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のほほん令嬢は吸血鬼っぽいおじさまと夜な夜なクッキーを焼く  作者: フオツグ


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5/6

私の太陽を守るためならば

 パーティー当日。

 ドラリウスの手配で、すんなりと会場に入ることが出来た。

 我が輩はお嬢さんを探した。

 一際美しい空色の髪を見つけ、我が輩は近寄った。


「お嬢さん!」

「…….おじさま?」


 お嬢さんは我が輩を見て目を丸くした。

 ただのクッキー屋のおじさんが、王族も出席するパーティーにいるとは思わなかったのだろう。


「ご機嫌よう。おじさまもパーティーに招待されたのですね」


 お嬢さんはいつもの素敵な笑顔で笑った。


「いつものエプロン姿を素敵でしたけれど、きちんとしたお洋服もとても似合ってますわ」

「お嬢さん、早くここから離れた方が良い」

「どうしてですの?」

「君の婚約者が、君のことを断罪するつもりらしい」

「だんざい?」


 お嬢さんはぽかんとした。


「アバドンは君に偽りの罪を着せ、婚約破棄するつもりなのだ」

「婚約破棄……あらまあ」


 お嬢さんはまるで他人事のようだった。


「心配いりませんわ、おじさま。わたくし、最近はやんちゃしていませんもの。お話をすれば、殿下の勘違いだとわかってくれますわ」


 彼女は何もわかっていない。

 人の悪意は、話し合いで解決することはない。

 奴らは結果ありきで、お嬢さんを貶めるのだ。

 世間を知らない、人は皆、善人として生まれると信じているお嬢さん。

 ……お嬢さんは我が輩が守る。


 □


──そして、冒頭に至る。

 お嬢さんの優しさに胡座をかいているアホ王子。

 お嬢さんが許しても、我が輩は決して許しはしない。

 無論、お嬢さんが嫌いな暴力は使わずに。

 我が輩はくく、と笑って見せた。


「我が輩を吸血鬼だなんだと言うがね。殿下は自分の目が真実だけを映していると思っているのかね?」

「……何が言いたい?」


 アバドンは眉を顰める。

 我が輩は手のひらを上にして、アバドンの隣にいる少女──ダムピィ・ビスコッティを示した。


「殿下の隣にいるお嬢さん……同胞(吸血鬼)の臭いがするのだがね」


 ダムピィ嬢の顔色が明らかに変わった。

 ……やはり、アバドンには隠していたようだな。


「何を馬鹿げたことを」


 アバドンは鼻で笑った。


「ダムピィが吸血鬼だと? 彼女は堂々と日の下を歩いている。学校にだって通っているのだぞ?」

「殿下はご存じないか。吸血鬼と人間の混血(ダンピール)の存在を」

「知っていて当然だ。忌々しい吸血鬼……〝ダンピール〟などという別名をつけたとて、吸血鬼と同じく虫唾の走る存在だ! さっさと消えて終えば良いのに」


 アバドンの言葉を聞いて、ダムピィの表情が暗くなった。

 やはり、アホ王子はダンピールを吸血鬼と同じものだと思っているようだ。

 我が輩は続けた。


「ダンピールは純血の吸血鬼とは違い、日の光を浴びても灰燼にならない。日中、学校に通うことも可能だ」


 我が血族の一人──ドラリウスの孫娘はダンピールだ。

 その子はダムピィ嬢と同じく、王立学校に通っている。


「俺を惑わそうとしても無駄だ、吸血鬼! ダムピィの耳は尖っていないし、牙も鋭くないではないか!」

「そ、そうよ! あたしはダンピールなんかじゃない!」


 ダムピィ嬢も反論した。

 我が輩はやれやれ、と首を横に振った。


「愛した者同士、隠し事は良くないだろう。……レディ、真の姿を見せてみよ」


 我が輩は力を込めて、指を鳴らした。

 会場に音が反響する。

 すると、ダムピィ嬢の体に異変が起こった。

 ダムピィ嬢は口に手を当て、片耳を覆った。


「何……何よこれ……! 変身が解けちゃう……!? お願い、止まってよ!」


 抵抗しても無駄だ。

 所詮はダンピール。


「その身に流れる血に逆らうことは出来まい」


 ダムピィ嬢は吸血鬼の身体的な特徴を吸血鬼の力──変化で隠していた。

 我が輩はダムピィ嬢に流れる吸血鬼の血を奮い立たせ、変身を解いてやった。

 ダムピィ嬢の牙は伸び、耳は尖り、瞳は血のように赤くなった。

 先程、アバドンが言っていた、吸血鬼の特徴そのものだ。


「ダムピィ……その姿……」


 アバドンはダムピィ嬢からさっと距離を取った。


