エルフ山に咲く花
西の大陸にあるアーサー王国の東に位置するエルフの国には標高1000mを越すエルフ山がそびえていた……今このエルフ山を、1人の剛腕……も、もとい、美しき聖戦士クルセイダーのマフィーナが、連れで山のような熊の獣人、プーシャンと共に登っていたのであった……
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
急な斜面を、とにかくひたすら歩いてきた聖戦士クルセイダーのマフィーナと、山のような熊の獣人戦士プーシャンは、いい加減岩肌が露出し草木も生えてなく、ただ岩と石がゴロゴロしているこの場所に辟易していた……
「なあ、マフィーナ……なんで、冒険者ギルドでエルフ山の山頂だけに咲く花の採取の依頼なんか受けたんだよ……俺はさ、敵と戦う方が性に合ってるんだけどな……」
「いいでしょ……それに私はエルフ山には前から登ってみたかったのよ」
その時突然エルフ山山頂にかかっていた雲がゆっくりと動き太陽の光が地面とマフィーナたちを照らした
「あっ、あれ……あれ見てよ、マフィーナ!!!!」
山のような熊の獣人プーシャンは肩で息をつきながら、そばにいるマフィーナにそう言った
「ええ、見てるわよ、プーシャン……すごいわね……」
マフィーナとプーシャンはエルフ山の火口からビッシリと空に向かって伸びている高い木々を見つめ、しばらく呆然としていた
マフィーナの頬に一筋の汗が流れた……
「さあ、プーシャン、行くわよ! もう一息だから頑張って!」
「ああ、マフィーナ! 体力自慢の俺にとっちゃ、こんな山、屁でもないさ、 さあ出発だ!」
「えっ、そのわりには、疲れきった顔をしてるわよ」
マフィーナがそう言って微笑むとプーシャンは背中に担いでいた大きな荷物を下ろした
「はっ? マフィーナ、そりゃ、こんな重いティンパニ2つも担いでりゃ、疲れるにきまってるだろ!」
「ちょっと、プーシャン! 水や 食料よりも大事な私の登場のためのティンパニ勝手に下ろさないでよ!」
「いや、ちょっと意味わかんないっスね、マフィーナさん、大体、登場って何だよ! なんか上手く言いくるめられて、ここまで重いティンパニ担いできたけど、よくよく考えたら、ティンパニより水や食料を持ってきたほうが良かっただろ」
「そうかしら、ちょっと待って考えるから……ティンパニよ!!!!」
「いや、答え、はえーな! まあ、とにかく今さらとやかく言っても仕方ないから、行こーぜ」
「分かればいいのよ……」
そこはまるで森そのものだった……
風の音……鳥の声……穏やかだった……
「この森は一体何なのかしら、ここは火口のはずよね?」
「ああ、たしか、ギルドの受付でも火口に降りる途中に採取する花はあるって聞いたしな」
「どういうことなの……」
「まあ、どうでもいいじゃん、ここに採取する花があればさ……それより、ノド乾いたな、腹もへったし……」
「プーシャン、いい気なものね、これは魔物の仕業かも知れないじゃないの」
「魔物? そりゃいいや! なんだか楽しくなってきたぞーー!!!!!!」
その時、山のような熊の獣人プーシャンの目の前に1匹のてんとう虫が飛んできた
「あっ! てんとう虫だー! かわいいなー! でも……食っちまおうかな……」
「はっ? そこの熊! 私を食べようなんて、そうはさせないわよ!」
「わっ! て、てんとう虫が喋った!!!!」
「落ち着きなさい、プーシャン、よく見て! てんとう虫の上に人族のような者が座ってるわ! 妖精かしら……」
すると突然そのてんとう虫が光ったかと思うと、光の中からみるみる大きくなっていく人族の姿をした何者かが飛び出して来たのだった
その飛び出してきた人物は、可愛らしい少女であった……
「お、お前、何者だよ!」
プーシャンが聞くと少女は口を開いた
「私はね……」
突然マフィーナが叫んだ
「ちょっと、待ったーー!!!! 私から自己紹介してもいいかな?」
「い、いいけど」
マフィーナはプーシャンにアイコンタクトをした
「な、なんだよ、マフィーナ」
マフィーナはティンパニの方を見た
「えっ、やるの? ……ほんとに?」
マフィーナはうなずいた
「はぁ……じゃあ、ちょっと待ってよ、準備するから」
プーシャンはため息をつくとティンパニの準備をし、構えた
「じゃあ、いくわよ!」
マフィーナは剣を抜いてポーズをとった
「私の名前はね……」
ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ドン!!!!
「美しき聖戦士ーーーー、マッ、フィーーーーナッ!!!!!!!!」
マフィーナは、左手で髪をかきあげ右手で剣を鮮やかに振り回し更にかっこいいポーズを決めた……
ダンダダ、ダンダダ、ダンダダ、ダンダダ、ダダダダ、ダダダダ、ダダダダ、ダダダダ……
少女は思った……
「こ、これは何? えっ、く、熊のティンパニを叩く腕が高速で見えなくなったわ……一体いつまで、この熊さんショーは続くのかしら……」
ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ダンドン、ドン……ドドーン、ドッ、ドーン!!!!!!!!
