ep 48 町中玲
「待ってくれ」
まだ何か用があるのか。溜息が漏れるのを我慢できない。
私は仕方なく振り返った。
「知らない男性に声をかけられる恐怖をご存知ですか?」
「その名前…神崎伊織の娘さんか?」
私は言葉を失った。神崎伊織は私の師匠の名前だ。そしてこの男性が指摘した通り、神崎夕姫は師匠の娘の名前。師匠は長らく隠居生活をしているので、神崎夕姫の名と師匠を関連づけられる人間は限られている。
「神崎伊織と貴方の関係を聞かせていただけますか」
少し眼力が強すぎたかもしれない。男性は気圧されたように少々仰け反ったが、すぐに気を持ち直したようだった。
「古い友人だ。町中玲という。君とは赤ん坊の頃にしか会ったことがないから知らないかもしれないが」
町中玲。聞いたことがあるような気がする。たしか魔法使いではなかった。師匠の友人に魔法使い以外の人間は殆どいなかったはずなので記憶に残っていたのか。でも町中玲という名前…魔法使いでないのは確かだが、一般人ではなかったような。兎も角、師匠の友人というなら私も態度を改める必要がありそうだ。
私は姿勢を正し、頭を下げた。
「失礼しました。私の本当の名は周防楓といいます。神崎伊織の弟子です。町中さん、貴方の事は師匠から伺っています」
「伊織の弟子?あいつ、弟子なんて取ってたのか。意外だな」
町中はゴツゴツした指で顎を撫でている。
「改めて伺いますが、私に何か用ですか?」
「ああ。この聖域で行われた儀式について、君が何か知っていそうな様子だったのでね」
魔法使いでもないのに精霊召喚のことを勘付いているのか。それとも何処かで情報を得ただけか。若しくは、当事者か。いずれにせよ好都合だ。こちらの情報を与えて様子を見てみることにした。
「精霊召喚が行われたようです。召喚された精霊は赤ん坊の姿で、現在行方不明。私はある人の依頼でその精霊と召喚術師を探しています」
「精霊召喚…ねぇ」
町中は少し考え込む様子だったが、納得したようだった。その表情を読み取るに私を敵とは思っていないようだ。もし町中が召喚術師なら私に対して何かしらの思いがあるはずで、その思いは隠そうとしても必ず仕草や言葉に表れる。手の動き、視線の動き、足の動き、汗など、どれだけ取り繕おうとしても見る人が見ればわかるものだ。町中の様子は特に変わったところはなく、明らかにシロと言えるだろう。それなら、町中をこの件に関わらせるのは危険だ。魔法使いでない町中が関われば、どんな危険な目に遭うかわからない。私では守りきれないかもしれない。
「町中さん、何かご存知なら教えてください。そして、この件から引いていただけますか」
「何故だ?」
「危険だからです」
「君は本当に俺の話を伊織から聞いていたのか?」
「…というと?」
町中は出来の悪い子供を見るような目をした。
「俺は『言霊使い』なんだよ。その辺の魔法使いより強いぞ?」
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