「王子様、これは違うの! そこの吸血鬼の変な術のせい……そうよ、呪い! あたしは呪われたの!」


 ダムピィは不器用な笑顔でアバドンに訴えた。

 アバドンは軽蔑した目で、ダムピィを見ている。


「なんて気味の悪い見た目だ……。おい、吸血鬼! さっさとダムピィを元に戻せ!」

「はは。面白いこと言う。たった今、元に戻したばかりではないか。……しかし、そうだな。これが呪いだと言うのなら……殿下のキスで元に戻るかもな?」


 我が輩は試すように言ってやった。

 アバドンは喉を引き攣らせた。


「ダムピィ嬢を愛しているのだろう? 愛の力で呪いを解くが良い」


 アバドンは青い顔で首を横に振った。


「い、嫌だ。こんなダムピィとはキスしたくない!」

「王子様、酷いわ! あたしのこと好きだって言ったじゃない! どんなあたしでも愛してよ!」

「無理に決まってるだろう! そんな〝醜い

姿〟……!」


 プチン、と何かが切れた音が聞こえた気がした。


「混血だからって何よ! ダンピールは人間と結婚しちゃいけないの!? 半分は人間だわ!」

「もう半分が吸血鬼じゃないか! むしろ、半分だけなのが、更に気持ち悪さを増している! 吸血鬼と子を成すなど……! 君の親はとんだゲテモノ好きだな!」

「ひ、酷い……! ママとパパを悪く言わないで! あたしの大好きな人達なのよ!」


 ダムピィ嬢はその場にうずくまり、わんわんと声を上げて泣いた。

 彼女には可哀想なことをした。

 ダムピィ嬢は本気でアバドンを好いていたのだろう。

 だからといって、婚約者がいる男に近付くのは頂けないがな。


「全部、あんたのせいよ! あんたも吸血鬼の癖に──!」

「ダムピィ嬢」


 我が輩はダムピィ嬢の横に素早く移動し、耳打ちをした。


「貴女も吸血鬼の血を引いているのなら知っているだろう。ヴァニレブレッツェルンの名を」

「ゔぁに……? あっ! パパが言ってた『絶対に逆らっちゃいけない一族』……!」


 ダムピィ嬢は目を見開いた。

 知っているなら、話は早い。


「あまり我が輩を怒らせない方が良い」


 ダムピィ嬢は黙り込んだ。

 我が輩がドラゴンの血を引く吸血鬼だと察したのだろう。

 今回は警告だけで済ませてやろう。

 責任は、婚約者がいながら他の女に現を抜かしたアホ王子にある。


「シャム! 婚約破棄はなしだ! 俺はお前と結婚したかったんだろう!? 喜べ!」


 アホ王子はお嬢さんに擦り寄った。

 往生際の悪いことだ……。

 そんな言葉で、お嬢さんが帰ってくるとでも?

 お嬢さんは長いため息をついた。


「アバドン殿下……その前に一つ、よろしいでしょうか」

「な、なんだ?」

「わたくし、今、大変イライラしておりますの。殿下とダムピィさんとの愛が本物であれば、わたくし、大人しく身を引きましたわ。……ですがどうやら、純愛とは言えないようですわね」


 お嬢さんは拳を握った。


「シャム──んごッ!?」


 アホ王子の鼻頭に、お嬢さんの拳がヒットした。

 バキ、と鼻骨の砕ける音がした。

 箱入りお嬢様から放たれた渾身の右ストレートに、会場内が騒然となる。


「なっ……何をする! 不敬だぞ──!」

「これはダムピィ嬢の分ですわ」


 お嬢さんは左拳を握り締め、顎にもう一発食らわせた。

 とても綺麗な左フックであった。


「そして、これはおじさまを侮辱した分ですわ!」


 強かな姿だった。

──元々お嬢さんはそういう人だ。

 何度も挫けそうになりながらも挫けずにクッキー作りに挑戦し、アホ王子に足蹴にされながらも歩み寄ろうと努力していた。

 ただ、守られるだけのお嬢さんではなかったのだ。


「お、王子たる俺になんたる無礼な……!」


 アホ王子は目を白黒させながらも言葉を発した。

 彼もまた、なかなかのタフネスだ。


「この野蛮女!」

「ええ。わたくし、とても野蛮ですの。ご存じありませんでした?」


 お嬢さんはいつも通りの、無垢な笑顔でそう言った。

 顔の横には固く尖った拳。

 そのちぐはぐさが妙に恐ろしく映った。


「ひっ……」


 アバドンは顔を青くした。


「わたくしのような乱暴者、殿下の婚約者に相応しくありませんわ。また殿下にお暴力を働いてしまうかもしれません」

「い、今直ぐ、謝るなら許してやっても」

「結構ですわ。不敬罪で処刑でも何でもして下さいまし」


「失礼しますわ」とお嬢さんは一礼すると、パーティー会場を後にした。

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