ep 41 学園の朝
翌日。朝起きて、欠伸をしながら事務所に顔を出すと、楓先生がスーツケースに座って携帯をいじっていた。いつものTシャツにジーンズという格好ではなく、珍しく黒のジャケットにスカートを着ている。シャツの胸元にはボロタイが光っていた。
「おはよう」
「おはようございます、楓先生」
楓先生はジャケットの内ポケットに携帯を入れ、スーツケースから腰を上げた。
「私はもう行くよ。昨日話した件、よろしくね」
今日の放課後に学園の仲間達と魔法省の秋田竜司を訪ね、精霊のことを訊かなければいけない。楓先生と別行動をするのは初めてだが、気を引き締めてかからないと。
私は強く頷いた。
「はい。楓先生も、お気をつけて」
「ああ。それと…」
楓先生は机の抽斗から一丁の銃を取り出した。
「念の為、持っていきたまえ。椿には伝えてあるから、学園で何か言われることはないだろう」
私は差し出された銃を受け取った。この銃は魔鉱と呼ばれる特殊な金属でできており、銃身は長く、グリップ全体には炎の意匠が彫られている。
「伊奘冉…」
伊奘冉は楓先生が私のために作ってくれた銃だ。私の魔力を弾丸とし、それを撃ち出す機構が組み込まれている。私専用の武器で、私以外は使用できないようになってる。伊奘冉という名は、楓先生が私にピッタリだからと付けてくれた名だ。
「じゃあ、行ってくる」
楓先生は迷いなく事務所のドアを開けた。信頼してくれているということだろうか。だとしたら私はその信頼に応えなければ。
楓先生の後ろ姿に一抹の不安が過ったが、「いってらっしゃい」と見送った。
魔法科2年の教室。朝礼前。
中間試験が近いこともあり、教室内は机に向かう人ばかりで静まり返っていた。今日は珍しく茜と電車で会わなかったから先に学園に来ているかと思ったが、まだ茜の姿はないようだった。
私は太腿に装着しているホルスターに触れた。通学途中届いた楓先生からのメッセージが頭によぎる。『私がいない間、常に伊奘冉を装備していてくれ』と書いてあった。信頼してくれているのか、でも心配しすぎな気もするし、楓先生はよくわからない。とにかく今は友達に協力を仰がなくては。
自分の机に鞄を置き、勉強中の大久保流水と姫路真の席の側に立った。
「流水、真、ちょっといい?」
声をかけると2人は顔を上げた。
「あー悪い。今ちょっち立て込んでてよぉ…」
流水が死にそうな顔で頭を掻きながら言った。
「中間やばいの?」
「まぁ…な。今真に教えてもらってんだよ」
そういえば、流水は試験前になるといつもこんな顔をしている気がする。実技は申し分ないのだが、筆記試験は毎回赤点ギリギリだった。
流水とは違い、幾らか余裕のありそうな真がクスリと笑った。
「流水は基礎魔法理論苦手だからね」
「あー、やベーよ!間に合うかなぁ」
「夏樹は?中間どう?」
真は嘆く流水を無視して訊いてきた。
「いつも通りかな」
私は正直に答えた。私は試験勉強という試験勉強はやったことがない。そもそも楓先生の仕事についていくことが多いので、勉強する時間がない。だから授業中に頭に叩き込むようにしているのだ。
「いつも通り、ねぇ…いいよな、首席様はさぁ。頭の出来が違うっつーか」
「勉強のこと聞きに来たの?」
真が首を傾げて言った。
「いや、そうじゃなくて。ちょっと仕事のことでお願いしたいことがあるんだ。茜にもお願いしたいから、昼休み屋上でいいかな?」
2人は顔を見合わせた。
「周防さんの仕事か?」
「うん。そう」
「俺達まだ高校生だしなぁ…役に立つか?」
「きっとね」
話をしていると、教室のドアを勢いよく開ける音がした。見てみると茜が息を切らしながら歩いてきた。
「間に合ったー…」
「茜、おはよう」
茜は虚な眼差しをむけてきた。
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