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02

カホコが若い頃もそういう子がいたが、今ほどではない。ユイはちゃんと加工してあげたから顔は出てないよと自慢げに見せてくる。絵文字で隠された顔。それは……上げる意味があるのかわからないんだけど。殆ど見えてない。


「ほら、ここがギルド」


「ユイは名前決めてるの?」


「本名だし、ソロだから。あ、でもお母さんが入ってくれたら考えなきゃだね!」


「やらないからね。今日は写真撮り直しにきただけだからね!」


「ウンウンわかってるわかってる」


「本当?」


疑わしい。中に入ると昔と変わっていることも多い。娘を妊娠してからは特に離れていたから、なんだか綺麗になっている。おしゃれなカフェも併設されていて目を丸くする。


「近代化してる」


「うん。私も昔のギルド、動画で見たから知ってる」


動画サイトにアップされているギルドを見たことがあると、ユイは同意する。


「私が最新の施設を案内してあげる」


余程母親と来れたのが嬉しいのか、うきうきしているのが伝わってくる。最新の部分が何かを順々に教えてくれる。ギルドカードをかざすだけで討伐したモンスターが勝手に計算されたり、歴戦を勝手にやるらしい。


「モンスターが勝手に登録されたら隠したい時はどうするの?」


「隠せないよ?」


「なんで?」


「えーっと、教科書にあったのは」


娘が電子ノートを取り出して検索する。時代だ。


「政府がモンスターを隠すのは税金隠しだと国民も思ってるから、隠すのが無理なようになってるんだって」


「私の時はそんなのなかった」


「そりゃそうだよ。モンスターは自分たちで持ってこないと換金できない時代だし」


「今も袋に入れたりしてるでしょ」


「まぁね。でもモンスターを討伐する方が手ぶらでできるし、危険性も下がるから素材を持ち帰らない人も結構いるよ。低ランクなら常識になってるし」


「え、もったいない」


「もったいなくても、持ち帰るのに限界があるし。アイテムボックスの開発も進んでるから昔よりは持てるけど、そんなのどんどん進んでいけば捨てなきゃいけなくなるし」


「ふーん」


便利になった分、量より質を取っているのか。カホコは首をかしげた。今どきは兎に角、コンテンツを消費させなくてはいけないというものを強く感じる。そのニーズに合わせるのはギルドも関係してくるのか。


ユイはカホコと腕を組んでさらに進む。組まれたままギルドカードを提出して、写真の更新を頼む。


「かしこまりました」


カタカタと手元にあるパソコンになにかを打ち込んだと思えば、カードをカードリーダーに差し込み読み込ませる。


「すみません」


ピピ、と音が鳴ると受付の人が申し訳なさそうにこちらを見る。


「期限切れでカード自体が無効になってます。また新たにカードを作ってもらわなくてはいけません」


「なら、それは捨ててください。更新はしませ」


「だめ!」


娘が横から物申す。


「だめ!母さんは私とギルドに潜るの!もーぐーるーのーっ」


母の服をびろびろ伸ばして言ってくる。夢に見たユイは、小さな頃からあまり変化してないとよくわかる光景だ。


「ふふ」


思わず微笑ましいと笑う。


「ユイちゃん、今回は写真だけだったけど、期限切れなら仕方ないでしょ」


ぽんぽんと頭を撫でて落ち着かせた。受付の人に頭を下げて、ユイと併設されているカフェへ行く。


「はい。母さんユイに奢ってあげるから」


ユイは頬を膨らませてむぅ、と唸る。


「あー、せっかく母さんの写真撮影とか、ギルド回れると思ったのにぃ」


不貞腐れてテーブルにべったり顔をつける娘に、カホコはパフェを食べていた。


「あ、美味しい」


「ギルドに寄りやすいように、美味しいものとか集まりやすいように土地計画が立てられたんだって」


授業で習ったのかスラスラ出てくる。カホコの時は触りくらいだし、ダンジョン科なんてまだ珍しくどこの学校でもある、ということもなかった。


「便利になったね」


「そうだね。ダンジョンの付近にプチ人間洗浄施設もあるし、すぐに洗えるし」


「それは、女性のギルド員が増えたでしょ」


「うん」


二人はギルドを見る。老若男女が出入りしていて、繁盛していた。


「今はダンジョン配信とか超人気」


「配信」


「そそ!あー!母さんと撮ろうと思ってたのになぁ」


またうだうだと言い始める子。


「母さんは記録に残されたくない」


「じゃあ、V配信でいいから」


「ぶい?バーチャルのあれか」


カホコも昔も今もたまに見ている。そういえば2Dだけではなく、最近は3Dのスキンがよく使われるようになった。


「でも、戦うところを見られたくないし」


「そんなんじゃ撮れるところないよ」


そもそも配信する意味がわからない。困惑のこちらをユイはジーッと見るが、ダメだとわかると息を吐く。


「あ、そだ。参観日あるから来て。ダンジョン科を取ってるから、私たちはダンジョンでできるってこと親達に見てもらおうっていう試みらしいよ」


「安全?」


「安全!」


ダンジョンのことを知ってもらおうという配慮だろう。多分、ダンジョンに否定的な親も多いだろうし。子供が怪我をするかもしれない場所を確認して、安心させるにはそこでやっていけることを見せるのは、効果が多大にあるに違いない。


「なら、行くよ」


「やった!来たら一緒に記念撮影しようねっ。約束!」


小指を出す。これは懐かしい。昔娘にしてあげたら癖になっているらしいので、カホコも指を出した。


授業参観日、初めの一時間は普通の授業であとはダンジョン科の子を持つ親とそうではない親が別れてレクリエーションが行われる。親達は不安という人が多い。


カホコの世代はあまりガツガツするような人はいなかった。特に女性は。父親も来てるし、割合は両親共にという人たちも多く、混雑としている。ユイは思い切り手を振る。


友達と話したりして楽しそうであるので、この学校でよかった。ダンジョン科があってもちゃんと教えてもらえるかを、じっくり吟味していたのを思い出す。


「では、ここから前に来ないでくださいね」


先生らしき人が映像を映して生徒の子供らを見せる。

中を行くには、ギルドカードが必要なので親達はこうして遠くから見るのが今日の授業になっていた。


別に撮って親に見せてもいいと許可をしてあるので、ユイが頻繁に自分が戦うところを撮影してくる。ここがこう、難しかったよとその日のことを話す時に説明しやすいのだというのが本人の談。


にこやかな空気や子供がモンスターを倒す様を自慢げに見ている親など、様ざまな親達を尻目にカホコは眠いので密かにあくびをした。今日は昼寝をしないので眠気が強い。


──ゴゴゴゴ


地面が揺れた。それは、災害ではなくダンジョンの変化のせいだと後程調査で発表されることになる現象。

ダンジョン進化。数年、何十年に一度に起こるダンジョンの進化。退化することもあるらしいそれは、今ユイや生徒達がいるダンジョンでおこる。


「きゃあああ!」


「なにっ?揺れてる!」


親達も先生達も混乱している。生徒達も揺れがひどいらしく、ダンジョン内で驚いていた。


「うわあ」


生徒達が叫ぶ。ダンジョンが進化すると、そのダンジョンの進化後と同化して強いモンスターが生まれる。このダンジョンは低レベルなのだが、進化したらしい。画面にはツノの生えた鬼のようなモンスターが生まれ落ちる。


「いやあああ!」


「早く助けないとっ」


親や先生達のパニックが周りに感染していく。

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