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1人は嫌で、それでも貴方とはいられない

作者: こうが

雨が降る。

今日のお茶会は庭では無理だから、きっと中止にした方がいいでしょう。

婚約をしてから5年、11歳だった少年は16歳になり、13歳だった私は18歳になりました。

月に1度のお茶会が、苦痛になり始めたのは1年前からでした―。


「アイリス、紹介したい友達がいるんだ。

ノーラ・ヒューミットっていう子で、君もきっと仲良くなれるよ」


その一言で、婚約者の交流を深めるためのお茶会は様変わりしました。

私の知らない婚約者の話を、私の知らない女性が話し、

私のことを、私の婚約者が見知らぬ女性に話す。


彼女は意図的に私を話に入れないようにしているようでした。


「あ、すみません、また2人で盛りあがちゃって」


謝罪はするけれどその目には優越感が見え隠れしていることを私は見逃しませんでした。

きっと彼等はこのお茶会以外でも交流を深めているのでしょう。

15歳から3年通う予定だった学園を、私は1年早く飛び級で卒業していました。

キースの卒業と同時に結婚する予定だったため、キースの家業の勉強を先にする必要があったのです。

たった2歳の差だと両親に言われた婚約でしたが、今はその年数が重くのしかかります。


何故、婚約者とのお茶会に他人が来るのか。

遠慮して欲しいと、キースに伝えても彼は「ただの友達だから」、と取り合ってくれませんでした。


そして今日、彼から誕生日にいただいたブレスレットが、カシャリ、と落ちました。

その瞬間、何故でしょう、諦めてしまったのです。


誕生日はプレゼントが届きます。

それ以上を望むのは贅沢なのでしょうか。

決まった日のお茶会以外も、観劇に行ったり、公園を歩いたり、そういうことをしてみたかったのです。

1人で歩く公園も、友人と行く観劇も、決して嫌いではありませんでした。

私は本来1人は嫌いなのです。まるで、誰の目にも留まらないような、そんな存在になった気がしてしまうと、キースには言っていました。

だからこそ彼は、ノーラさんを私に紹介したのでしょう。

最初は、本当にただの親切心だったのかもしれません。


溜息を吐いて壊れたブレスレットと報告書をデスクに置くと、お茶会中止の手紙をキースに出しました。

ノーラさんが参加するようになってから、お茶会は必ずガゼボか温室にしています。

私の生活圏内には入れたくないタイプの女性だったからです。

一度だけ、応接室でお茶会を開きました。

その時、私が置き忘れてしまったハンカチは未だに見つかっておりません。

イニシャルを刺繡してあるハンカチは、キースが見れば私のものだと気付くでしょう。


その時、部屋の外が騒がしくなりました。

どうやら、キースが押しかけてきたようです。

報告書を一瞥し扉を開けるように指示しました。


「アイリス!君はどうしてノーラに酷いことをしたんだ!」


挨拶もなく、そんなことを言うキースに我が家の執事は無表情で侍女に指示を出しています。

執事がここにいる、ということはお父様に取り次ぐ前に上がり込んできたのでしょう。

周りの侍女の目も厳しく、護衛の目も据わっています。


「フォルガー子爵令息、御機嫌よう。

子爵家では伯爵家と違う教育をなさるのですね。この無礼は正式に抗議いたしますわ」


今までの私とは違う態度に一瞬怯んだようですが、すぐにまた声を荒げます。


「なぜ、ノーラを突き落としたんだ?」


ノーラさんが階段から落ち、階段の上には私のイニシャルが入ったハンカチが落ちていたようです。


「このハンカチは君のだろう!

