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01

「かーしゃん、あそこいきちゃい」


春の暖かさが心地よい日、娘が指したのはダンジョンを管理する施設。


「だめ。あなたにはまだ早い」


「やだやだやぁああ!入りたーい!」


バタバタと横になってわがままを言うが娘の言うことはどちらにしても叶わない。なぜなら、ダンジョンを管轄する施設をギルドというのだが、ここへ来るには最低十才からしか仮登録はできない。

研修を経てギルドで勉強をし、ダンジョンへ至るのだ。どちらにせよ娘にはまだ早い。


「まだ無理。さ、行こう。お菓子買ってあげる」


「ほんと?」


「嘘つかないから、ほら、手を繋いで」


ふふ、と笑って娘はおずおずと手を差し出してくる。ふっくらした手は暖かくて柔らかかった。


──ジリリリリ


耳につんざく不快な不調和音。目を開けると、今のは夢かと目を瞬かせる。懐かしい夢を見たものだなと、薄く笑う。


(あの日は、お菓子でコロッと機嫌を直したなぁ)


起き上がるとドタドタと騒がしい音が聞こえた。


「母さん、私今日日直だから早く出ないといけないんだよ」


ドアを開けて伝えてきたのは夢よりも成長した娘。

髪を今日はポニーテールにしている。


「お弁当は持った?」


「うん。持った」


母が作ったのではなく、最近は自分で作ることにこだわる娘のユイ。

ギルドの教育方針もあるダンジョン学を取っている彼女にとって、自分のご飯を作るのは他の生徒達も含め、先生達にやるようにと言われているらしい。


「いってらっしゃい」


ユイは小さな頃にダンジョンに興味を持ち、主にソロとして活動したいらしい。


「いってきます!」


カホコは娘を見送るといそいそと起きだして、徐に鞄の中身に手を入れてカードを取り出す。そこにはカホコの顔写真とFランクの文字。


今は子育てもしなくてよくなくなり、時間が余ったのでママ友達が自分たちも講習を受けて資格を得ようというのを話していたので、カホコはそろそろカードを更新しようと思っていた。

カードの顔が十代の頃で止まっていて、さすがにこれを出すのは嫌だから。更新しに行かないとまたやる気をなくして、後で後でと後回しになる。


そうならないように今日こそは、となるがやはり面倒くさいのでカードをテーブルに放り投げるように置き、カホコはンーっと伸びをした。


「テレビ見よ」


せんべいの袋を棚から出してテレビを付けた。自分の毎日は大体こんな感じで始まる。


「母さん、母さん」


体をゆすられており、目を開ける。


「あれ?学校は?」


「もう夕方だよ!そんなことより」


ユイは手に持つそれを見せてきた。


「ああ、カバンにしまうの忘れてた」


「もう。母さんギルドカード持ってたんなら教えてよ」


「え?嫌だけど……だって、ギルドカード持ってたらユイは一緒に来てとか言い出すから」


「いうけど!?」


「だから。行きたくないから言わなかったの」


眠気がまだ残る頭は、娘の訴えを押し除けられないらしい。


「母さん、せっかく持ってるんだから行こうよ〜」


「その写真見てわかるだろうけど、母さんがそれを最後に使ったのはかなり前で、もう無理」


「なら、準備運動でいいから!」


「嫌だってば」


娘が腕を掴み、お願いお願いと頼み倒してくる。こうなるからこれを見せなかったのに。うっかりしていた。


「母さん、めんどくさがりやなの知ってるのに、なんで誘うかなあ」


だるいという気持ちを隠さず述べるが、娘は諦めきれないらしい。


「ソロなんじゃないの?」


「それは……恥ずかしくて。母さんなら平気だもん!」


顔を染めて、あちこちに目を動かす。


「それにFランクだよ?ユイはCランクでしょ?」


「ダンジョン科試験の資格がCランクだから、取るしかない。それに長くやってたらだれでもいけるからBランクになかなかいけないから、そこからが鬼門なんだけどね。それよりもさ、行こう!」


娘に行こー行こーと少しずつ移動させられている。今日は写真の更新だけねと念押ししたら何度も頷くので信じて共に向かう。とはいえ、ダンジョン協会、ギルドとも呼ばれる施設は家から近い。


「やったあ、母親とギルド!」


ぱしゃっと写真を撮ったようでスマホがひかる。


「え、なに?」


「記念撮影」


「え?」


「これを私のアカウントにあげるの」


「消してほしい」


「あげちゃったからもういいでしょ」


「ユイ、あなたね……」


突然撮られるのはいいとして、写真を即座に上げるのは時代を感じさせて戸惑う。

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