第四話 「赤い瞳と小さな町」
森を抜けると、朝の光に照らされた小さな町が見えてきた。
石畳の道に並ぶ家々は、どこか古めかしくも温かみがあり、屋根の上では猫が日向ぼっこをしている。
「ここで情報を集めよう」
リクトが言う。町には、呪いの面や魔獣に関する噂を知る者がいるかもしれない。
紅は足を止め、周囲を見渡した。
人々は皆、私を見る目を避けるようにそわそわしている。右半分の狐面は、どうしても異質で恐怖を与えてしまうらしい。
「……やっぱり、見られない」
紅は小さく呟き、クロをそっと抱き寄せた。
そこに、一人の少女が駆け寄ってきた。
小柄で金色の髪をした子は、紅の面を見ても怖がることなく、むしろ興味深そうに首をかしげた。
「その面、すごく……不思議ね!」
紅は驚きと戸惑いの混じった目で彼女を見る。
リクトも目を細める。町では、面を見ただけで人々は逃げるか、距離を取るのが普通だった。
「……あんた、面のこと知ってるの?」
少女は首を振り、にっこり笑った。
「いいえ。でも、何か手がかりがあるかも。町の古い神社に行ってみたら?」
その神社は、町外れの小高い丘にひっそりと佇む場所だった。
紅はゆっくり頷き、クロと共に歩き始める。リクトも後に続いた。
神社の境内には、朽ちかけた石灯籠と苔むした社殿。
しかし、柱の一部に奇妙な紋様が刻まれていることに気づく。
それは、狐面に刻まれた魔方陣と酷似していた。
「……これは?」
紅が手をかざすと、面が微かに熱を帯び、光の糸のような線が紋様に向かって伸びる。
その瞬間、森での戦闘の時とは違う、優しく、しかし確かな力が胸の奥に伝わる――。
呪いの面の暴走と、癒しの面の存在を確信させる、最初の手がかり。
紅は深く息を吸い込み、決意を新たにした。
「……探す。私の半分を、必ず」
こうして、町の小さな神社が、紅たちの旅の最初の鍵となる――。