ep6 密室誘拐
代わりに私が口を開いた。
「密室、ですね」
楓先生は言った。
「そうだね。密室の誘拐なんて聞いたことないが、カードキーがないと動かないエレベーター、もちろん玄関ドアも開かない。そして痕跡も残さず霞ちゃんを連れ出す手口。もっと調べないといけないことがあるが、今のところ密室だと言っていいだろう。久美子さん、マンションのセキュリティ管理者には問い合わせましたか?」
「はい。異常はなかったそうです」
「ありがとうございます。よし…」
楓先生は久美子と和博に向かって言った。
「表舞台の人間が、裏で何やってるかなんて誰にもわかりません。久美子さんが扱っていた六本木のチンピラの件、無関係ではないかもしれないので、今から調べに行きます。夏樹ちゃん」
楓先生に呼ばれて、私は「はい」と反射的に応えた。
「警察に、柳沢魔法使いの名前を出して、六本木の件について調べたい旨を伝えてくれ。竹野内刑事に繋げてくれると尚いい。武力行使も辞さない旨も忘れずに」
楓先生はそう言うと、スタスタと玄関まで歩いて行った。
私は指示を受けて親指と小指を立て、親指の方を耳の辺りに近づけた。そして「警視庁、竹野内刑事に」と言った。呼び出し音がしばらく続いたのち、眠そうだが渋い声で「はーい」という声が聞こえた。竹野内刑事だ。
「周防魔法事務所の草薙です。柳沢魔法使いの件で今柳沢さんのマンションにいるのですが」
そこまで言うと、竹野内刑事は「嬢ちゃんか」と言った。
「柳沢というと、例の赤ん坊誘拐の件か?」
「はい。今捜査が手詰まりでして。今から六本木に向かうところです。柳沢魔法使いの扱ってた案件です」
「柳沢さんが担当してた事件か。たしか六本木で違法魔法使いが占拠してるっていう」
「はい。これから向かおうと思いまして。それで武力行使の許可をいただきたく」
私がそう言うと、竹野内刑事は「はぁ」とため息を漏らした。
「周防の嬢ちゃんが魔法を使わないなら許可する」
「魔法なしで制圧しろと?それでは私達が危険です」
私は楓先生に両腕でばつ印を示した。楓先生が仕方なさそうに右手で⚪︎印を送ってきた。
「周防の嬢ちゃんのために何人国選が動くと思ってるんだ?払う金もないだろう?」
「今回は前金で1億もらってます」
「それは自分たちの為に使え。六本木の件は草薙の嬢ちゃんいればなんとかなるはずだ」
「はっきり言って自信ありません。楓先生が動くならともかく、あの人動きたくない人なので」
竹野内刑事は「何言ってんだ」と言いながら続けた。
「嬢ちゃんが警視庁に出稽古に来た時、警視庁捜査一課の猛者達を全員拳一撃で病院送りにしただろう?あの時の嬢ちゃんすごかったぜ。まるで鬼が地獄から飛び出してきたようだった。おかげで仕事はどん詰まりになったけどな」
私は恥ずかしくなって、赤面していたと思う。「若気の至りです」と小声で答えた。
「だから心配するなって。強行調査の件は申請しておくから、気張らず行ってきな。魔法使い相手だろうと、嬢ちゃんなら一撃粉砕さ」
その後一言「じゃーな。頑張れよ」と竹野内刑事は言って強引に電話を切った。私はどうにも気が収まらなくて、立てていた小指と親指をしまい、拳を握った。この拳でどうにかなるのか。考えていると、玄関から「夏樹ちゃん!」と呼ばれたので振り向いた。楓先生だ。
「竹野内刑事からは許可もらえたかい?」
私は両の掌を上にして掲げてみせた。
「申請はしてくださるみたいです。楓先生、魔法は使えませんが、体術なら使ってくれますよね?」
訊くと、楓先生は嘆息して靴の履き直しを始めた。
「私が魔法の行使以外で動くとでも?」
「はいはい。わかってました。私がやります。そのかわりちゃんとバフかけてくださいね」
「その必要はないだろう。夏樹ちゃん自身がわかってるはずだ」
読んでくださってありがとうございます!
よろしければブックマーク、リアクション、星などつけてくださると小躍りします。
よろしくお願いします。