第二章11"ライトの対話、そして誰かとの約束"
**旗艦「ヴィンディケーター」作戦司令室にて**
今日の雰囲気は、いつもとは異なっていた。これは、「ザン・セクター解放連合軍」として初の公式な戦争評議会だった。参加者は最高指導者たち、ジャック司令官、ベアトリス提督、そしてウィリアム王子。そして今日、彼らには新たなメンバーが加わっていた。マリアン・コンバインのアリステア司令と、サラダー共和国のエヴァ司令だ。二人は清潔な新しい制服を身にまとい、決意に満ちた表情で立っていた。ライトキャプテンは、オブザーバー兼特殊部隊指揮官として参加していた。
「諸君、ようこそ」ジャックが会議の口火を切った。「ステーション・ケルベロスでの勝利は、我々に最も貴重な贈り物をもたらしてくれた。それは、貴官らお二人だ」
「マリアン・コンバインの名において」アリステアが一歩前に出て、ベアトリス提督に敬礼した。「我が生き残りの兵力は、王室艦隊に合流し、提督のあらゆる命令に従う所存です」
「そして、サラダー共和国情報部の名において」エヴァが続けた。「中央政府はまだこの同盟について関知しておりませんが、私の部隊と私自身は、ジャック司令官の部隊に全面的に参加し、適切な時期が来れば、共和国との連絡大使としての任を果たします」
今や、人類の三大勢力による同盟が、完全に誕生したのだった。
「素晴らしい」ジャックは頷いた。「貴官らが加われば、我々のセクター全域解放計画は、より強固なものとなる。だが、前進する前に、彼を知り己を知らねばならない」
彼はライトの方を向いた。「キャプテン、時間だ」
--- **場面転換:高度セキュリティ独房にて** ---
独房の中は冷たく、静まり返っていた。ただ一つの白い照明が、椅子に拘束された囚人の体を照らしている。彼は、ステーション・ケルベロスで捕らえられた第7部隊兵の一人だった。ヘルメットは外され、その若々しい顔には、頑固さと憎しみに満ちた眼差しが浮かんでいた。
ドアが開き、ライトが一人で入ってきた。
「フン…」囚人は鼻で笑った。「誰かと思えば、伝説の『仲間殺し』じゃないか。雑魚の反乱分子どもと英雄ごっこか。自分の手の血が何色か、忘れたようだな」
ライトはその侮辱を無視し、椅子を引きずってきて向かいに座った。第7部隊流の「尋問」、心理戦の始まりだった。
「今、部隊を指揮しているのは誰だ?」ライトは平坦な声で尋ねた。
「死ね、裏切り者」
「お前たちはキメラ計画について、どれだけ知っている?エレクター=カイのことは?」
「俺から何が聞き出せると思っている?俺たちは、お前が耐えきれずに逃げ出した地獄の炎の中で、訓練されてきたんだ!」
ライトは、元同僚の目を深く見つめた。「地獄の炎、だと?違うな。我々は『実験室』で創られた。お前も、俺と同じただの操り人形だ。ただ、お前の手綱がまだ繋がっているだけのな」
その言葉に、囚人はわずかに動揺した。「何を言っている…」
「事実を話している」ライトは続けた。「お前が守ろうと喚いている連邦こそが、機械の群れの侵略の黒幕だという事実をな。奴らは『キメラ計画』で奴らを兵器として操り、ザムを犠牲にし、そして、秘密を守るためなら、ステーション・ケルベロスも、お前たち全員も、犠牲にする準備ができていた」
「嘘だ!」囚人は怒鳴り返したが、その眼差しは揺らぎ始めていた。
「そうか?」ライトはデータパッドを取り出し、エレクター=カイについて告白するソーン博士の音声記録と、惑星ネロルで「地上部隊を見捨てろ」と命じるケイレン将軍のホログラム映像を再生した。
「俺たちは、お前が戦うように訓練された敵ではない」囚人が真実に打ちのめされている中、ライトは言った。「俺たちは、真の『悪魔』を止めようとしている唯一の集団だ」
ライトは立ち上がり、部屋を出ようとした。「よく考えてみろ。お前の真の『主人』は誰なのか。そして、どちらが盲信しているのかをな」
彼は去っていった。元同僚を、彼の世界そのものを崩壊させる真実の中に、一人残して。疑いの種は、敵の最強部隊の心臓部に、蒔かれたのだった。
---
感情を揺さぶる尋問を終えた後、ライトは心身ともに疲れ果てていた。彼はあてもなく基地の通路を歩き、無意識のうちに、慣れ親しんだ場所、ザムからの難民たちの避難所へとたどり着いた。ホールの片隅で、エララの一団がリラックスして談笑しているのが見えた。それは、彼が無意識に渇望していた光景だった。
最初に彼に気づいたのはエララだった。彼女はすぐに立ち上がり、彼の方へ歩み寄ってきた。彼の疲れた表情と虚ろな目を見て、彼女の直感が、思考よりも先に働いた。
フッ!