その時、マフィーナの後方からありえないくらいのスピードで走ってくる者がいた……ものすごい形相だ
「コラー!!!! そこで何やっとんねん! うるさいやろがー!!!!」
「あっ、ソラファだ!!!!」
マフィーナが言った通り、ものすごい形相で走ってきていたのはエルフの国のプリンセス、ソラファだったのだ
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……えっ、マ、マフィーナなの? プーシャンもいるわね……」
ダンドン
「どうしてここに?」
ダンドンドン
「コラ、熊、ティンパニで返事するのやめんかい! おのれ、いてまうど!」
「なんだよ、ソラファ、そんなに怒っちゃってー、冗談だろ、冗談!」
「プーシャン、あいかわらずね! 何ここで、儀式しちゃってくれちゃってるのよ! 山にやまびこがこだましまくりよ!」
「ああ、そういや忘れてた、やっほー」
「やっほー、じゃないわよ」
その時てんとう虫に乗っていた少女が話に割って入ってきて言った
「ねぇ、ソラファ! これはどういうこと? この人達は知り合いなの? なぜティンパニを叩くの?」
「いや、ティンパニは知らないけど、この2人は知り合いよ、こっちが、聖戦士クルセイダーのマフィーナで、こっちがカフェ・ド・セリーナっていうカフェでバイトしてたんだけど、新しくユーカリスっていう可愛いバイトの子が入ってクビにおなりあそばされたプーシャンよ」
「ソラファ、うるせーよ、なんだよ、その紹介の仕方は! そんなんじゃ、このお嬢さんには何のことか分からないだろ」
するとその少女は間髪入れずに言った
「分かったわよ」
「分かったんかーい……ところで、ソラファ……こちらのお嬢さんは一体どちら様なんだよ、てんとう虫の妖精さんだと思ってたところなんだけど」
「ああ、この子は和菓子の国の女王で、名前はアズミナって言うのよ」
「和菓子の国? どこだよそれ?」
「ええ、和菓子の国は、最近エルフの国の後押しでお菓子の国から独立して誕生した国なの……そして、この子はお菓子の国のプリンセス、ミホリーナの妹で第2王女だったんだけど、和菓子の国の女王として白羽の矢が立ったというわけよ」
「えっ、お菓子の国のプリンセス? それにしては魔法も使えるようだけど」
「ああ、それは、アズミナの母親はお菓子の国の第2王妃でアズミナの母親は魔法界の名門の魔法族出身だからよ」
「へぇー、だから魔法が使えるんだ、あっ、そういえば、カフェ・ド・セリーナのオーナー、アイスの魔女セリーナちゃんも、魔法界の名門の出なんだよね?」
「えっ? よく知ってるわね、プーシャン! そうよ、セリーナのパパは、お菓子の国の伯爵でありアイス大臣で、そしてママが魔法界の名門伯爵家出身の魔法族の方なのよ」
「そ、そりゃあ、知ってるさ、なんたって、俺はセリーナちゃん好きだからね」
「店をクビにされたのに?」
「そ、それとこれとは別だよ……」
「なんか、怪しいわね……あなた一体……」
「あの……話、終わった?」
呆れたような表情で、待ちくたびれたアズミナが話に割り込んできた
「えっ、ああ、ごめんなさい、じゃあ改めて紹介するわね、こちらが和菓子の国のアズミナ女王よ」
「よろしく」
「アズミナ、よろしくね……それはそうと、ソラファ、このエルフ山の火口の森は何なの?」
「えっ、ああ、これは森……というか……何から説明しようかな……まあ、とりあえず……皆様、私の飛行船、ソラファ号へようこそ!」
「飛行船? なんじゃそりゃ」
「いいから、黙って聞きなさいよ、このエルフ山の火口はね、私の飛行船ソラファ号の隠し場所なのよ……この火口の直径が333mで、飛行船ソラファ号は全長300mだから、飛行船ソラファ号の隠し場所には打って付けなのよ……もちろん、隙間はあるから、火口の縁から地面が出てきて隙間を埋めてるから、どこから見ても森そのものに見えるけどね」
「へぇー、それでこの森はどういう……」
「だから、今説明するから! 飛行船ソラファ号の外観はね、まず全長300mの風船があってその下にコックピットがついてるの、そしてその下に巨大な機械仕掛けの足が2本ついてるの」
「えっ、足だって?」
「ええ、ピンヒールを履いてるわ……そして、この森だけど、これは飛行船の上を平たくして、そこにリゾート感覚の森を作って中央には湖型のプールを設置してそこから森じゅうに流れるプールが川のごとく流れているのよ」
「さらっと、ピンヒール履いてるって言ったな……なんで履いてるんだよ」
「もちろん敵をぶっ刺すためよ」
「敵? てっきり、遊ぶための飛行船だと思ってた」
