Ep 8. 壊す
エレベーターが静かに鳴った。
最上階に降り立った。カーペットが敷かれた廊下、高価な絵画、金の装飾。ギャングの巣窟というより、豪華なペントハウスのようだった。
父は静かに、そして致命的な勢いで前に進んだ。
警備員が角を曲がってきた。
プッ。制止された銃声。倒れた。
階段からさらに二発の銃声が聞こえた。父のナイフが閃いた。静かに、きれいに。
廊下の突き当たりにある両開きのドアに着いた。オフィスだ。
「わかった」父はドアの取っ手に手を置いたまま、静かに言った。「ここにいて。廊下を見張ってろ」
「何だって?そんなわけないだろ…」
「フランクリン、それは命令だ」
私は拳を握りしめた。「…わかった」
父は中へ滑り込んだ。
外にいる私の位置からは、何もかもが聞こえていた。
「それで」と中から低い声が響いた。「倉庫に忍び込んで私を殺そうとしたのか?」
銃声がカチリと鳴った。
それからまた声が聞こえた。父の声だった。穏やかだが緊張した声だ。
「お前はヴィクター・デ・カルドに違いない」
ヴィクターは笑った。背筋が凍るような笑い声だった。「それに、ハーヴァンの小僧だろ。感心したよ。賞金を懸けてここまで来るなんて、勇気がいるな。500万ドルも借りがあるくせに、よくもそんな度胸だ。だが、これはビジネスだ。ビジネスとは…今夜、誰かが死ぬということだ」
私は唇を噛んだ。うまくいかない。
するとヴィクターの口調が鋭くなった。
「あの医者に伝えろ…もし金を払わなければ、奥さんは箱に入ったお前の首を届けられるのを待つことになるぞ」
血が凍りついた。いや…
考えずに、私は動いた。
ドアが勢いよく開いた。 3丁の銃が、たちまち私めがけて振り下ろされた。
「一体誰だ、このガキ!」警備員の一人が怒鳴った。
私は手を振った。「やあ。フランクリンだ。ところで、いいオフィスだ。緊張してるみたいだ。」
ヴィクターは眉をひそめた。「どうして彼のマナサインが読めないんだ?」
「ああ、それと…」私は首を傾げた。「…銃がちゃんと動くか確認した方がいいかもね。」
彼らは引き金を引いた。
カチッ。
何も起こらなかった。薬室は詰まっていた。金属自体が原子レベルで歪んでいたのだ。
父はチャンスを逃さなかった。
彼は片方の警備員の喉に肘を打ち込み、もう片方の手首をひねり上げて銃を地面に叩きつけ、それから膝を腹に突き刺した。二人ともカーペットに激しく叩きつけられた。
ヴィクターは悪態をつき、机の上の警報装置に飛びついた。
私は手を伸ばしたが、配線は一瞬で溶けてしまった。
死んだ。
ビクターは唸り声をあげ、自分のピストルを抜き取った。
銃口が父の方へと振り下ろされた。
「だめだ!」
私は父を押しのけた。
銃声が響いた。
バン!