彼女は、彼に飛びつくように抱きしめた。それは、恋愛感情などではなく、暖かく、心配に満ちた抱擁だった。見えない戦いから帰ってきた兄を、妹が慰めるような。
「おかえりなさい」エララは、彼の胸に顔をうずめながら小さく言った。「すごく疲れているみたい。大丈夫よ、もう大丈夫だから」
一瞬硬直していたライトは、ゆっくりと力を抜いた。彼は、彼女の頭にそっと手を置いた。彼女の抱擁の暖かさが、彼の心を蝕んでいた冷たさを、少しずつ追い払っていった。
しかし、その穏やかな時間は、長くは続かなかった。
「ライトキャプテン」
氷のように鋭い声が、背後からした。マキが、腕を組んで、いつからそこにいたのか、二人を見つめていた。
「貴様と話がある。今すぐにだ」
その声はいつも通り平坦だったが、ライトは、その中に明確な圧力と「不満」が隠されているのを感じ取った。
ライトは名残惜しそうに、ゆっくりとエララから腕を解いた。彼は、すまなそうに彼女に頷いた。エララは、ライトとマキの間を、理解できないというように交互に見たが、素直に身を引いた。
マキは何も言わずに踵を返し、先導するように歩き出した。ライトはついていくしかなく、エララと仲間たちは、困惑しながらその後ろ姿を見送った。
---
人気のない通路に着くと、マキは立ち止まり、彼に向き直った。
「感情的な絆は、戦場では負債だ、キャプテン」彼女は、ライトが予期しない言葉で切り出した。「作戦の安全性を損なう。あの娘は、貴様の弱点だ」
「エララか?」ライトは眉をひそめた。「彼女は仲間だ」
「貴様は、彼女の近くにいると自己防衛レベルが低下する」マキは、機械のように分析した。「心拍数は下がり、警戒レベルも低下する。油断した工作員は、死んだ工作員だ。貴様のパートナーとして、その脆弱性を指摘するのが私の義務だ。そして、彼女がその脆弱性だ」
ライトは絶句した。彼は、マキの無表情な顔と、読み取れない二色の瞳を見つめた。(彼女は、このために俺を呼び出したのか?弱点だと?)彼は心の中で思った。(彼女の声、いつもより冷たい。だが、何か…苛立ちのようなものが?)
彼は状況を理解しようと努めた。この女は「ゴースト」、生きた兵器、常に氷のように冷静だったはずの人間。だが、先ほど、彼女がエララを見た時の反応は、機械のものではなかった。それは、何か別の、「所有欲」や「嫉妬」を示すような…。
(彼女は、戦術的な弱点を指摘しているのではない。彼女は…)ライトの腕の中にいたエララの姿が、頭をよぎった。そして、それを冷たい視線で見つめていたマキの姿と、交互に浮かんだ。(…別の女を、排除しようとしている)
その考えは、ライトを驚かせ、思わず笑い出しそうになった。(こんな感情、何て言うんだっけな?嫉妬か?)その考えは、目の前の女にはあまりに馬鹿げていて、似合わないように思えた。だが、考えれば考えるほど、確信が持てなくなった。
ライトは、彼女が予期していたような反論はしなかった。代わりに、彼は薄く、読み取れない笑みを浮かべた。
「君の言う通りだ」彼は平坦に答えた。
そのあっさりとした同意に、マキは一瞬、虚を突かれた。彼女は、彼が反論するか、否定するかを予期していた。「理解しているのなら、彼女とは距離を置け。任務へのリスクとなる」
「同感だ」ライトは続けた。彼は、彼女に一歩近づいた。「絆はリスクだ。感情は脆弱性だ」
彼は、彼女の二色の瞳を深く見つめた。「だからこそ、俺は思う。今の君の振る舞いは、非常に興味深い、マキ」
その言葉は、マキの心に雷のように突き刺さった!彼女の体は、即座に硬直した!
