ep 29 論理的帰結
「植村さんですか?」
私が訊くと、楓先生は「確証はないがね」と言い、携帯を取り出した。
「でも、まだ疑問はあります。和博さんが帰ってきた時、部屋は荒らされた状態だったらしいじゃないですか。魔力の残滓があったという久美子さんの証言から、犯人は魔法で部屋を荒らしたと考えられます。しかし、家具などが壊された様子はなく、タンスの中の服や机の上の雑貨類が散らばっていただけで、家電器具や食器類も壊れていません。これから誘拐事件を起こそうという人が、そこまで気を遣うでしょうか。私が犯人なら、思いっきり、盛大にやります」
「それは、犯人が常識人だったからさ」
楓先生がしれっと言った。
「どこに常識人の誘拐犯がいるんですか!」
「さてね。でもこれが論理的帰結だ。犯人は、部屋はある程度散らかせても人の家のものは壊せなかった。ここは大きなポイントだよ。さて、大河は…出ないな」
楓先生は耳に当てていた携帯を下ろして、通話を切った。
「直接池袋に行って確認してみようか。夏樹ちゃん、愛屋はまた次の機会にしよう。すぐに出発だ。大河は仕事中かもしれないが、ダメ元で行くしかないな。久美子さん、あなたも同行をお願いします」
「犯人のお知り合いなんですね」
久美子が多少警戒した様子で言った。楓先生は「犯人と確定したわけではありませんが、古い友人ですね」と答えた。
「犯人と結託して私を貶める可能性もありますでしょう?」
「依頼人を裏切るような真似はしませんよ。ご安心ください。もし、植村大河が犯人の1人なら、久美子さんも思いの丈をぶつけるいい機会です。霞ちゃんもその場で保護できるかもしれません。昨日彼の部屋に行った際は誰もいませんでしたが、植村大河なら隠し場所の1つや2つ、簡単に作り出せるでしょう。なに、これは単なる確認です。さぁ、行きますよ。和博さん、留守をお願いします」
「わかりました。お気をつけて」
和博が頭を下げるのを見て、私達は柳沢宅を後にした。
私達はタクシーで池袋へと向かった。途中、楓先生がどこかに電話をかけ、「植村大河は現場に出ていますか?今日は休み?…はい。…はい。わかりました。ありがとうございます」と話して電話を切った。
「大河に教えてもらった現場には出ていないみたいだ。今日は休みだとさ。これで池袋に行く意味ができたな」
「逃げてたりしないでしょうか」
私が言うと、楓先生は「どうだかね」と言った。
「昨日事件の検証に付き合ってもらった時はそんなそぶりはなかった。今も自室で寝ているかもしれない。大河はそんな臆病者じゃないさ」
そんな話をしている間に、池袋サンシャインシティ前に着いた。久美子が料金を支払い、私達は外に出た。人々の熱気と、アスファルトから照り返す日の暑さが私を暴力的に殴りつけてきた。滴る汗をハンカチで拭いて、私は楓先生が先行するパーティについて行った。
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