胸に激痛が走り、息が詰まった。私は後ろに倒れた。
「フランクリン!」父の声はガラスのように割れた。
ハーヴァンの慌てた声がイヤホンから響いた。「ノーマン!ビクターの部下が来る!ここから逃げろ!」
「息子が撃たれた!」父は怒鳴った。「絶対に見捨てない!」
ビクターは前に進み出て、再び銃を構えた。「お前はとんでもない大男だ…だから、お前のガキどもと一緒に…」
そして彼は凍りついた。
彼の肌は灰色になった。
指は不自然にねじ曲がった。
静脈が浮き上がり、破裂した。彼は叫ぼうと口を開けたが、息は出なかった。
数秒後、彼は倒れた。
息絶えた。
私は息を切らして目を覚まし、胸を押さえた。
血は出ていなかった。傷もなかった。シャツは破れていたが、その下には…完璧な肌があった。まるで一から作り直したかのようだった。
「…先生の言う通りだった」と私は呟いた。
父は私を人生で一番強く抱きしめた。「息子よ…生きている…」
「父さん…締めすぎ…」
ハーヴァンの鋭く切迫した声が割り込んだ。
「心温まる瞬間を台無しにしてごめん…でも、ヴィクターの部下が100人、君のところに向かっているんだ!」
父と私は目を合わせた。
抱擁は終わった。
私はニヤリと笑った。「まだ終わってないんだね。」
オフィスのドアが勢いよく開いた。
叫び声が廊下にこだました。
ブーツが床に叩きつけられ、暴力沙汰を予感させるリズムが刻まれた。
父は拳銃を確認し、カチッと音を立ててリロードした。
「フランクリン」父は落ち着いた声で言ったが、アドレナリンで燃えていた。「お前が奴らの武器を奪え。俺は奴らの命を奪う。」
私は指の関節を鳴らした。「わかった。」
第一波が我々を襲った。タクティカルギアに身を包み、ライフルを構えた10人の男たち。
「発射――」カチッ、カチッ。
全ての銃が同時にジャムした。
男たちは役に立たない武器を見つめ、恐怖の色が目に浮かんでいた。
父はすでに動き出していた。
二発撃ち、二人を仕留めた。
父の手からナイフが飛び出し、三人目の男の喉に突き刺さった。
父は四人目の男の襟首を掴み、前に引っ張り上げ、バイザーを貫く弾丸を撃ち込んだ。
私は空中に手を振り回した。
金属が歪み、ライフルの弾倉が粉々に砕け散った。
装甲は潰れたソーダ缶のように崩れ落ち、両腕が脇に固定された。
「一体何なんだ!?」一人が叫んだ。
「一番の頭痛の種だ」と私は呟いた。
私たちは前進した。
狭い廊下は我々に有利に働いた。奴らは小集団でしか襲ってこなかった。
父は脇のドアを蹴破った。彼らにとってはまずい動きだった。
中にはさらに3人の警備員がいたが、父の消音ピストルで地面に叩きつけられるまで、かろうじて立ち上がる時間しかなかった。
受話器越しにハーヴァンの声が響いた。
「階段とエレベーターからあと2波!30秒ほどだ!」
私は父の方を向いた。「逃げてもいいが…」
「だめだ」父は私の言葉を遮った。「これで終わりだ。」
エレベーターがチャイムを鳴らした。
20人の男が一斉に出てきた。全員武装していた。
私は彼らに狙いを定めることすら許さなかった。
彼らのライフルは手の中で溶け、銃身は蛇のように曲がり、弾丸は無害な塵と化した。
父は唖然とする群衆の中へ突進し、幽霊のように身をよじり、肘打ち、蹴り、銃撃、ナイフ、その繰り返しだった。最後の男が床に倒れる頃には、彼の弾倉は空になっていた。
「残り30人だ」とハーヴァンは警告した。「今度は魔法使いを連れてくるぞ」
よし。
階段の扉が勢いよく開いた。ローブをまとい、腕に光るルーン文字を刻んだ執行官たちが出てきた。マナが空気中にパチパチと音を立てた。
一人が杖を掲げた。爆発寸前の呪文が空気を揺らめかせた。
私はそれを指差した。違う。
呪文を唱える途中で原子が解け、魔法陣は無害な火花の爆発へと変わった。
もう一人が燃え盛る剣を父に振り下ろした。彼は男の手首を掴み、骨が折れるまでひねり、それから自分のナイフを男の脇腹に突き刺した。
さらに三人が呪文を唱えようとした。
私は床を踏み鳴らした。コンクリートの分子が激しく動き、衝撃波が天井に吹き付けられ、彼らは意識を失って地面に落ちた。
最後の一人が倒れると、ホールは私の耳鳴りを除いて静まり返った。
辺り一面に死体が転がっていた。火薬と焼けたオゾンの臭いが漂っていた。
ハーヴァンの声が再び聞こえた。今度は少し落ち着いていた。
「床を片付けた。救出に向かうぞ。」
父は拳銃をホルスターに収め、私を見た。汗ばんで息が荒かったが、まだニヤニヤと笑っていた。
「悪くないな、坊や。」
私はニヤニヤと笑い返した。「老人にしては悪くないな。」
まだ知らなかった…
だが、ヴィクターを殺したことは、ブラックファングスよりもずっと深いゲームの最初の一歩に過ぎなかった。