「何を言っている?」彼女は、元の氷のような声を取り繕おうとしながら、問い返した。
「分析している」ライトは、彼女が先ほど使ったのと同じ論理で返した。「君の心拍数はわずかに上昇し、瞳孔は拡大している。そして、明確な任務目的もなく、この会話を始めた。これらは全て、感情的反応の兆候だ」
彼は、再び口の端を上げた。「君こそが、任務の『負債』になりかけているんじゃないのか、マキ?」
!!!
これこそが、トロイの木馬である彼が、初めて「ゴースト」を読み切った瞬間だった!マキの眼差しは、即座に変わった!冷徹さは消え、凍てつくような怒りの炎に取って代わられた。彼女の赤い瞳が、妖しく光ったように見えた。
「私を分析するな、第7部隊」彼女は、侮蔑を込めて彼の古巣の名を呼んだ。
しかし、ライトにとって、その反応こそが、最も明確な肯定だった。彼は正しかった。彼は彼女に勝ちたかったのではない。ただ、理解したかったのだ。
ライトは、圧力を下げるように、一歩下がった。「君を分析しているのではない。俺の『パートナー』を、理解しようとしているだけだ」彼は、真剣な眼差しで彼女を見た。「心配するな、マキ。俺の『弱点』が、任務の邪魔になるようなことはさせない」
彼は一瞬黙り、彼女の心を最も深く突き刺す、最後の言葉を放った。
「…君も、今感じている『何であれ』が、君の任務の邪魔にならないように、せいぜい努力することだな」
そう言うと、ライトは静かに踵を返し、去っていった。一人、通路に取り残されたマキは、立ち尽くしていた。生きた兵器である彼女が、人生で初めて、言葉を失い、自らの感情に混乱していた。ライトは、彼女を見抜いただけではない。彼は、彼女の中に隠された「人間性」を、受け入れていると、告げているのだ。それは、彼女にとって、敵の全軍と戦うよりも、遥かに恐ろしいことだった。
---
ライトが去ろうとした、その時。フッ!一つの影が、驚くべき速さで彼の前に割り込んだ!ライトが体勢を整える間もなく、マキは片手で彼の胸を軽く押した。しかし、その力は絶大で、彼は数歩後退させられた。
ドン!
ライトの背中が、通路の冷たい金属の壁に叩きつけられた!マキは追いすがり、彼の頭の横の壁に片腕をつき、彼を完全に閉じ込めた。美しくも無表情なその顔が、近づいてくる。ライトが彼女の呼吸を感じられるほど近くに。彼が、その二色の瞳の詳細をはっきりと見ることができるほど近くに。
冷たい青い瞳と、彼がこれまで見たことのない、何か感情に揺れる赤い瞳。それは怒りではない。それは、混乱か?所有欲か?
