第一章15
**ポート・スクラップヤード、無法地帯にて**
ステルス艦「ナイトフォール」は、艦船の残骸と金属屑で埋め尽くされたドッキングベイに、危なっかしい様子で着陸した。
ここの雰囲気は、混沌と危険に満ちていた。
屈強な男たちや、恐ろしい姿の異星人たちが、重武装して行き交っている。
全ての視線が、敵意を込めて彼らに注がれた。
「あまり、歓迎されているようには見えないわね」
ライラが、ライトの隣で囁いた。「奴らは、誰も歓迎しないさ。金以外はな」ライトは返した。
彼らは、巨漢の海賊に案内され、賑やかな闇市を抜け、ステーションの中心部、海賊のリーダーの司令室へと向かった。
そこは、豪華な部屋ではなかったが、高等級の戦闘艦の残骸を、巧みに改造して作られていた。壊れた戦艦のパイロットシートから作られた「玉座」には、一人の女性が待っていた。
彼女は、長く編み込まれた燃えるような赤い髪と、片目を横切る傷跡を持っていた。彼女こそが、「キャプテン・ヴァレリアーナ」、通称「鉄屑の女王」だった。
「インワン・フリーダム…」
ヴァレリアーナは、嘲りが込められた声で言った。
「てっきり、撃ち合うことしか能がないと思っていたが。我々のような、しがない『商人』と、交渉するために時間を無駄にするとはな」
「今日、我々は、兵士として来たのではない」
ライトは、冷静に返した。彼は、恐れることなく、海賊の女王の目をまっすぐに見つめた。
「我々は、ビジネスマンとして来た。ビジネスと、そして、生き残ることについて、話すために」
ヴァレリアーナは、静かに笑った。
「生き残る?死にかけているのは、お前たちの方だろう。お前たちの、その小さな艦隊で、連邦に何ができるというんだ」
「我々の敵は、もはや、連邦だけではない」ライトは言った。「『機械の群れ』に関する噂は、耳にしているだろう」「噂は、噂だ」ヴァレリアーナは言い返した。
「子供を脅すための、作り話さ」
「作り話ではない」
ライラが、一歩前に出た。彼女は、携帯用のホログラムプロジェクターを起動させた。
戦闘艦を八つ裂きにする機械の群れの残忍な映像と、黒く変色するまで飲み込まれた惑星サムの映像が、部屋の中央に現れた。
「これは、二日前の、我々のセンサーからのデータだ。これが、我々全員に、訪れようとしているものだ」
ヴァレリアーナの顔から、笑みが消えた。
彼女の眼差しは、険しくなった。
「それが、私に何の関係がある?」
「大ありだ」
ライトは続けた。「今、連邦は混乱している。奴らは、自らの交易路を守ることさえできていない。あなたのビジネスは、破綻寸前だ。そして、機械の群れが連邦を片付けた後、奴らが、誰が中立で、誰が海賊かなんて、気にすると思うか?奴らは、全てを喰らう。あなたの、このステーションもな」
ヴァレリアーナは、玉座に背をもたせかけた。
「面白いことを言う。それで、お前たちの提案とは何だ?」
「我々は、惑星ネロルを制圧するつもりだ。あなた方が欲しがる、希少鉱物の産地をな」ライトは言った。
「我々は、物資の輸送と脱出のルートとして、あなた方のネットワークと秘密の航路が必要だ。その見返りとして、あなた方に、惑星ネロルの鉱物を闇市場で独占的に取引する権利を与える。あなたは、このセクターで、最も裕福な人間になるだろう」
ヴァレリアーナは、長い間、考え込んだ。
「面白い提案だ。死にかけている人間にしてはな」彼女は、冷酷に笑った。
「何が、お前たちに、惑星ネロルを制圧できると思わせる?」
「我々には、失うものがないからだ」
ライトは、即座に返した。「我々は、生き残るために戦う。しかし、あなた方は、金のために戦う。今や、その二つは、同じものになろうとしている。我々の軍は、間もなく、あなたの家の玄関先まで広がる戦争を、戦っている。我々は、あなたに、勝者のテーブルの席を、提供している。もう一つの選択肢は、機械どもの、テーブルの上の、食事になることだけだ」
再び、部屋に沈黙が訪れた。
ヴァレリアーナは、ライトを睨みつけ、やがて、高らかに笑った。「ハハハ!気に入ったぜ、その目つきがな、元第7部隊。傷ついているが、まだ、死ぬまで噛みつく覚悟のある、狼のようだ」
「こうしようじゃないか」
彼女は言った。「まずは、惑星ネロルを、私の目の前で、制圧してみせろ。お前たちが、ただ死にかけている、狂信的な反乱グループではないことを、証明してみせろ。お前たちに投資することが、『価値ある』ことだと、私に見せてみろ」
「そして、その後で、我々は、『ビジネス』の話をしようじゃないか」
ライトは頷いた。
即座に同盟を結ぶことはできなかったが、彼は、協力の種を蒔いたのだ。
