Ep 5. くて乗る
サイエンスセンターの裏から荷物積み込み場に飛び出した。冷たい空気が顔に叩きつけられたようだった。
父は車のドアを勢いよく開け、私を車内に押し込んだ。
「シートベルトを締めろ!」と父は怒鳴った。
私がシートベルトをやっと締めた途端、父はギアをバックに入れた。タイヤが軋み、車は路地から後方へ飛び出した。
ハーヴェンは後部座席に飛び込み、書類の山を掴み、まるでマラソンを走ったばかりのような顔をしていた。
私はまだ息を整えていた。「それで、あのねえ、計画はどうなんだ?」
「計画だって?」父は唸り声を上げた。「計画は、撃たれないこと!」
背後でエンジン音が轟いた。
振り返ると…
2台の黒いSUVが、怒りの目のようにヘッドライトを輝かせながら、猛スピードで迫ってきた。
「やれやれ、もう『ワイルド・スピード』の世界だ!」私は叫んだ。
ハーヴェンはパニックを完全に無視し、座席の間に身を乗り出した。
「フランクリン、君は理解しているはずだ。物質こそ全てだ!原子も陽子も中性子も全ては…」
「先生!わかった!ビッグバンで物質ができたんだ!宇宙は物質だ!今まさに銃を持った奴らに追われているようなもんだ!」
「ああ、ああ。でも、原子の再構成の原理さえ理解できれば…」
父は急に左にハンドルを切り、ハーヴェンを私の膝にぶつけそうになった。「ハーヴェン、黙れ、さもないと手伝うぞ!」
弾丸が後部窓に当たって砕け散り、ガラスに蜘蛛の巣を張った。
私は身をかがめた。「ああ、あいつらが撃ってる!何とかして、父さん!」
「どうしろって言うんだ、翼が生えたのか!」父はハンドルを回し、怒鳴った。
ハーヴェンが私の肩を掴んだ。「フランクリン、いいか!物質を操れるんだろ?なら、タイヤの物質を変えて、不安定なものに変えてやる!」
「え、水風船とか?」
「ええ!」
私はシートの中で体をひねり、SUVのタイヤに集中した。
ゴムの分子が変化し、ほどけ、柔らかく液体になっていく様子を想像した。
ポン!ポン!
後ろのSUVは激しく横滑りし、ホイールがアスファルトを擦って火花を散らした。横転して街灯に激突した。
2台目のSUVはそれを避けようと急カーブを曲がったが、父はその隙に急カーブを曲がった。あまりの急カーブに、私は胃が飛び出しそうになった。
「ナイス!」父は歯を食いしばって言った。「もう1台にも同じことができるのか?」
私は試みたが、もう1台のSUVは既に私たちに追いついてきていて、エンジンは悪魔のように唸りを上げていた。
「よし」と私は呟いた。「創造力を働かせる時間だ」
ラジエーターの後ろの空気が、重厚で硬い鉛で満たされる様子が目に浮かんだ。
数秒後、ボンネットから蒸気が噴き出した。
運転手がコントロールを失い、SUVは横滑りして、バン!という音を立ててゴミ箱に激突する。
静寂――父の荒い息遣いとエンジンの轟音だけが響く。
私はシートに崩れ落ちた。「よし…どうやら奴らは逃げられたようだ」
ハーヴェンは狂ったようにニヤリと笑った。「分かったか?無限の可能性だ!十分な技術があれば、現実の物理的構造さえも書き換えられる!」
父はハーヴェンを睨みつけた。「ハーヴェン、黙れ。あの子は俺たちの命を救ってくれたんだ。息はさせてやれ」
でも、私は思わず考えてしまった…
もしパニックになりながらこんなことができたら…
もし我慢していなければ、何ができるだろう?