「調子に乗るな、キャプテン」マキは冷たく囁いた。「私を読み切ったと思うな」
彼女が何かを言いかけた、その時。
「ライトキャプテン?」
丁寧で、格式ばった声が、全ての緊張を断ち切った。二人がそちらを見ると、マリアン・コンバインの清潔な白い装甲服を着た王室護衛官が立っていた。彼は丁重に敬礼したが、その視線は、壁際に立つ二人の姿に、わずかな驚きを浮かべていた。
「お邪魔して申し訳ありません。ステラ王女殿下より、至急の伝言でございます。殿下は、貴官に可及的速やかな拝謁を望んでおられます」
マキは、まるで夢から覚めたかのように、一瞬動きを止めた。彼女の目の炎は消え、瞬時に元の氷のような冷たさに戻った。彼女は腕を下ろし、何事もなかったかのように身を引いた。
ライトは、不思議な安堵感を覚えながら、軽く咳払いをして気を取り直し、護衛官に頷いた。「わかった。案内を頼む」
彼は護衛官について歩き出した。曲がり角を曲がる前、彼は振り返らずにはいられなかった。マキは、まだ元の場所に立っていた。がらんとした通路に、ただ一つの孤独な影として。彼女の視線は、彼を追っていた。何の感情も読み取れない、そしてそれ故に、最も恐ろしい視線で。
---
ライトは、護衛官に導かれ、マリアン・コンバインの王族居住区画へと足を踏み入れた。ここの雰囲気は、ヴィンディケーターとは全く異なり、美しく、静かで、芸術性に満ちていた。護衛官は、ある扉の前で止まった。「王女殿下は、この中でお待ちです」
扉が開くと、ライトはステラ王女の私室へと入った。そこは豪華な寝室ではなく、書斎と小さな庭園を兼ねたような部屋だった。天井まで届く本棚、政治情報を表示するホログラムテーブル、そして部屋の片隅には、温度管理されたケースの中で、淡い光を放つ「冬氷華」があった。
ステラ王女は、窓のそばに立ち、星々の中に浮かぶ同盟艦隊を眺めていた。彼女が振り返ると、親しげな笑みが浮かんだ。
「急にお呼び立てして申し訳ありません、キャプテン。貴方の次の任務について、耳にしました」
「それが私の任務ですので、王女殿下」ライトは、格式ばって答えた。
「司令官たちも、兄上も、貴方を重要な兵器、勝利への鍵と見ています」ステラはゆっくりと言った。その眼差しは、彼を深く見つめていた。「ですが、私が貴方を見るとき、そこには、ただ庭の静かな場所を探している一人の男性が見えます。私には、『兵士』ではなく、『人』が見えるのです」
その言葉は、ライトを驚かせた。それは、不思議なほど心に響く言葉だった。
「だからこそ、貴方をお呼びしたのです」彼女は彼に近づき、その眼差しは真剣で、ある感情に満ちていた。「私は、この任務を止めることはできません。それが必要なことだと、わかっています。ですが、私は貴方に『約束』を求めたいのです、ライトキャプテン」
彼女は、そのか細い手を伸ばし、無骨で傷だらけの彼の手に、そっと触れた。「いつか、この戦争が終わった時には、軍人を辞めていただきたいのです。約束してください。二度と、影と殺戮の世界には関わらないと。約束してください。庭を愛したあの少年に、生き続ける機会を与えると」
ライトは、絶句した。彼は、彼女が握る自分の手を見つめた。これまで誰も、彼に兵士を「やめろ」と頼んだ者はいなかった。誰もが、彼の殺しの技術を利用したがった。だが彼女は、初めて、彼に穏やかに「生きて」ほしいと願ったのだ。
彼は何と答えればいいかわからず、ただ、その願いを受け入れるように、ゆっくりと頷くことしかできなかった。
その厳粛な雰囲気は、突然変わった。ステラ王女の真剣な眼差しが、夢見るような輝きに変わった。「戦争が終わったら、きっと盛大な祝賀会が開かれますわ」彼女は、うっとりとした声で呟き始めた。「貴方も、それにふさわしい服を着なければ。あのような漆黒の装甲服ではなく、純白のスーツに、黒のボウタイ、そして手には、深紅の薔薇を一本…きっと、お似合いになりますわ。闇の騎士が、ついに光の中へ帰還するのですもの」
ライトは、困惑に目を見開いた。(この変わりよう、アリステア司令とそっくりじゃないか。まさか、主従揃って…?)彼は心の中で呟いた。
