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第一章 11 "キメラ計画の罠(1)"

「見つけた」


ライトは、躊躇しなかった。


彼は、携帯用のプラズマカッターを取り出し、金庫のロック機構に当てた。


数千度の高熱が、金属を真っ赤に溶かしていく。防御システムの警告音が鳴り響いたが、彼は、メカニズムが作動する前に、それを断ち切ることに成功した。


金庫の扉が開く。


中には、ただ一つのもの。漆黒の量子ハードディスクが一つ。


彼は、手を伸ばして、それを取り上げた。


そして、彼の指が、そのハードディスクに触れた瞬間、


『…未許可のデータ移動を検知。キメラ措置を開始します…』


ステーション中に、冷たい女性の合成音声が、同時に響き渡った!


古いサイレンの音は消え、この不気味なアナウンスに取って代わられた。


『…ステーション内の全職員は、脅威に晒されたと見なします。自爆シーケンスを開始。ステーションは、Tマイナス10分で爆発します。連邦に、栄光あれ…』


「くそっ!」


ライトは、悪態をついた。彼は、ハードディスクを固く握りしめ、即座に振り返って走り出した。


しかし、その時…ガシャン!ガシャン!ガシャン!


ステーション中の壁や天井がスライドして開き、隠されていた無数の自動砲台が姿を現した!


奴らの、燃えるような赤い光学レンズが、一斉に輝いた。


『…生命体を検知。掃討を開始します…』


バン!バン!バン!バン!


砲台は、狂ったように乱射を始めた!


敵味方の区別なく!


ライトは、かろうじて一本の柱の陰へと飛び込んだ。


彼が立っていた場所は、プラズマ弾に焼かれ、黒い焦げ跡となっていた。


彼は、通路の向こうに目をやった。目にした光景は、真の混沌だった。通路を走ってきた連邦兵の一団が、味方のはずの砲台に撃たれ、目の前で、その体が粉々に砕け散った!


(奴らは、全員を殺す気だ…この秘密を、封じ込めるために!)


そして、状況は、さらに悪化した。


一匹の機械の怪物が、換気口から飛び出してきた。


一基の砲台が、即座にそれに銃口を向けた。しかし、その瞬間、生き残っていた連邦兵が、ライトに向かって撃ち返してきた!


今や、ライトは、三つの脅威に、同時に直面していた!

1. 脱走し、行く手を阻むもの全てを殺す、死の機械の群れ。

2. 未だに彼を侵入者と見なす、連邦兵。

3. 未だ息をしている「全員」を、排除するようプログラムされた、ステーションの防御システム!


ステーション全体が、内部からの爆発で激しく揺れる。


ライトは、これが、真の時間との競争であることを、よく知っていた。


『ステーションは、Tマイナス8分で爆発します…』


彼には、もはや考えている時間はなかった。


彼は、逃げなければならなかった!


ライトは、メインデータ室から、今や処刑場と化した通路へと飛び出した。


彼は、砲台からの弾丸を転がって避け、行く手を阻む連邦兵に撃ち返し、そして、追いかけてくる機械から身を守るために、廃墟を遮蔽物として利用した。


これは、戦いではない。死の綱渡りの上での、舞踏だった!


---


**2分後**


『…ステーションは、Tマイナス6分で爆発します…』


冷たいアナウンスが、今や殺戮地帯と化した通路に響き渡る。


ライトは、命知らずにも前へと突進した。


天井の砲台からのプラズマ弾が、彼が通り過ぎたばかりの場所を薙ぎ払い、壁を溶かした。


彼には、撃ち返す時間さえなかった。ただ、走り、避け、そして、生き延びるだけだった。


彼は、メイン輸送通路へと曲がり、即座に立ち止まった。彼の前には、設置されたばかりの自動砲台で埋め尽くされた、長い通路が広がっていた。


それは、コンピュータが、生き残った全ての生命を殺すために作り出した、行き止まりだった。


(終わりだ…)その考えが、頭をよぎった。


しかし、その時…『行き止まりですって?私をなめないでよ、ライト!』ライラの声が、苛立ちながらコムリンクに割り込んできた。『あなたの左よ!メンテナンス用のドア!開けてあげたわ!時間は5秒!行きなさい!』