「と思うでしょ……それが違うのよ、この森の至る所には蜂型の超小型空浮艇に乗ったエルフの国の兵士たちが潜んでて実質この飛行船は空母みたいなものなのよ」
「へぇー、すごいんだな、しかし、たしかエルフの国の女王は機械的なものが嫌いな噂があったような……」
「よく知ってるわね、プーシャン、驚きだわ……そうよ、私のママは以前はたしかに環境に優しいものを重視してたんだけど、ママ自身が以前危険な目にあってマフィーナやプーシャンにエルフの国まで護衛してもらって帰って来てから別人のようになってしまわれたの……それにこの間、アーサー王国から独立した月の女神アルテミスの治めるアルテミス国と同盟を結んだから、ますます軍備に関心を持たれたのよ」
「なるほどな……じゃあ、この飛行船は、軍事目的というわけか……」
「プーシャン、嫌なこというわね……あっ、そうだ! でも、この飛行船の側面にはメリーゴーランドがついてて、飛行船のまわりをぐるっと1周出来るわよ! まるで空を飛んでいるようだったわ!」
「えっ、それはすごいな、乗ってみたい! 」
「ええ、いいけど、またあとでね……ところで、マフィーナ達は何しに来たの?」
マフィーナがソラファに説明するとソラファが言った
「ああ、エルフ山の花ね……私たくさん持ってるから分けてあげるわ」
その時、軽く地面が揺れたかと思うと森の木々の間から鳥たちがバサバサと群れをなして飛び立った
「ソラファ様ー!」
森の奥から1人のエルフの兵士がやってきた
「ソラファ様、すぐにお戻りください、飛行船が訓練の為に発進するとのことです」
「分かったわ、じゃあみんな行きましょう、マフィーナ達も山のふもとまで送っていくわ」
「ええ、ありがとう」
「おお、ありがとな……でも腹減ったな」
マフィーナに続いてプーシャンがそう言ったのをアズミナは聞き逃さなかった」
「腹減った、腹減ったって、うるさいわね」
そう言うとアズミナは、みたらしの杖を取りだし詠唱を始めた
「キュートな秘訣はお抹茶よ、私はプリティ、キュートです、マジカルみたらし、お口へポン、発射よ、爆弾!!!!」
アズミナがそう言ってみたらしの杖をプーシャンに向けた瞬間、大量のみたらし団子がプーシャンの頭上に現れ、プーシャンの口、目掛けて飛んでいったのだった
かくして、プーシャンの口の中はまるでリスがどんぐりをほっぺたいっぱいに入れているかのように、みたらし団子でいっぱいになったのであった
ウウッ……
山のような熊の獣人プーシャンが驚いて膝をつき自分の胸を手でドンドン叩く姿を見てアズミナは言った
「ああ、スッキリしたわ……さあ、行きましょ、ソラファ」
その言葉を聞いたプーシャンは口いっぱいのみたらし団子を無理やり飲み込み叫んだ
「こ、この……よくも、やりやがったなアズミナー!!!!!!!!」
「何? 私とやる気なの? 受けてたつわよ!」
「いや、そうじゃなくて、あ、ありがとう……美味しかったよ」
その瞬間、マフィーナが1人ずっこけた……
ソラファとアズミナとマフィーナとプーシャンは、中央の湖型プールの前まで来ると、そこにあるエレベーターでコックピットまで降りていった
エレベータードアが開くと皆驚嘆の声をもらした
なぜなら飛行船ソラファ号はすでに火口から離脱し徐々に眼下に美しいエルフ山が見えてきたからだ
そしてラグジュアリーな雰囲気を醸し出しているその場所は、壁、床、全て透明な素材で出来ておりクリアに外が見渡せた
さらにはソファが数箇所に置いてあり、奥にはバーカウンターらしきものも設置されていた
それを見て山のような熊の獣人プーシャンはエルフの国のプリンセス、ソラファに聞いた
「ソラファ、酒はあるんだろ?」
「いきなりね……そりゃ、あるけど、まずは駆け付け三杯って言うでしょ! だからソラファ特製ラーメンを3杯食べてからよ」
「はっ? 俺たち別に遅刻したわけじゃないし、なんで3杯も食べなきゃいけないんだよ」
「いいから、いいから、じゃあまずはご挨拶をと……皆さま、私の飛行船ソラファ号にご搭乗ありがとうございます」
「登場?」
「違うわよ、プーシャン、搭乗よ……はい、そこ! 慌ててティンパニ叩こうとしない!」
プーシャンがティンパニを叩こうとする手をとめると、その姿を見た聖戦士クルセイダー、マフィーナが言った
「うふふ、プーシャン、まるでパブロフの犬ね」
「はっ、マフィーナがそれを言うかよ!!!!」
ぐんぐん大空の中へ吸い込まれていく飛行船ソラファ号……
その中でソラファ特製ラーメンを食べながら笑い合うみんなの笑顔はまさにエルフ山に咲く花のようでもあった……
お読みいただきありがとうございました
星評価などをいただけますと、ありがたく存じます