ep9 無双
まず1人目の懐に入り、鳩尾に重い一撃を当てた。血を吐いた相手に対して、すかさず手を地面につき、逆立ちの状態に入る寸前で相手の首に足をかけ、そのまま頭を地面へと打ちつけた。よくて気絶、悪くて死亡だが、相手の生死の確認などしていられない。次に来た大柄の男。殴りかかってくるのを身を翻して避け、相手の後方へ回った直後に左踵で思い切り股を蹴り上げた。大柄の男は堪らず膝をつき悶絶したが、私の左ストレートが後頭部へ入り、そのまま前へ倒れた。チンピラ達はどよめいた。私はただ目の前の敵を打ち倒しただけだ。何をそんなに慌てるのか。チンピラ達が魔力を帯びた。魔法で攻めてくるのか。それならば。
「行きます!」
私は叫び、筋肉を躍動させた。これが私の使える唯一の魔法。全身の筋肉が魔力を帯びて強化する。私の体は青く光った。実際は声を発しなくても発動できるが、声に出した方が効果がいいことは私の経験則でわかっていた。この状態でできることは限られている。しかし少なくとも魔法を使う前よりは選択肢は多い。
私は一足飛びで魔法を放たんとする敵に近づいた。そして放とうとしていた光の矢を鷲掴みにして、それを敵の足に刺した。敵が悲鳴を上げる間もなく私は敵の顎を下から掌打して黙らせた。魔法の光を手で掴める。これが私の魔法の第一の利点だ。
3人倒したが残り10人ほどいた。そのうち魔法の矢を放ってくる敵が4人。拳銃を構えているのが3人。刀を持っているのが3人。拳銃の弾くらいなら魔法の効果で弾くことができる。魔法の矢も恐るるに足らない。そんなことを考えていると、魔法の光の矢が飛んできた。私は靴を脱いで両手両足を駆使してそれを全部掴むと、全て敵に投げ返した。拳銃を構えていた3人と魔法を放った1人が矢に腹を貫かれて倒れた。残り6人。
「はっ!!」
気合いを飛ばしたら、3人の持っている刀が全部根元から折れた。チンピラ達は大いに焦った様子で、「こいつヤバい!ズラかるぞ!」と言いながら穴の外へ出ていった。私が「待て!」と言って制止するのを楓先生が「行かせてやりたまえ、夏樹ちゃん」と言うので見逃した。倒れたチンピラ達は全員息があるようで、「うぅ…」などと呻く者もいれば、意識を取り戻してない者もいた。
私は正直呆気にとられていた。警視庁に出稽古に行った時は、一課の人達が小娘相手ということで手を抜いているのかと思った。そうでないのか…。
「驕るなよ、夏樹ちゃん。その技は敵を倒す手段じゃない。味方を守る手段だ。履き違えた時、私が君を殺すからね」
楓先生にはお見通しだったようだ。私は深く反省した。
「さて、家の中を見てみましょう」
楓先生が言い、ログハウスの扉を開けた。中は久美子が色々持って行った後なので閑散としていた。嫌な予感がよぎった。そしてその予感は的中した。赤ん坊の影がない。「まぁいきなり当たるとは思ってないさ」と楓先生は言ってログハウスの外へ出て行った。ついて行った先で、楓先生がしゃがみ座りで倒れているチンピラの1人の髪を掴んで持ち上げ、頬をペチペチ叩きながら「起きたまえ。聞きたいことがある」と言った。
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