彼女の声が終わると、ライトが気づかなかった鉄の扉の一枚が、「シュー」という音と共にスライドして開いた。


暗く、狭いメンテナンス用のトンネルが、姿を現した。ライトは、躊躇しなかった。


彼は、即座にトンネルへと飛び込んだ。


外でプラズマ弾が叩きつけられる音と共に、ドアが閉まる直前に。


---


**ライラの視点:通信制御室にて**


ライラは、稲妻の嵐のように明滅するホログラムスクリーンの中に座っていた。


彼女の指は、仮想キーボードの上を、超人的な速さで舞っていた。


一つのスクリーンは、ステーションの設計図と、ライトの位置を示す青い点を表示している。


もう一つのスクリーンは、自爆装置のカウントダウンを表示している。


そして、他の何十ものスクリーンは、彼女がステーションの防御システムと戦っている、プログラムコードで埋め尽くされていた。


「鬱陶しいわね…ここの防御AI、思ったよりしぶとい」


彼女は、ロックダウンシステムをバイパスするコマンドを打ち込みながら、独りごちた。


「でも、私の手からは逃れられないわよ」


彼女は、格納庫へと向かうライトの位置を見た。


「メインルートは、全部ブロックされてる…でも、予備のエネルギー供給パイプのルートを使えば…」


彼女の指が、再び動いた。「ギデオン!聞こえる!?あなたが補助パワーステーションに仕掛けた爆弾、起爆しなさい!電力サージが必要なの!」


---


**ギデオンの視点:補助パワーステーションにて**


「ハハハ!その言葉を待ってたぜ!」


巨漢のギデオンは、重機関銃を乱射し、彼が拠点として使っている部屋に突入しようとする連邦兵と機械の群れを、薙ぎ払っていた。


彼は、狂戦士のように戦っていた。全ての爆発が、彼の笑い声だった。


ライラの命令を聞くと、彼は、にやりと笑い、爆弾のリモコンを取り出した。


「花火の時間だ、お前ら!」


彼は、ボタンを押した。


そして、彼が爆弾を仕掛けておいた補助パワーステーションは、巨大な火球となって爆発した!


その振動は、ステーション全体を揺るがし、主電源が一瞬、停止した。


予備電源が作動するまでの、ほんのわずかな隙間。それこそが、ライラが必要としていたものだった。


---


**ライトの視点:メンテナンス用トンネルにて**


突如、トンネルの電気が一瞬、消えた。


そして、いくつかのドアが開錠される音と共に、再び点灯した。『さっきの電力サージで、ロックシステムの一部が、一時的にエラーを起こしたわ。格納庫への最短ルートを開錠したから、急いで。リセットされる前に!』ライラの声が、再び響いた。


ライトは、開かれた道を進んだ。彼は、今の自分の一歩一歩が、まだよく知りもしないチームメイトの働きによって、敷かれていることを、よく知っていた。


『…ステーションは、Tマイナス2分で爆発します…』


彼は、格納庫の入り口に到着した。


しかし、目にした光景に、彼は、再び立ち止まった。生き残った連邦兵が、彼がいる入り口に、重火器を向けていたのだ。


奴らは、彼を待ち構えていた!


しかし、彼がどうするかを決断する前に、


フッ!フッ!フッ!