今のところ、全ては、惑星ネロルでのマキの任務の成功に、かかっていた。
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炎と黒煙が、惑星ネロルの首都の空へと、渦を巻いて立ち上っていた。
マキの攪乱任務は、見事に成功した。
長く抑圧されてきた住民は、流された噂に従い、反旗を翻した。
ギデオンと、潜伏していたゴースト部隊が率いる、小規模なサボタージュが、駐留する連邦軍に混乱をもたらし、奴らは、都市の多くのエリアで、制御を失っていた。
マキは、最も高い超高層ビルの屋上に立ち、高解像度の双眼鏡で、自らの戦果を見つめていた。全ては、計画通りだった。
しかし、その時、彼女の頭上の空が、暗転し始めた。
それは、雲ではなかった。
大気圏を突き抜けて降下してくる、巨大な戦闘艦の影だった。
「これは、何だ…」
近くに潜んでいたサイラスが、コムリンクを通じて囁いた。「増援か…」
マキは、冷たく返したが、その心の中では、異常を感じていた。「早すぎる。そして、あまりにも、大きすぎる」
無数の、連邦の戦闘艦が、空を埋め尽くした。そして、最も恐ろしいのは、首都の上空にゆっくりと浮かぶ、巨大な「天空の要塞」と、マリアン・コンバインの「ウィンターズ・クレスト」と、同等の大きさを持つ、新しい母艦だった。
そして、突如、惑星上の全ての通信チャンネルが、乗っ取られた。連邦の高等級将軍の制服を着た、一人の男のホログラム映像が、都市中に現れた。彼の顔は平坦だったが、その眼差しは、残忍さに満ちていた。
『…惑星ネロルのテロリストどもへ。お前たちの、お遊びは終わりだ』彼の声は、響き渡った。『…私は、第3強襲艦隊「タイラント」の、カレン将軍だ。素直に降伏せよ。さもなくば、歴史から消え去るがいい』
惑星ネロルの状況は、最悪の事態へと、陥っていた。
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**同時刻、旗艦「ヴィンディケーター」のブリッジにて**
「司令官!惑星ネロルの星系で、大規模なワープアウトを検知!連邦の艦隊です!」
レーダー士官が、大声で報告した。
メインホログラムスクリーンには、威圧的な「タイラント」艦隊の映像が現れた。
何人かの士官の顔に、パニックの色が浮かんだ。
彼らは、完全に、罠にはまっていた!
しかし、ジャックは、静かに立っていた。
彼の視線は、スクリーン上のデータを、素早く分析していた。
「奴らの艦隊は大きいが、護衛の戦闘機の数が、少なすぎる。そして、重巡洋艦は、ほんの一握りだ」彼は、独りごちた。
「これは、主力艦隊ではない。最も強力な、迅速対応部隊だ。奴らは、自信過剰だ」
「どうなさいますか、司令官?」ヴァレリウス司令官が尋ねた。「我々のチームが、あそこに閉じ込められています!」
ジャックは、別の通信スクリーンに目を向けた。
そこには、既に、ベアトリス提督の姿が映し出されていた。
「提督。どうやら、連邦は、彼らの女王を、この盤面に、送り込んできたようだな」ジャックは言った。
「奴らの艦隊は強力だ。だが、まだ、全戦力ではない」
「我が艦隊は、まだ、修理が完了していない。全面戦争は、不可能です」ベアトリスは、正直に返した。
「あなたの、全艦隊が必要なわけではない」
ジャックは、言い返した。彼の眼差しは、輝いていた。「私が必要なのは、あなたの、『城』だけだ。『ウィンターズ・クレスト』は、疑いようもなく、このセクターで最も強力な戦闘艦。奴らが母艦を送ってきたなら、我々も、我々の母艦で、応戦する!」
彼は、地図を指差した。
「あなたの旗艦を、この座標へワープさせろ。我々の艦隊が、前衛となって突撃し、突破口を開く。そして、『ウィンターズ・クレスト』の主砲で、奴らの母艦を、直接破壊する!我々は、蛇の頭を切り落とし、そして、我々の部下を、奪還する!」
それは、無謀で、極めて危険な計画だった。
ベアトリス提督は、その計画を、静かに見つめていた。
やがて、彼女は、断固たる決意で、ゆっくりと頷いた。
「マリアン・コンバイン王国の、栄誉のために。『ウィンターズ・クレスト』は、参戦する」
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**再び、惑星ネロルにて**
マキは、まだ、ビルの屋上に、静かに立っていた。
地上へと兵士を輸送し始める、連邦軍を見つめていた。
状況は、絶望的に見えた。しかしその時、ジャックの声が、彼女のイヤホンに響いた。
『マキ、持ちこたえろ。我々は、今、向かっている』
