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第01話 ブルーグリーンの女


 第一章 Adversity Partner



 ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶



第01話 ブルーグリーンの女



 その欲望の光は、一斉に咲いた。


「♫〜」


 惑星イスブローク時間――18:06。

 陽気な鼻歌を唄う女のリップが、夜の光を浴びて紫がかった若いワインのようなつやを出す。

 透けた窓ガラスを這うのは、スラリと伸びた手足。

 つんと鼻筋の通る顔立ちは、繊細な彫刻のようにラインが整う。

 俯瞰の大都市が映る金の瞳は目尻を美しく尖らせ、一瞥するだけでどんな男性も魅了されるだろう。


「ン〜♪」


 ドーム状に切り取られた夜の街並みは、まるで宇宙の一部だった。

 闇を照らすピンク、青、緑の鮮やかなネオン。

 貪欲どんよくに染まる街が、高層ビルの壁面から虹色の輝きを放つ。

 美麗な光はすべて、今を生きる生物達のもので。

 これから活気付くであろう夜の産声をあげる。


「ンン〜♬」


 巨大な広告看板が夜空を照らすと、赤やオレンジに点滅する文字が鼓動を刻む。

 街中を埋め尽くす喧騒は、女の身長の2倍はある分厚い強化ガラス越しでは聞こえない。

 だがその生気が、このどこまでも続く高層ビルの谷間を血液のように流れ、息づく事を女は認識している。


「ん〜」


 ここは超高層ホテルの最上階。

 フロア丸ごとが一室になった特上スイートルームに、その女はいた。

 均整の取れたボディの身長は、地球人女性でいえば160センチ前後。

 細い手足を操ると、誰も居ないキングサイズのベッドに侵入する。


「んー」


 女が動くたびに露出した肩が踊り、雪色のワンピースにあしらわれた紅色の花が優雅に煌めく。

 鎖骨から走る細紐は胸元の生地を吊るし、控えめな乳房ちぶさを覆い隠す。


「ん」


 華やかな帯はウエストラインを引き締め、シャープな魅力を醸し出す。

 背中、脇、太ももの辺りは大胆に開かれ、透けるような白い柔肌が官能的な曲線を際立たせる。

 女は、露出が多い和風衣装に身を包んだ、妖艶なホテルメイドだ。


「んん?」


 何より特徴的なのは、女の髪。

 髪色は、流れる宝石のように精密な光を反射する青緑(ブルーグリーン)

 しずく状のポニーテールは細い白紐が巻き付くように結われ、そのボリュームが人一人分はある。


「やあ、丁寧にありがとう」


 ベッドメイクに手こずる女の背後に、甲高い男の声がかかる。

 現れた男の身長は180センチ以上。

 細身の身体に、オーダーメイドし過ぎたようなピッチリのビジネススーツ。

 派手な黄色のスクエアメガネは、どこかミスマッチだ。


「申し訳ございません、準備が遅くなりまして」


 女が慌てて、真っ白なシーツを敷きなおす。


「構わないよ」


 男はキザな手つきで上着をソファにかけると、すぅっと音も無く、女の背後に近付く。


「それにしても、君の髪は本当に美しいね」


「あっ、ありがとうございます」


 女は顔を赤らめると、薄く礼を言う。


「そう。本当に……キレイだッ!!」


 その衝撃で先に舞ったのは、ゴージャスビッグな枕が2つ。

 女が振り向くと同時に、男の両腕が女を押し倒す。

 途端に、贅沢な織り柄が施されたベッドカバーが淫らなしわを作る。


「きゃぁあああ!!?」


 ベッドに押し倒され、悲鳴をあげる女。

 無垢な白服が暴れてははだける。


「はぁ……良いね――絶景だよぉお!!!」


 女の上に馬乗りになって歓喜の声をあげると、男の右手にナイフが飛び現れる。

 それを舌なめずりすると、男は恍惚とした笑みを浮かべた。


「不思議だろう?

 このお高いホテルのセキュリティは、星間空港ばりに万全だ。

 ナイフはおろか、フォーク一本ですら武器を持ち込めない」


 まるで手品のように、男の右手からナイフが現れては消える。


「でも俺の身体は特殊でねぇ。

 皮膚を薄く伸ばして、どこまでも鋭く尖らせる事が出来るのさ!!」


 刃渡り30センチを超える豪快なサバイバルナイフから、細く繊細なツールナイフまで。

 形状の種類は様々だが、ナイフにはどれも柄が無く、刃そのものが男の右手から現れる。


「もう……いいよね?