私とノーラはただの友達だと何度も言っているのに、どうしてこんなことをするんだ!」


私はハンカチを一瞥すると侍女にハンカチを持ってこさせます。


「そのハンカチ、私のもの、というのは半分認めますが半分は否定いたします」


「なに?」


「半年程前、でしょうか。私のハンカチが一枚なくなりましたの。

私はすべてのハンカチに同じ刺繡をしております。

枚数も全て、私の侍女は把握しております。そうよね、カノン」


「はい。お嬢様のハンカチは毎年30枚ご用意しますが、

半年前に1枚紛失したため、追加で30枚新たにご用意いたしました。

紛失したハンカチと同じ刺繡のものは現在29枚、全て保管しております。

そのハンカチは半年前になくなったものでしょう」


「そう、ハンカチがなくなってしまいましたので新しくハンカチを用意しましたの。

今使っているハンカチの刺繡はこちらです」


キースが持っているハンカチとは違う色で刺繍した花を、彼に見えるように広げます。

キースの顔がみるみる青くなっています。


「だが、それが君がやっていない、という証拠にはならない…」


「ええ、私がやったという証拠にもならない、ということです」


「ならば、それではノーラが嘘を吐いているいると言うのか…?」


ここまできてもまだ、ノーラさんを庇う姿勢はご立派です。

ただ、これではどちらが婚約者か分かりませんね。


「ハンカチがなくなってしまって、カノンに庭も探させました。

貴方とノーラさんが帰る姿を見かけた時に、ノーラさんの手にはハンカチが握られていたようですわ」


「……ノーラが君のハンカチを?」


「ええ、貴方は気付かなかったのでしょうね。

ですので、すぐにすべてのハンカチを保管させて新しいハンカチを用意いたしました。

まさか半年前のハンカチが今出てくるとは思いませんでしたけれど」


デスクに置いた報告書を手に取り、キースに語り掛けます。


「ノーラさんが階段から突き落とされた、と言ったのは昨日の午後3時頃でしょうか。

公園近くの劇場の階段からですわね。

毎月、貴方とのお茶会前日に私はその劇場に行くと彼女に教えたのは貴方ですね?

観劇の後にアフタヌーンティーをいただいて帰る、ということも。

アフタヌーンティーをいただく前に、私が彼女を階段から突き落とした、と仰りたいのでしょうけれど…」


「そうだろう?君のその習慣は婚約したときから変わらないじゃないか」


腕を組んだ彼が言いました。私の手紙も、きっと半年前から読んでいないのでしょうね。


「私のその習慣は、半年前に変更いたしました」


「―は?」


「えぇ、ハンカチがいつどのように利用されるか分かりませんもの。

貴方には、半年前にお手紙を書きましたわ。

1人での観劇は毎月のお茶会がない週、水の日にしました、と」


「そんな―」


また顔色が悪くなっておりますが、私の手にある報告書に気付かないのはいただけません。

まだ16歳、年上の婚約者が目障りになっていたのでしょう。

けれど、貴族はそれでは許されません。

子供であろうと、義務を果たさない者は無用なのです。


「半年前から、貴方とノーラさんが特別に親しくなったと聞いております。

貴方は貴族女性のお茶会を見下しておりましたけれど、情報という武器は必要なのです。

どんな使い方をするかで相手を傷つけることも、自分を守ることもできるのです。

人の目がない場所など、この世にありはしないのですよ。

親の目を盗んでおいたをする子供が集まりやすい場所は特に、ね」


報告書を彼に押し付けます。

いつ、関係が始まり、いつ、どこでどのように仲を深めていったのかが克明に記されています。

そして、最後の1枚には―。


「……ノーラがハンカチを置き、自分で階段の下に横たわった後で私がノーラを発見した―」


「お粗末な計画ですこと。

普通、階段から落ちた人間がすぐに貴方と連れ込み宿に行ける訳がないでしょう。

婚約者とのお茶会前日にそんなことをするなんて…汚らわしい…」


私の視線に彼は浅い息を繰り返します。


「ここまで馬鹿にされて黙っていられません。

何より、貴方がその程度の女で満足することに耐え切れません」


「だけど、君は1人が嫌いだから…」


「えぇ、でもね、一緒にいるのに感じる孤独より、1人で味わう孤独の方が、まだ心は救われます」


お父様が荒々しく部屋に入ってきました。

報告書を読んでから来てほしい、という言付けを守ってくださったのでしょう。

彼がお父様の後ろをついて行きます。


項垂れる彼の背を見つめ、私はそっと目を閉じました。


終幕

ご覧いただきありがとうございます。


アイリス:18歳、優秀。この後はきっと毟り取った慰謝料を運用しつつ生きる道を模索するでしょう。

キース:16歳。優秀な婚約者にコンプレックスがあってちょっと悲しい顔させて自分の優位を感じる子供。性欲に負けて色々失う。

報告書には色々事細かに書かれているのに家族に公開されるという精神的にくる罰を受ける。

ノーラ:浅はか。彼氏を紹介したくない女ランキング殿堂入りしているがキースは知らなかった。

きっと彼女がいい女だったらアイリスも報告書は一部修正してくれたかもしれない。

報告書作成者:そんなことまで書けなんて言ってない!と怒られるが後にこの報告書は大人向け小説としてひっそり販売される。いい小遣い稼ぎになったので猿2人に感謝。

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― 新着の感想 ―
お年頃の愚か者の話は胸がすきますわね。 「あのオバサン、俺に夢中だからさ」とか言ってそうで愚か者のその後なんて想像の翼が広がりますわー。
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