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ep 53 神の御許へ①

 「周防の嬢ちゃんか。何かあったのか?」

 

 寝起きのような低い声だ。竹野内刑事の声はいつも眠そうに通話に出るなとある意味感心したが、私からの連絡は仕事以外にあり得ないと知っているから直ぐ出てくれるのはありがたい。

 

 「殺人未遂犯の男を現行犯で確保ました。魔法使いです」

 「ほう、熱心だな。…ん?」

 

 竹野内刑事の思考が一瞬止まるのを通話越しに感じた。

 

 「現行犯ってことは、結界はどうした」

 「当然ありません」

 「戦闘しなかったのか?」

 「戦わないで魔法使いを捕まえられるわけないでしょう」

 「ちょっと待て!」

 

 眠そうだった竹野内刑事の声が跳ねた。

 

 「…街は無事なんだろうな?」

 

 「ご心配なく。私が放った魔法で街が壊れるようなことはありませんから」

 

 「当然のように言うな!結界があってもお漏らしするじゃないか!」

 

 「結界師に言ってくださいよ」

 ひとつ溜息をついて続ける。

 

 「というか、戦闘中に尿を垂れたことなんてありません。セクハラも程々にしないとクビになりますよ」

 「…意味わかって言ってるだろ」

 「さぁ」

 

 暫し沈黙が流れ、竹野内刑事の諦めたように息を吐くのが聞こえた。

 

 「街が消滅したという連絡もないし…はぁ、信じるか。場所は?」

 

 「伊勢市駅です。なるべく早く来てください。ああ、風魔環を忘れずに」

 

 「はいよ。ところで、草薙の嬢ちゃんも一緒か?」

 

 「ロリコンはどうかと思いますが」

 

 「違うわ!」

 鼓膜を破りかけない大声に思わず手を耳から離す。

 

 「もういい。すぐ行くから待ってろ!」

 

 竹野内刑事は吐き捨てるように叫び、通話を切った。道路や民家の屋根に多くの穴が空いたことは伏せておいたが、別に構いはしないだろう。

 手を下ろして男を見ると、何やら怪訝な表情をしている。

 

 「俺の素性、言わないんだな」

 

 「後で伝えますよ。町中さん!」

 家の下で待っているであろう町中を呼ぶと、「なんだー」と返ってきた。

 

 「今から犯人を放り投げるのでキャッチしてください!」

 

 言いながら男の後ろ襟を掴んで適当に放り投げた。下から「うおっ!」という声が聞こえたので無事受け止めてくれたようだ。私は二軒隣の屋根から飛び降りて町中と合流した。

 

 「こいつもう暴れないだろうな?」

 

 「ええ。彼はそう馬鹿じゃなさそうです。さて__」

 

 この伊勢の地に召喚術師に関わる人間が一人いたということは、他にもいるかもしれない。近くで私達を観察していることも考えられる。とりあえずの目的は達せられたにしても竹野内刑事が到着するまで男を放っておくことはできないし、この後念の為”挨拶”に行く予定でもある。

 私は町中に腕を掴まれている男に振り向いた。

 

 「警察の前に、主神に懺悔でもしましょうか」

 

 男は理解できない様子で、頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいた。 

 

 

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