 いただきまぁあす!!!」


「ンンー!!」


 慣れた手つきで、もがく女の口を塞ぐと。

 男は右手のナイフを極限までそそり立たせ、あらわになった女の胸元に深く狙いを定める。


「ぁっ」


 女の喉から絞り出る、小さな声。

 一振りの刃が、一灯の命を吹き消す。


 ――だが。


 その結果は訪れない。


「っな――!?」


 ギィんッ! と、巨石を突いたかのような衝撃が男に走る。

 男のナイフは2つに折れ、無様ぶざまな刃が宙を舞う。


「クックック」


 発せられた笑いは、若い女特有の高いハイトーン

 だが、透明で瑞々しい女の声には、隠しきれない圧がこもる。


「私の演技は楽しめたか?」


 それは先程までの、ただ蹂躙じゅうりんされるだけのか弱い音では無い。


「しかし奇遇だな。

 それでいうと私の身体ボディも少々”特殊”でな」


「ぁぎゃっ!?」


 たまらず悲鳴をあげたのは男の方。

 女の細い右手が長身キザ男の右腕をわしづかむと、万力のように締め上げる。


「ぁぎぃえぁぎぅえ!!!」


 女の顔が右に傾くと、耳をかすめて何かが落ちる。

 ベッドにしたたり、哀れなシミを作るのは、あり得ない剛力から逃げられぬ男の脂汗だ。


「うん? なっていないな。

 レディには優しく触れるものだ」


「っぁあっぁあぁ!?」


 男の腕を掴む女の右手がくるりとターンする。

 骨ごとねじ切れる痛みで、男は苦悶の表情を作るのに精一杯だ。


「私の柔肌は、泡を撫でるように優しく触れば、ぷるんとした肉感で応える。

 だが無粋で乱暴な衝撃・せん断で迫るほど反比例し、強固になってお断りをする。

 デリカシーの無い、そんじょそこらの刃や弾丸など、簡単に弾くぞ」


「っぐぞぉおおがぁあ!!!」


 男は、潰れる右腕を必死に伸ばすと、上半身を思いっきり反らす。


「確か地球では”ダイラタンシー流体”とかいったか。

 それに似た性質を都合よくアップグレードした感じともいえる。

 凄いだろう?」


「ッシィヤァッ!!!」


 男の左手がゴムのようにじれると、ナタのような刃が顔を出す。

 そのまま、女の首を目掛けてギロチンのように叩き下ろした。


「――ふむ」


 だが、女は顔色一つ変えない。

 男の右手をホールドしたまま、女の右足がピンと開く。

 外から内へと柔軟に旋回する右脚は、落ちるギロチンを蹴り飛ばし、回転するコマみたいな動きでベッドに手を着く。


「!?」


 女の急激な態勢変化に男は反応し、咄嗟に上半身を後ろへ引く。

 同時に女は、肘を曲げた状態の逆立ちで踊るように一回転。

 赤いハイヒールの残像を残した、女の左後ろ回し蹴りが男のボディに炸裂する。

 同時に、女の左耳にかかった白いインカムが緑にともる。


「……ほう。その態勢からさばくか」


 女が見せた完璧なカウンターで、男は部屋の端までゴミのように吹っ飛ぶ。

 だが意外にも男は、直撃を防いで受け身を取っていた。


「にっ、人間ではないな!? 何者だっ!? お前は!!!」


 ベッドから10メートル離れた豪華な装飾壁に張り付いたまま、男はたまらず女に向かって吠える。


「私か? ふむ。そうだな」


 勿体ぶるように起き上がる女。

 ベッドに腰掛け、右足に乗せた艶美な左足のかかとを揺らすと、赤いヒールシューズに光沢が踊る。


「私は……」


 女の唇が、冷たく美しい言葉を紡ぐ瞬間。


『っ――繋がった!?

 おいどうした!? 今の音は何だ!?

 何があったっ!?』


 女の頭にきーんと響く、男の肉声。

 女のインカムが、淡い緑に激しく明滅する。


「チッ、勢い余って通信がONになったか。

 せっかく良い所だというのに」


「!?」


 女が片目を閉じて独り言を喋ると、長身の刃物男が咄嗟とっさに身構える。

 いや。刃物男にはそう見えただけで、女は誰かと会話しているようだ。


『なあ、やめるなら今からでも遅くないって!』


「うるさい。

 相変わらず軟弱な思考をしておるな貴様は。

 まあ心配するな。秒で終わらせる。

 この程度なら”コード”を使うまでも無い」


 そのやり取りに警戒し、女の様子を伺う刃物男。

 部屋の出口は、女を挟んで反対側。

 女の隙を突いて、足が千切れてでも脱出する気だろうが、刃物男は動けない。

 何故なら見た目とは裏腹に、ベッドでゆったりする女に全く隙が無いからだ。


『いや。

 俺が心配しているのは、お前がぶっ壊し過ぎて、損壊免除がされないんじゃないかってことだ!』


「っむ」


 女に隙は無い。

 だがどういう訳か、会話が進むにつれて女が苛立ち、鉄壁の睨みに僅かなほころびが見え始める。


「まったく、ひどい扱いをするマスターを持ったものだ」


 女は、ため息混じりの小さい声を鳴らす。


『何だって? よく聞こえないぞ!?』


「貴様はそれでも、私の”相棒”かと言っておる」



初めまして!

エネ2と申します!

こってこてのライトな宇宙SFファンタジーを目指していますので、それがお好きな方は是非読んでください!

更新頻度は遅くなりますが、なるべく早く書けるように頑張ります。


───



【修正_ver1.1】

アクションを追記修正しました

通信のセリフを一部修正しました


【修正_ver1.2】

ブルーグリーンの女の台詞を修正しました

「ああ、お客様ですね。

 すみません、準備が遅くなりまして」

 ↓

「申し訳ございません、準備が遅くなりまして」


【修正_ver1.3】

通信会話の内容を一部修正しました


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