ep28 特定
用事があり遅れました。すみません。
楓先生は言い終えると、再びベランダの外を見た。私も何があるか気になり、楓先生の背中越しにベランダから覗いた。私には特に何もないように見えたが、楓先生は気になることがある様子だった。「まだ何か気になるんですか?」と聞いてみたら、楓先生は「いや、特に」と答えてベランダから離れた。
犯人はここから飛び去ったのか。ベランダの外を見ながら、私は違和感を覚えた。何か引っ掛かる。もし犯人がここから出たのだとしたら、今の推理の中で何か見落としてる気がしてならなかった。そしてふと、気づいた。魔法使いは結界と攻撃魔法を同時には発動できない。加えて、結界と身体補助魔法も同時には発動できない。
「楓先生、ちょっといいですか?」
私が手を挙げて言うと、楓先生は「何だね?」と訊いた。
「犯人がここから飛び去ったと言うのなら、結界を張りながら飛び去ったということですか?もしそうなら、結界と飛行術、2つを駆使していたことになります。それはおかしいです。結界と飛行術、2つを同時に発動することは、魔法使いには不可能です」
楓先生は口の片端を吊り上げてニヤリと笑った。
「いいところに気づいたね、夏樹ちゃん」
「犯人は2人以上いた、ということですか?」
「その通りだ。犯人は2人以上…おそらく2人だろうとは思うが、いる。こういう手順だろう。まず、車で裏の駐車場へ乗り付け、1人が結界を張る。その結界には特定の人物…実行役の犯人と霞ちゃんの2人だけが取り込まれる仕様になっていたはずだ。実行役の1人は何らかの手段で上階へ上がり、開錠魔法でドアを開け、霞ちゃんを誘拐。窓から飛び去った。車の方は怪しまれないよう暫く駐車場に留まり、ことが済んでからゆっくりと去る。これで密室ではなくなったな。問題はどうやって上階へ上がったかだ。エレベーターはカードキーを使わないと指定の階へ行けないようになっている。…そうか」
楓先生は久美子と和博が見守る中、部屋の中をうろうろと歩き回った。
「結界が張られたのち、実行役は一旦外へ出て飛行魔法を使い、ベランダの窓から侵入した。そして霞ちゃんを誘拐。再び窓の外へ出て魔法で鍵をかけ、飛び去った。足跡などの痕跡を残さないためにずっと飛行魔法を使いながら実行したのだろう。飛行魔法は魔力の残滓を残さないというのは魔法使いの中では常識だ。これで密室誘拐の完成というわけさ。簡単に言ったけれど、相当な技量が必要だぜ。これは国選レベルの話じゃないな」
楓先生は和博の方へ向き直った。
「結界の気配、本当に感じなかったんですね?」
和博は頭を掻きながら、焦りを隠せない様子で答えた。
「はい。たしかですけど。こんなことが起こるとは思っていなかったので、気を緩めていただけかもしれません。買い物を済ませることに集中していましたから。見落としもあるかもと思います。やはり、結界を用いた犯罪なのでしょうか」
「そうでしょうね。この部屋は地上から100メートル以上離れた場所にあります。例えば、部屋の周りだけ結界を張ったとしましょう。それなら和博さんが結界に気づかなかったことは説明できますが、防犯カメラに怪しい人物が映っていなかったことは説明できません。間違いなく建物ごと結界で覆ったはずです。あなたが感知できないレベルの結界を、です。そんな芸当ができる結界師を私は1人しか知りません」
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