ep 55 神の御許へ③
1周年です。
まだまだ書き続けたいので、よろしくお願いします。
精霊界__天ちゃんは高天原と言ったが、そこでは既に混乱が生じている。昔から天ちゃんは精霊界の事情を詳しくは語らないし、おそらく精霊界の取り決めで現世の人間に精霊界のことを深く知られてはいけないのだろう。だから私も追求しないことにしている。
だが天ちゃんはヒントをくれた。
この男が利用されているということは、召喚師達に搾取されているということだ。男はこう言った。『俺達には俺達の正義がある』『変革には犠牲はつきもの。覚悟の上』と。一方的に搾取されているのだとしたら、この発言は矛盾を孕んでいる。
気になる発言はまだある。『あいつとは違う』というものだ。話の文脈からすると男が指す”あいつ”が複数いる召喚師の内の誰かである可能性が高い。”あいつら”ではなく”あいつ”。男は少なくとも召喚師の一人に対して不満を持っているようだ。
つまり。
(男の思想は召喚師達と共有しているが、召喚師全員に心を許しているわけではない、か)
人間なんだからそういうこともある、と言ってしまえばおしまいではある。しかしテロリストとは往々にして個の感情を殺し、思想という名の旗印の下正義を振り翳すものだ。たとえ罪のない一般人相手でも自らの正義に反すれば躊躇なく殺す人種だ。それに比べてどうだ。この男はまだ人間味を残しているように思える。思想を語ってはいるが、感情があるのだ。
「天ちゃん」
「なぁに?」
「この男は私に召喚師達の思想を語ったんだが、利用されっぱなしではないみたいなんだ」
「うん」
「この男は召喚師の内の一人に何らかの不満を持っていると取れる発言をした。召喚師達が精霊の力を行使してこの男に”洗脳”を施しているのだとしたら、そんなことが可能なんだろうか」
天ちゃんは眉を顰めて「うーん」と唸った後、
「言っていいかわかんないけど…たぶん大丈夫ね。わたし偉いし」
そう言って天ちゃんはにっこりと笑った。
「無理ね。子供達の魔法には目を瞠るものがあるけど、わたしたちの力に抵抗するのは不可能だよ。蟻が象に勝てないのと同じ」
私は思わず笑みが溢れた。天ちゃんは常に物事を客観視する。その天ちゃんが不可能と言ったのだ。これは私にとってこの事件の突破口になり得る言葉だった。
私は男に顔を向けた。
「取引しましょう」
「…取引?」
怪訝顔の男に私は続ける。
「貴方が”言えない”理由を我々が排除します。だから全てをお話しください」
「何言って__」
「わかったんですよ。貴方は貴方の正義のために動いているとね」
町中に目をやると、集中するようにぎゅっと目を閉じていた。言霊使いの本領発揮というところか。
視線を男に戻して続ける。
「貴方の言動には一貫性がないんです。違和感は此処、内宮で私が召喚跡を調べている時からありました。明らかに私を狙っているのに攻撃してこなかった。町中さんに声をかけられて、彼がいたから攻撃してこなかったのかとも思いましたが、伊勢市駅では攻撃してきたので違うと断定しました。貴方が此処で攻撃しなかったのは、此処に敬意を払ってのことでしょう。正義のための犠牲はつきものというのなら、此処くらい簡単に破壊してみせるはずです。しかし貴方はそうしなかった」
「………」
「二つ目の違和感は伊勢市駅の攻撃です。貴方は私が召喚跡を調べられる程度の魔法使いだと知っていながら、あの時は一発二発の攻撃しかしてこなかった。あれだけの火球を同時に操れる魔法使いが同程度の魔法使いを仕留めるのに、あんな粗末な攻撃をするわけがありません。貴方は最初から我々を誘う気だったということです」
私は続ける。
「最後に違和感を感じたのは、貴方は私に『召喚に関わったものを殺せばいい』と仰ったことです。竹野内刑事と話した後には『素性を言わないのか』とも仰いました。本当に召喚師達の思想に染まっているのだとしたら、そんな言葉は出ません。今思えばその言葉全てが”止めてほしい”という願いから来ていると思えてならないんですよ」
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