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5 オヤ?




 ノックノックノック。

 お昼の十三時に鳴ったのは、きっとそんな音だったと思う。

 私はまだ寝ていたのだが、どうやら寝つきが悪いのを『彼ら』は感じ取ったらしく、しこしこと今日もやってきたようであった。ので、とても不機嫌になりながらも布団から飛び出し、ため息を何度かぼやきながら、インターホンへ向かった。

 そして、ため息から誘発されたとみられる大きなあくびをかいてから、急いでインターホンのボタンを押した。


「……おはようございます」


 押してから気が付いた。

 その画面には誰もいない。と。


「…………」

『お昼の十三時、おはようございますの時間ではないのですがね』

「え」

『おや?』


 確かに画面には誰も写っていなかった。だが、音質の悪い男の声が、確かにインターホンから流れていたのだ。私が目を擦り、どれだけ画面を覗こうとも、その存在を見る事は、はっきりと叶わず。だが、そんな事をまるで知らないように、その声は続けてみせる。


『いえ、どうやらあなた、多少生活習慣がおかしいのではありませんか?』

「……用件はなんでしょう?」


 見えない相手に対して、私はこうなると、素直にコンタクトを取るしかなかった。だって、応対しなければ、それは重大なルール違反となってしまうから、という大層な理由が必要だったのかもしれないけど、それはいわゆる後付けの理由で、本当は、寝起き故の考え不足が真相であった。


『いえいえ、いえ、大したことではありません。とはいえ、もし事が進めば、大したことになるかもしれません』


 言っている意味が分からない。と率直な意見が脳裏をかすめた。


「意味がわかりません。用事があるので、そろそろいいでしょうか?」


 とりあえず私はその定型文を口走った。するとインターホンの奥から、また音質の悪い声で「へへ」と甲高く笑ってみせて。


『実は、私この家のとある部屋に忘れ物をしてしまいまして。確かそれは、『寝室』であると思うのですが、そちらに私の忘れ物がないか、確認してはもらえないでしょうか』


 言葉を聞いて、今まで通り機械的に断ろうと口を少し開けてから、


「…………」


 その、口から発せられる言葉に、いきなりストッパーが掛かってしまった。

 それは、寝室に行くことへの否定をするという。ただ簡単な選択肢を前に、私は、初めて、ここまで苦しんでいた。

 なぜ。

 自分でも自らに問う。しかし、どれだけその選択肢を選ぼうとしても、何故か私という人間はそれを選ぶことが出来なかった。その頃にはもう眠気が消し飛んでいて、脳がありありと活性化していき、一時の全能感に似た感覚が、目の前を支配した。


「…………」

『…………』


 もし寝室に忘れ物があるとして、その先に、何が待っているのだろうか。

 思い出してみると、そう、今までの『彼ら』の行為はまだこの家の中まで侵食してはいなかった。だが、現に今、『彼ら』は【寝室】を舞台として選んできている。


 その意味を、私は無意識に理解していたのだ。

 思い出してみて。家の中に侵食して来た事は一度たりとも、本当になかったのか? 否。ドラマのキャストが消えたり、投函口から『彼ら』はこちらを覗く事は出来ていた。だから、もしかしたら、最悪の、場合。



 寝室に行くと何かがある?



「…………」


 そう。私はもう。恐怖という病に罹っていたのだ。


 これまで起こって来た全ての怪異が、この結末を誘発しているのはすぐわかった。

 私の生活に入り込み、破壊し、そして嘲笑っている『彼ら』は、ずっとこうなることを計画していたに違いない。ずっと、無意味に怖がらせてきたわけではなかったのだ。それは、もっと、直接的な行為に及ぶための、布石に過ぎなくて、だから、


『…………おや』


 インターホン越しに、『彼ら』は言葉を零す。

 そして、一つの間を置いてから。






『あなた、恐怖していますね?』






 その言葉を聞いた瞬間、脳裏に、丸が三つ並んで出来た顔が、浮かび上がって来た。


 そうして『彼ら』は嬉しそうに、今日は帰った。









                                 眼 眼

                                  ・

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