『そして、我々は、吹雪を、連れて行く』
ジャックの声が終わると、マキは、再び空を見上げた。どこか、遠くで、
同盟結成以来、最大の宇宙戦争が、今、勃発しようとしていた。
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戦争の渦へと、突入しようとする同盟艦隊の中心部。マリアン・コンバインの母艦の、美しいブリッジの中では、これまでにない、緊張感が漂っていた。
「提督!ジャック司令官の計画は、あまりにも無謀です!」
ウィリアム王子が、焦った声で抗議した。「彼は、我々に、旗艦を、王国全体の象徴を、衝突の最前線に、危険に晒せと言うのですか!」
ベアトリス提督は、ホログラムスクリーンの前で、静かに立っていた。「計算された、リスクです、王子。ジャック司令官の評価は、正しい。カレン将軍の艦隊は強力ですが、急遽、送られてきた部隊。今、迅速かつ断固たる衝突を行うことこそが、我々が、優位性を取り戻すための、最良の機会です」
「しかし、もし、我々が『ウィンターズ・クレスト』を失えば、我が民の士気は、崩壊しますぞ!」ウィリアムは、反論した。
「お兄様…」
ステラ姫の、澄んだ声が、割り込んだ。彼女は、兄の隣に歩み寄った。
「インワン・フリーダムの兵士たちは、彼らが知ることもなかった惑星を解放するために、命を懸けようとしています。我々が、共に受け入れたばかりの、理想のために。もし、我々が真の同盟者であるならば、彼らが我々の代わりに血を流している間、我々が、盾の後ろに隠れていることなど、できるでしょうか」
彼女は、兄の瞳の奥を、覗き込んだ。
「我々は、彼らに、見せなければなりません。マリアン・コンバイン王国の、栄誉と、勇気を」
妹の言葉に、ウィリアム王子は、黙り込んだ。
栄誉、そして、義務。彼が、一生をかけて教えられてきたこと。「分かった…」
彼は、ついに、認めた。「王国の、栄誉のために。提督、我が艦を、ワープの準備へ」
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**(シーンカット:惑星ネロル)**
爆発音と銃声が、まだ、首都中に鳴り響いていた。
マキは、影の中を、亡霊のように動いていた。
彼女は、手の中の高エネルギー刀で、グループから離れた連邦兵を、静かに、そして、迅速に、葬り去っていた。
一方、ギデオンとサイラスは、住民の反乱グループと共に、激しいゲリラ戦を、戦っていた。
彼らは、時間を稼いでいた。一秒、一秒を、血と、命で。
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**(シーンカット:ライトのステルス艦「ナイトフォール」)**
ポート・スクラップヤードから離脱した後、ライトとライラは、ステルス艦「ナイトフォール」を、傭兵たちの拠点である「ヴァルハラ・ステーション」へと、危険なことで知られる小惑星帯を、航行していた。
「警報!」
ライラが叫んだ。「連邦の偵察艇、三隻!奴ら、待ち伏せしていたわ!」
小型ながらも俊敏な、三隻の連邦戦闘艦が、小惑星の影から飛び出し、即座に、彼らに攻撃を開始した!
「しっかり掴まってろ!」
ライトは叫び返し、自ら操縦桿を握った。
眠っていた、戦闘機パイロットとしての本能が、再び目覚めた。
ステルス艦「ナイトフォール」は、プラズマ弾の雨を、紙一重で避けた。ライトは、巨大な小惑星へと、機体を急降下させ、それを、遮蔽物として利用した。
「ライラ!奴らのロックオンシステムを、攪乱しろ!」
「やってるわ!」
ライトは、最も無謀な機動を行った。
彼は、翼が岩に擦れるほど、小惑星の地表すれすれを飛び、機体を180度回転させ、即座に、主砲を撃ち返した!
弾丸は、敵の一隻に直撃し、それは、火球となって爆発した。
しかし、残りの二隻は、すぐ後ろに迫っていた。
奴らは、プラズマ魚雷を、追尾させてきた!
「魚雷、10秒で着弾します!」ライラが報告した。
「いいぞ!」ライトは、にやりと笑った。彼は、まだ、最も密集した小惑星群の中心部へと、まっすぐ飛んでいた。
「三、二、一…」
カウントが終わると同時に、ライトは、最後の瞬間に、別の巨大な小惑星の陰へと、機体を滑り込ませた。
二本の魚雷は、代わりに、小惑星に激突し、巨大な爆発を引き起こした!
彼は、その爆風を、推進力として利用し、小惑星群から、脱出することに成功した。
そして、彼らの前には、
小惑星全体をくり抜いて作られた、巨大な宇宙ステーションがあった。
「ヴァルハラ・ステーション」。




