第三話 「面の秘密と旅の兆し」
夜が明け、森は赤い月の光を失い、静かな朝の霧に包まれていた。
クロは紅の側で静かに座り、まだ残る血の匂いを嗅ぎ分けている。
「紅……あの面、ただの飾りじゃないな」
リクトの声が低く響く。彼は森の奥で焚き火を囲みながら、狐面をじっと見つめていた。
紅は返事をしない。ただ、右目の奥で面が小さく脈打ち、時折微かに囁く。
――血を、もっと……
その声はまだ消えてはいない。
リクトはゆっくりと膝をつき、紅に手を差し伸べた。
「面……力があるんだろう? けど呪いもかかっている。お前を縛るような」
紅は視線を逸らし、拳を握り締める。
「……わかってる」
でも、その声は弱く震えていた。
クロが低く唸り、森の奥を警戒する。
その視線の先、木々の間にわずかに光る金属片があった。
リクトが指差す。
「……あれが、手がかりかもしれない」
紅の狐面は微かに熱を帯び、左半分の面――癒しの面――がどこかにあることを示しているかのように、面の魔方陣が淡く光った。
「行くの?」リクトが尋ねる。
紅はゆっくり頷く。
「……探さなきゃ。私の半分、取り戻すために」
こうして、紅とクロ、そしてリクトの三人は旅の第一歩を踏み出した。
森を抜け、町を越え、呪いと癒しの二つの面を巡る冒険が始まる――。
まだ、誰も知らなかった。
この旅が、紅自身の記憶と過去、そして面の秘密に迫るものになることを。