ep1 周防楓という魔法使い
毎週月曜更新を心がけますが、たまにフライングします。お許しを。
「夏樹ちゃん。私は忙しいんだ。自身の境遇を嘆くなら後にしてくれたまえ」
私は楓先生の机に駆け寄り、思い切り天板を叩いた。
「他人事じゃないんですよ。先生だってもやし生活から抜け出したいでしょう」
私が言い返したら、楓先生はフンと鼻を鳴らした。
「私は一向に構わないよ。この次も刺激的な依頼がくるといいなと思うくらいだ。それだけで私の腹は満たされる」
「先生の魔法で家を無くした人もいるんです」
「魔法が漏れたのは国選達が拙い結界を張ったからだろう」
「言い訳になりません!」
怒鳴る私に対し、楓先生はもので溢れている机から一冊の本を取り出し、私に放ってみせた。私がそれを慌てながら受け取る。ゴールデンクロスを狙え、と表紙に大きなゴシック体で書かれている。
「これからは株の時代だよ、夏樹ちゃん。夏樹ちゃんもしっかり勉強するといい。その本の帯を見たまえ。その人は800億も稼いでるらしいじゃないか。私達にもできるはずだ」
「世界有数の高収入職に就いておいて何言ってるんですか。これからは結界を壊すような魔法を撃たなきゃいいんですよ。そうすればお金もちゃんと入ってきます」
そう言ってゴールデンクロスを狙えを机に戻した。
「相手が個人ならまだしも、複数人のグループに対してチマチマ各個撃破しろと言うのかね。ごめんだよ、そんなのは」
ロマン砲しか興味のない楓先生を見て、夏樹は嘆息して虚空を見た。
私は周防楓という人間を考えた。
楓先生は私と出会った頃から鬱病の気があった。
毎日安楽椅子に座って新聞やら雑誌やらを手当たり次第に読み耽り、急に立ったと思ったら事務所の一角にあるダーツマシンでダーツに興じたり、真冬でも真夏でも関係なく水シャワーを浴びながらベートーヴェンの交響曲第九番合唱つきを大声で歌い出したりする。
感情の浮き沈みが激しいのだ。
それでも子供の頃から周りから天才少女として持て囃されてきたらしく、新聞に載っている、魔法使いがどんな魔法を編み出したというニュースを音読しては未だにこんな原始的な魔法を使っているのか、私は年齢が2桁になる時に使い捨てした魔法だと馬鹿にしたりしていた。
そんな楓先生だが、自分の意見を反対されると途端に機嫌が悪くなる。今も結界を壊さない魔法を使えと私に言われ、少々苛立っている様子だった。
楓先生は優秀な魔法使いだ。いや、この表現は正確ではない。楓先生は10歳にしてこの世の全ての魔法を習得し、15歳で自作の魔法を1万も生み出した、世界一の天才的魔法使いだ。しかし性格は豪胆なようでいて寂しがり屋でわがまま放題。仕事では国選ーー国が組織した魔法使い集団に結界師を頼み、自分は魔法をぶっ放すだけでいいと考えている。年齢は20と大人だが、実際のところ精神年齢込みで15くらいにしか見えない。