ep 40 目的
「あのー、楓先生。あの子がもう精霊界へ帰っている可能性もあると思うんですけど。それに、考えてみたらあの子が消えたのを召喚者に知られているとしたら、全員で追ってくるはずです。楓先生が伊勢に行く理由がわかりません」
楓先生はビールをひとくち飲んで、溜息をついた。
「召喚された精霊は、召喚者全員の命が尽きるまで精霊界に帰れないんだ。この短期間で召喚者全員が死ぬ確率を考えると、あの子はまだ現世にいると考えるのが自然だ」
そうだったんだ。もしそれが本当なら、召喚者全員に追われる心配はないかもしれない。全員で危険を犯す理由がないからだ。もっというと、追手が来るならおそらく1人2人くらいだろう。楓先生は『碌な目的じゃない』と仰っていた。人によって規模の大きさは異なるが、邪なことを企む人は大抵結果への執着が強いと、今までの事件の犯人を見てきて感じていた。
私はネックレスを握りしめて訊いた。
「伊勢に行く理由は?」
「いちいち面倒臭い子だな、君は」
楓先生がじっとりと睨めつけてきた。地雷を踏んだかもしれない。でも知りたいのかだからしょうがない。
「あの子の力の性質を知りたいからだよ。力の性質さえ知れば、あの子がなぜ召喚されたのかが、全てじゃないにしても幾らかはわかるかもしれない。そのためには精霊召喚が行われた痕跡を調べる必要がある」
「なるほど。そういうことだったんですね」
「夏樹ちゃん」
楓先生が真面目なトーンで名前を呼んだので、私はドキッとした。
「私達の仕事は精霊の子『霞ちゃん』を保護し、久美子さんへ引き渡すことだ。そのことだけに注力しなさい。言いたい事、わかるよね?」
私は黙って楓先生の言葉を反芻した。確かに私は浩志の情報で迫り来る敵について考えた。もし敵が私を排除しようとしたなら、倒さなければならないと覚悟もした。しかし、それは重要じゃないのだ。私達の目的はあくまでも霞ちゃんの保護と引き渡し。目の前に真実を曇らせる問題が発生すると食いついてしまうのは、私の悪い癖のようだった。
「肝に銘じます」
「よろしい」
楓先生が頷いたところで、浩志が「お待たせいたしました」とカレーの皿を私達の目の前に置いた。とてもいい香りだ。
スプーンを持ち上げて、ふと思った。
「楓先生。久美子さんに霞ちゃんの誘拐犯2人いるって言っちゃいましたけど、あれ、どうするんですか?」
楓先生はカレーを掬ったスプーンを止めた。
そして真顔で、
「しらばっくれよう」
と呟いて、スプーンを口に運んだ。
私は愕然とした。何も考えずもう1人を仕立て上げたのか。楓先生はよく考えて動いているようで自分が重要じゃないと思ったことにはとことん無頓着だということは、今まで一緒に事件を解決してきて重々わかっていたことなのに、そう、わかっていたことなのに、いつもがっかりしてしまう。でも楓先生は霞ちゃんを引き渡せば全て解決だと思っているだろうし、それも一理あると思うので黙っていることにした。
(とにかく、明日はやることやるしかないか)
明日は友達にどうやって霞ちゃんのことについて協力を仰ごうか。楓先生が浩志に話したように、久美子さんの依頼のことは伏せたほうがいいだろう。放課後は友達と共に魔法省へ行かなくては。協力してくれるかな、と少し不安にはなったけど、とりあえず今は美味しいカレーを堪能することに集中した。
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