「王女殿下?」彼は、彼女の意識を戻そうと、そっと手を引いた。
「あ!ええと…」ステラは、夢から覚めたように、わずかに赤面した。「少し、考え事をしていただけですわ」
その後、二人の雰囲気は和らぎ、穏やかな会話が続いた。ステラは兄の子供時代の面白い話を、ライトはギデオンの馬鹿力について語った。彼らは、まるで旧友のように語り合った。
やがて、ステラは故郷の歌を口ずさみ始めた。それは、希望に満ちた、美しい歌だった。歌い終えると、ライトは静かだった。その目は、遠く、悲しげだった。
「貴方には、歌がありますか?道に迷った時に歌う歌が」
ライトは、ためらった後、彼がこれまで誰にも見せたことのない、心の最も深い傷を、歌に乗せて語り始めた。それは美しい歌ではなかったが、真実の感情に満ちていた。「迷子の星のララバイ」。孤独な少年、英雄になるという約束、そして悪魔になることへの恐怖。
歌が終わると、ステラ王女の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。「貴方が、どれほどのことを乗り越えてこられたのか、私は…知りませんでした。ごめんなさい」
彼らは、互いの過去を分かち合った。もはや、「キャプテン」と「王女」ではなく、傷を分かち合った、二人の人間として。
「話してくれて、ありがとう、ライト」ステラは、初めて彼の名を、敬称なしで呼んだ。「貴方は、悪魔ではありません。そして、もう一人ではないのです」
---
**(翌朝、出発の日)**
ライトが朝食のために食堂へ向かうと、エララ、サトウ、ガー、そしてボルクが、いつものテーブルで彼を待っていた。和やかな会話が交わされたが、その平穏は長くは続かなかった。ライトは、視線を感じた。食堂の離れたテーブルで、マキが一人、座っていた。水が一杯入ったグラスだけを前に、彼女の二色の瞳は、彼らのテーブル、いや、彼だけを、じっと見つめていた。
「なんだありゃ」ガーが最初に気づき、囁いた。「お前の相棒、俺たちを5分も見つめてるぜ。気味が悪いったらありゃしねえ」
その視線は、目に見えない氷のカーテンのように、彼らのテーブルを覆い、賑やかだった会話は、次第に途切れ、静かになっていった。
やがて、マキが立ち上がり、彼らのテーブルへとまっすぐ歩いてきた。彼女は、ライト以外の誰にも目もくれなかった。
「キャプテン」彼女は平坦に言った。「10分後、ハンガーにて最終装備チェックを行う」
そう言うと、彼女はエララを一瞥した。それは一瞬だったが、恐ろしいほど冷たく、空虚な視線だった。そして彼女は、何事もなかったかのように踵を返し、去っていった。
テーブルの沈黙を破ったのは、ガーだった。「オーケー、ありゃ絶対お前に気があるぜ、キャプテン。ただし、『お前の皮で帽子を作ってやる』的な、怖い意味でな」
エララは何も言わず、ただ、これまで以上に心配そうな目でライトを見た。「気をつけてね、ライト」
---
食堂を出たライトがハンガーへ向かう途中、「ライトキャプテン!」という声に呼び止められた。アリステア司令だった。
「ご出発前に、一言お礼を申し上げたく」彼は言った。「私と生き残った兵士の名において、貴方が与えてくれた自由に、改めて感謝いたします。この御恩は、決して忘れませぬ」彼は、真摯な眼差しで続けた。「ジャック司令官やウィリアム王子は、貴方を勝利をもたらす『兵器』と見ているかもしれません。しかし、王女殿下は、貴方の中にある『人間』を見ておられる。どうか、キャプテン、王女殿下のために、彼女が貴方の中に見出した希望のために、ご無事でお戻りください。そして、彼女の信じる心が、正しかったと証明してください」
その言葉は、再びライトの心を揺さぶった。任務の成功ではなく、彼の「生還」を願う、もう一人の人間。彼は、力強く頷くことしかできなかった。「約束する」
ライトがハンガーに着くと、彼は再び、独房にいる第7部隊兵の元を訪れた。囚人は、部屋の隅で静かに座っていた。かつての憎しみに満ちた眼差しは、今や混乱と虚無に変わっていた。ライトがもたらした真実が、彼の世界を完全に破壊したのだ。