表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

冒頭そして、第1話(出会い)



■冒頭+第1話


冒頭


 ――人は誰しも仮面を被り生きている。

 本音を隠すため。

 誰かを欺くため。

 あるいは、自分を守るため。


 だが、私の仮面は違う。

 外すことも、選ぶこともできない。

 目を覚ましたときには、もう張り付いていたのだから。


 白地に赤い魔方陣の刻まれた狐の面――右半分だけを覆うそれは、私の一部のように肌と同化していた。

 冷たく、重く、時折囁く声を放つ。

 その声を聞くたび、胸の奥がざらつき、優しいはずの自分が、別の何かにすり替わっていくような感覚に襲われる。


 私の名は――くれない

 記憶はない。ただひとつ、この面の“もう半分”を探している。

 それだけが、私を歩かせる理由だった。



---


第一話 「赤い月の森で」


 夜の森は、息を潜めたように静まり返っていた。

 赤い月明かりが木々の間を縫うように差し込み、濃い霧の中を彷徨う私の足元を照らす。


 そこで、かすかな唸り声が耳に届いた。

 霧の奥に、黒い塊が倒れている。

 近づけば、それは巨大な魔獣だった。

 漆黒の毛並みに無数の傷。呼吸は浅く、体温が落ちている。普通なら、近寄ることさえしないだろう。


 私は膝をつき、躊躇なくその体に触れた。

 「……まだ、間に合う」

 左目が淡く光を帯びる。狐面がわずかに熱を持ち、封じられた力が解き放たれる。


 赤い光が、魔獣の傷を覆い、閉じていく。

 だがその力は優しさではなく、どこか禍々しい色を帯びていた。

 魔獣が身じろぎし、うっすらと目を開けた瞬間――


 「お前……何者だ?」

 背後から声がした。


 振り返れば、革製のケースを背負い、腰に銀の笛を提げた青年が立っていた。

 短く切り揃えられた髪、鋭い視線。しかしその目の奥には、焦りと安堵が入り混じっている。


 彼は私を見つめ、そして倒れた魔獣に視線を落とした。

 「……こいつを助けたのは、お前か?」

 「助けたわけじゃない。ただ……」

 言葉を濁す私の視線が、自然と森の奥へ向く。あの面の“もう半分”が、どこかにある気がしてならなかった。


 青年は、魔獣の頭を撫でながら、静かに名乗った。

 「リクト。モンスターテイマーだ。……あんたの名前は?」

 「紅」

 狐面の下の右目が、月明かりを反射して光る。


 その瞬間、私たちの足元で小さな震動が走った。

 霧が揺れ、闇の中から複数の赤い瞳がこちらを覗く。

 魔獣の敵――ハンターたちが、静かに包囲を始めていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