意に満ちていた。「キャプテン。我々の、計画は、変わった。今、惑星マリアを解放するために、突撃することは、我々の艦隊を、連邦の、機械の群れに、差し出すことと、同じだ」
恐るべき真実が、暴かれた。
ブラッドムーン連邦は、機械の群れの侵略の、背後にいたのだ。
ジャックは、血管が浮き出るほど、固く、拳を握りしめた。
「惑星マリアだけではない。惑星サムもだ。奴らは、意図的に、惑星全体が、飲み込まれるのを、許したのだ。奴らの、実験の痕跡を、隠蔽するために」
彼は、ライトに、向き直った。
彼の眼差しは、冷徹な、決意に満ちていた。「キャプテン。我々の、計画は、変わった。今、惑星マリアを解放するために、突撃することは、我々の艦隊を、連邦の、機械の群れに、差し出すことと、同じだ」
「待て」
ジャックは、手を上げた。「それだけではない。君が、聞かなければならないことがある」
彼は、再び、制御パネルに触れ、ホログラムスクリーンは、解読された、音声ファイルに、切り替わった。それは、一人の、連邦の科学者の、音声記録だった。
『実験記録 734。ドクター、アリス・ソーン。プロジェクト・キメラ』その声は、興奮と、恐怖の、両方で、聞こえた。『試作機「エレクトー・カイ」は、予想以上に、良好に機能している。ハイブ信号は、機械の群れの、集合意識を、抑制することができる。これにより、下級の生命体は、我々の命令を、完全に、受け入れる』
『しかし、しかし、その安定性には、まだ、問題がある。ほんの一瞬の、信号の、中断が、奴らを、自由にするだけではない。それは、恐ろしい、逆連鎖反応を、引き起こす。奴らの、攻撃的な、本能が、何千倍にも、増幅される。奴らは、もはや、制御不可能な、「狂乱」状態に、陥る。真の、災厄と、化す』
『最高司令評議会は、これを、「欠陥」ではなく、「特殊機能」と、見なしている。最終的な、焦土作戦の、メカニズムのようなものだと。しかし、私は、恐ろしい。我々が、作り出したものは、「手綱」ではないのではないかと。我々は、ただ、「爆弾の、ピン」を、手にしているだけなのではないかと』
音声ファイルは、終わった。
ブリッジには、不気味な、静寂だけが、残された。
「神よ…」
ベアトリス提督は、呟いた。「ならば、あの信号ステーションを、破壊するということは…」
「そうだ」
ジャックは、平坦に、返した。「あのステーションの、支配下にある、全ての、機械の群れが、狂乱する。それは、連邦自身の、艦隊さえも、例外なく、全てのものを、攻撃するだろう。それは、最も、危険な、諸刃の剣だ」
彼は、再び、ライトに、向き直った。
彼の眼差しは、期待と、重圧の、両方で、満ちていた。「君の、任務は、変わらない、キャプテン。だが、その賭け金は、以前よりも、何倍にも、跳ね上がった」




