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召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜  作者: 夜霞(四片霞彩)
待ち人来たらず、珍客来る

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第10話

 目が回るような忙しさから解放されたのは、夜も更けた頃だった。男性に言われて、暖簾を外しに行くと、高いところに月が昇っていたのであった。

 神たちが人の世に息づいていた神代の時代から続く美しい月のことを『神代の月』と表現するらしいが、この神やあやかしが住む世界で見える月こそ、神代の月と言えるのかもしれない。舞い散る竹の花びらも月明りに照らされて、幻想的な光景を生み出していたのだった。

 

「こんな時間まで店を手伝わせて悪かったな。ここまで混んだのは初めてだったから助かった」


 暖簾を抱えて店に戻った莉亜を出迎えながら、男性は客がいなくなった店内の後片付けをしていた。既に釜や鍋などの調理器具は洗っていたので、残っているのは客が使った食器と竈の後始末くらいであった。


「大したことはしていません。それにあやかしや神にも色んなタイプがいることを知れました。それに皆さん、優しいですし」

「そう言ってくれると彼らも喜ぶ。帰る前に茶でも一杯、飲んでいかないか。疲れただろう」

「ありがとうございます。丁度、喉が渇いていたのでいただきます。よもぎさん」

「よもぎ……」

 

 急須を持つ男性の手が止まる。そのまま困惑したように止まってしまったので不安になってしまう。


「違いましたか? 皆さん、神様のことをそう呼んでいたので、よもぎという名前なのだと思っていましたが……」

 

 最初に来た男子たち――男性が雨降り小僧の兄弟だと言っていた。や、その後に来た客たちも男性のことを「よもぎ」と呼んでいたので、それが男性の名前だと勝手に思っていた。だが男性の反応を見る限り、違ったのかもしれない。

 謝ろうと莉亜は口を開くが、それより前に男性が「そうだな」と肯定したのであった。


「俺の名は(よもぎ)だ。まだ名乗っていなかったな」

「蓬さんは切り火ちゃんたちと一緒にここでお店をやっているんですよね。大変じゃないんですか?」

「ここは神やあやかしの中でも、限られた者しか知らない店だ。そう滅多に混まない。人の世との中間にあるから、神域の中でも首都からかなり離れた場所にある」


 蓬の話によると、神やあやかしが住まう神域の首都は莉亜たち人間が住む世界と同じくらい発展しているらしい。電気だけではなく、ガスや水道も通っており、電車や車なども走っており、商業施設や飲食店も充実しているとのことであった。


「隠れた名店なんですね」

「品目は塩むすびしかないがな。まあ常連客も増えて、要望も出てくるようになったから、そろそろ新しい品書きを考えなければならない」

「でもおにぎりなんて、そう悩まなくてもすぐにメニューを増やせると思います。鮭に梅、昆布に明太子、ご飯も炊き込みご飯や出汁炊きご飯などありますし……」

「そうだな……」


 眉根を寄せて蓬が考え始めてしまったので、もしかしたら余計なことを言ってしまったかもしれないと思い始める。その後、莉亜は蓬が淹れてくれた熱い煎茶をゆっくり飲み干すとエプロンを外したのだった。


「そろそろ帰りますね。おにぎりとお茶、ご馳走でした」

「分かった。牛鬼の番人が守護する人の世との境目まで送っていこう」


 莉亜は髪を解きながらトートバッグを取りに店の奥に向かうと、切り火たちが炊事場の社から顔を覗かせているのが見えた。すると切り火のひとりが小走りで莉亜の元にやって来たかと思うと、身体によじ登ろうとする。


「どうしたの?」


 莉亜が掌を差し出すと、その上に切り火が乗ってくる。何かを話したがっているようにも見えたので切り火を耳元に近づけると、機械音のような小声でゆっくりと話し出したのだった。


「マ、タ、キ、テ、ネ」


 それだけ言って、切り火はまな板の上に飛び乗ると、脱兎のごとく社に戻って行ったのだった。その様子を見ていたのか、蓬から嘆賞の声を掛けられる。

 

「すっかり切り火に気に入られたんだな。あいつらは心を許した相手にしか言葉を発しないんだ」


 いつの間に切り火たちに気に入られたのだろうと考えながらトートバッグを手に戻ると、そこには店が混雑する前に用意していた竹皮の包みを手にした蓬が待っていたのだった。


「そのおにぎりは?」

「番人への差し入れ兼通行料だ」


 店から出た蓬は空いている手にどこからともなく提灯を生み出すと、先導するように花忍の道を歩き出す。遅れないように莉亜がついて行くと、やがて目の前に大きな桜の木が現れたのだった。

 公園に植えられていた木に似ていながらも、花びらが白い桜に気を取られていると、桜の木を守るように牛の形をした鬼が欠伸をしながら眠たそうに座っていることに気付く。そんな鬼の足元ではハルが丸くなっていたのだった。


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