ep7 手がかりを求めて
そう言って楓先生は部屋から出て行った。私自身がわかっている?私はただ先生の元にターゲットを運ぶ運び屋だ。そんな私に何ができるというのか。考えていたら不安が一気に襲いかかってきた。私は任務を全うできるのか。相手は魔法使いだ。一瞬の判断遅れが生死を分ける。今日は楓先生がやってくれると思ったので銃も持っていない。
竹野内刑事の言葉を思い出した。「まるで鬼が地獄から飛び出してきたようだった」と。私は1年楓先生の元で暗殺術を習っている。正直警視庁捜査一課を相手にした時は手加減をしていた。できるのか、私に。
「夏樹ちゃん!置いていくよ!柳沢夫妻もついてきてください!」
玄関のドアを開けて楓先生が叫んだ。ついていくべきか否か迷っている柳沢夫婦に、私は「楓先生が守ってくださるので大丈夫です」と落ち着かせた。問題は自分自身の身の安全で、それ以外は心配ないだろう。柳沢夫婦は頷き、楓先生の後を追った。私も「できる…」と呟き、その自信を胸に、玄関から出て行った。
六本木へ向かうタクシーの中で、私は楓先生に訊いた。
「霞ちゃんを連れ去った残滓がなかったこと以外に、何か気になることでもあったのですか?表情が硬かったので」
隣の席に座っている楓先生は言った。
「魔法を行使する際のルール、覚えてないのかい?結界と攻撃魔法を同時に操ることはできない。結界内の出来事は結界外から見ることはできない。それと」
「それと?」
「結界内に入れるには予めマーキングが必要だ、ということさ」
私は思わず「あっ!」と叫んでしまった。霞ちゃんを誘拐するには予めマーキングする必要がある。犯人は誘拐する前に霞ちゃんと接触していた!
「和博さんも犯人が近くにいればわかるはずさ。腐っても国選魔法使いだったんだから。それで訊いたんだ。近づいてきた人はいなかったかをね。でも当ては外れたようだ。そうなると問題は、どこで霞ちゃんと犯人は接触したかだ。和博さんが霞ちゃんを連れて出歩けば接触のチャンスはあっただろうが、それもなかった。この事件、本当に密室で起きたことなのだろうか」
楓先生は悩んでいた。確かにそうなるのも無理はない。密室の誘拐など本来はあり得ないのだ。誘拐とあらば外へ出る手段が必要だ。しかし、今回の事件には中へ入った形跡も外へ出た形跡もない。魔法を駆使した実質の密室l誘拐なのだ。
「六本木の不良達を調べれば何か出てくるかもしれないんですよね」
私の問いに、楓先生はうーんと唸った。
「正直望み薄だろうね。この誘拐はただのチンピラにできる芸当じゃない。でも何か手がかりは得られるかもしれない。たとえば、チンピラの裏に大物魔法使いがいる、とかね」
「そんなことあるんでしょうか」
「可能性はひとつずつ潰していくことさ。当てずっぽうはダメだがね」
そう言って楓先生はあくびをした。
今日も2回投稿でした。来週からは1回になると思います。
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