ほとんど聞こえないほどの音が、三度、連続して響いた。


そして、重火器を操作していた兵士たちの体は、ヘルメットに小さな穴を開けられ、倒れた。


---


**サイラスの視点:格納庫の上の鉄骨にて**


サイラスは、床から数十メートルの高さにある、鉄骨の影に、平らに寝そべっていた。


彼の目は、高エネルギー狙撃ライフルのズームレンズを通して、見つめていた。


彼は、誰にも見えない、亡霊。道を掃き清める、死神。


彼は、ライトがドアに到着するのを見た。待ち構えている重火器を見た。「目標、一人目…砲手…ロックオン」彼は、独りごちた。


彼の呼吸は、水面のように静かだった。「…地獄へ送る」


彼の指が、三度、連続して引き金を引いた。


高速のエネルギー弾が、音もなく銃口から放たれ、三人の砲手の鎧を、完璧に貫いた。


「ルート、クリア。早く来いよ、ライト。一日中、待ってはいられないんだ」


---


**ライトの視点:格納庫の入り口にて**


重火器の兵士たちが、不可解にも倒れるのを見て、ライトは、即座に理解した。サイラス。


彼は、躊躇しなかった。遮蔽物から飛び出し、格納庫の広い空間を、全力で駆け抜けた。ステルス艦「ナイトフォール」が、前方に待機し、後部のランプが、彼を待っていた。


『…ステーションは、Tマイナス30秒で爆発します…』


ステーションは、引き裂かれるかのように、激しく揺れた。


天井の金属板が、剥がれ落ちてくる。


「急げ、ライト!」


艦のランプで待っていたギデオンの声が、響いた。


ライトは、走った。これまでの人生で、一度も走ったことのないほどに。


彼は、最後の瞬間に、ステルス艦「ナイトフォール」へと、飛び込んだ。


『…5…4…3…2…1…』


後部のランプが閉じた。そして、まさにその瞬間、


イージス研究ステーションは、閃光を放った。


宇宙の闇の中で、静かに爆発する、新たな太陽と化して。


---


ステルス艦「ナイトフォール」は、かつてイージス研究ステーションがあった場所から、最高速度で離脱した。


真空の中で、静かに拡大していく、エネルギーの塊と金属の残骸だけを残して。


破壊された秘密の、記念碑として。


薄暗いコックピットの中で、しばらく、沈黙が支配した。


エンジンの微かな唸りと、人生で最も過酷な戦いを生き抜いた、四人の男たちの、荒い息遣いだけがあった。


ライトは、艦の壁にもたれて、座り込んだ。


古傷と新しい傷からの痛みが、全身に広がり始めた。


しかし、彼の手の中には、量子ハードディスクが、固く握られていた。ほとんど全てと引き換えに手に入れた、勝利。


そして、その沈黙は、破られた。


笑い声によって!


「ハ…ハハハ!ちくしょうめ!今まで見た中で、最高の花火だったぜ!」


巨漢のギデオンは、狂ったように笑った。


アドレナリンが、まだ彼の体の中を駆け巡っていた。「それにお前だよ、ライト!古い友達にも会ったんだってな。俺に挨拶させてもくれなかったのかよ!」


航行システムをチェックし、追跡者をスキャンしていたライラが、平坦だが、尊敬の念が込められた声で言った。「システムは全て正常。追跡者なし。入手したデータも、完全です」彼女は、ライトに目をやった。


「あなたの、連邦の規律に関する知識は、我々の弾丸を、かなり節約させてくれました。認めます。連邦の人間にしては、見事です」


それは、わずかな皮肉が込められた、賞賛だったが、真の承認だった。


最も寡黙な狙撃手、サイラスが、短く、しかし意味のある言葉を発した。


「お前は、亡霊のように動く。第7部隊に関する噂の、通りだな」


それは、彼らが、初めて、真の「チーム」として、会話した瞬間だった。ライトは、皆の顔を見渡し、静かに返した。


「ギデオンへ。すまないな、彼が、少々急いでいたようだ」彼は、冷ややかに冗談を言った。「ライラへ。私を救ったのは、あなたのハッキングだ。時間の節約どころじゃない」彼は、心から認めた。「そして、サイラスへ。格納庫での、あなたの腕前がなければ、私は、今ここに座ってはいないだろう」


かつて不信感に満ちていた雰囲気は、和らぎ始めた。


プロの兵士たちの、互いへの敬意に、取って代わられた。


「それで…結局、これは何なの?」ライラは、沈黙を破って尋ねた。


「この中のデータは、ステーションごと破壊するほど、重要なものなの?」


ライトは、窓の外の星々へと、視線を向けた。


「はっきりとは分からない。だが、俺は奴らを見た。機械の種族が、研究室に閉じ込められていた。そして、メインデータ室は、侵入ではなく、虐殺のように、見せかけられていた」彼は、一瞬、間を置いた。「プロジェクト・キメラは、間違いなく、連邦が奴らを制御しようとする試みと、関係がある。奴らの、最も暗い秘密だ」


彼の言葉に、部屋にいる全員が、息を呑んだ。


この戦争は、彼らが想像していたよりも、はるかに複雑で、恐ろしいものだった。

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