プロローグ [を継ぐもの]
宇宙暦2223年、惑星・地球――
偽りの繁栄の時代。
人類は、祖先が想像もできなかったほどの技術的頂点に達していた。惑星統一戦争が各国家の崩壊という形で終結した後、国境と民族は一掃され、「世界平和評議会」の統治の下、一つに融合された。
しかし…その文明化された外殻の裏では、腐敗が静かに社会を蝕んでいた。文化、宗教、そして王政は根絶やしにされ、人々は単一言語の使用を強制された。異なるアイデンティティは禁忌とされたのだ。世界的な人口過剰の危機の中、社会の格差は修復不可能なまでに広がり、富と権力を持つ上流階級は金で罪を洗い流し、貧しい者たちはその尊厳を踏みにじられた。飢餓と絶望が、地のあらゆる場所に蔓延していた。
そして、抵抗の炎が燃え上がり、最後の大規模な内戦へと発展した。
虐げられし者たちは自由を取り戻すために立ち上がったが、彼らの最後の希望は、評議会の圧倒的な軍事力によって粉々に打ち砕かれた。敗者たちは「政治犯」の烙印を押され、洗脳されて使い捨ての兵士になるか、思想矯正のために拷問されるか、あるいは静かに抹殺されるという運命を辿った。
だが、その手から逃れられた者たちも、僅かながら存在した…。
数千隻からなる難民たちの脱出船団は輸送船を奪い、絶望の中、地球を飛び立った。彼らの背後には、二度と戻ることのできない故郷と、別れの言葉を告げる機会すらなかった家族がいた。かつて数千を数えた船団は追撃によって破壊され、生き残ったのは三百隻にも満たなかった。
彼らは目的もなく暗闇を漂う宇宙のゴミと化し、万策尽きた末、最後の賭けとして「ワープ・ドライブ(次元跳躍航法)」技術を使用することを決断した。宇宙の未知なる領域へと跳躍するために。
時空が歪み、そして元に戻った一瞬の後。
生存者たちの船団は、いかなる星図にも記録されていない宙域…「サンド・セクター」に出現した。エネルギーはほぼ尽きていたが、運命は彼らを見捨てなかった。彼らは生命居住可能な複数の惑星からなる星系を発見したのだ。
それらは互いに数光年離れて点在していた…インワン、サム、サラダー、マリア、そしてブラッディ・プラネット。それらの惑星こそ、難民たちが最初に降り立った場所だった。
彼らは地球市民という身分を過去に置き去りにし、二度と戻ることのできない戦争犯罪人としての新たな運命を受け入れた。
それから約3世紀…280年の歳月が流れた。
人類の種は根付き、成長し、新たな文明として繁栄を遂げた。技術は更なる進歩を遂げ、数多の惑星から、三つの主要勢力が誕生した。
サラダー共和国 (Salader Republic): 豊穣な青い惑星に建国され、議会と大統領を元首とする民主主義体制で統治されている。
マリアン・コンバイン (Marian Combine): 純白の氷の惑星に生まれ、立憲君主制の下で統治されている。
ブラッドムーン連邦 (Blood Moon Federation): 血色の惑星「ブラッディ・プラネット」に誕生した、軍事、経済、技術の全てにおいて最強の勢力。
その脆い平和は、長くは続かなかった。
ブラッドムーン連邦の野望の影が、セクター全域を覆い始めたのだ。連邦は他の二勢力に対し、その軍事力で中央政府の設立に参加するよう圧力をかけたが、拒否されるや否や、冷酷非道な植民地化を開始した。次々と惑星を侵略し、資源を搾取し、恐怖をまき散らした。
歴史は再び繰り返されるかのようだった…。
再び戦争の火蓋が切られ、勝利は幾度となくブラッドムーン連邦の手に渡った。今や、彼らの力に異を唱える勢力はどこにも存在しない。
そして、この物語は…
権力の中枢から最も遠く離れた場所で始まろうとしていた。
連邦に飲み込まれた植民地の一つ、惑星サムで…。
薄暗い酒場で、一人の男が静かに酒を飲んでいた。
彼の名はライト…。
そしてこれは、彼の物語である。