009
プロテクションカードは5人の中で、1番消したくない人間を選ぶゲームだ。
普通に考えれば、一番大事な存在を選ぶゲームでもある。
逆を言えば、対戦相手の一番大事な保護したい人間を当てるゲームでもある。
だけど、相手に読まれた瞬間負けが決まってしまう。
あたしは、前を見ていた。
あたしは同時に、目の前の対戦相手の烏嶽をじっと見ていた。
「ねえ、あなたに質問だけど」
「なんだ?」
「あなたが、選んだ人は今日会いましたか?」
「黙秘する」烏嶽は、冷めた顔で口を閉じていた。
「烏嶽さんは、仲津西高よね?」
「このゲームの参加者は全員そうだろう」
「演劇部の部長よね?」
「確かに俺は、部長だ」
「その人は演劇部員ですか?」
「黙秘する」
簡単に、ヒントになりそうなことは絶対に言わない。
烏嶽 芳吉は、あたしがよく知らない男子生徒だ。
彼の持つ5枚のカードを、じっと見ていた。
両親と兄とマネージャーと後輩、彼の素性はよく分からない。
学年は同じでも、話したことも無い男子生徒。
唯一の情報は、あたしの元彼の部長ということぐらい。
「長谷 健太郎は、知っていますか?」
「あいつは照明係だ」
「裏方をしているの?」
「まあ、そうだな」
「健太郎も、知っている人なの?」
「黙秘する」
やはり、口はかなり硬い。
世間話をしても、ヒントは一切言わない徹底ぶりだ。
(これは困ったな、仕掛けてきた両親……だろうか。
でも兄とは、少し年齢が離れているし。仕掛ける両親では無ければ、学校の中の生徒だろうか)
それでも、絞れるヒントは一切出てこない。
ただ、砂時計の砂が無情に流れていく。
ヒントが無いまま、あたしは何かの選択をしないといけない。
チラリとカードを見て、演劇部マネージャーの女子のカードを見ていた。
(なんか、女子を選びそうも無いよね。
相手が、女子のあたしだし……そんな風にも見えないかな?)
対戦相手は、角刈りで無骨な感じのする烏嶽先輩。
男っぽい凜々しいスポーツマンに見えてしまう、演劇部の部長。
時間が無い中で、あたしはさらに質問攻めをした。
「あなたは、プロテクションカードの選択はすぐに選んだの?」
「意外と迷った」
烏嶽は、思わずぼそっと呟いた。初めて聞こえた、彼の本音だ。
でもこれは、重要な手がかりだ。
烏嶽は、意外と慎重な男なのかもしれない。
こちらに対して、あくまでも情報を出さない方針だ。
まあ、最初の選択だ。5分の1で当たるかもしれない。
他にヒントもないし、少なくなった砂時計の砂を横目で見て決心を固めた。
「では、あなたの選んだカードを言うわよ」
一息ついて、あたしは言い放った。
「あなたが選んだ人物は……兄の『烏嶽 剛三』よ」
あたしは宣言すると、烏嶽は首を横に振った。
「外れだ」光山が、烏嶽の代わりに言う。
あたしも、それなりの緊張感だけど……初めからヒントが少なくて当たるわけが無い。
落胆する顔を一瞬だけ見せたモノの、それでもあたしは自分のカードを見ていた。
「では、次。後攻の『烏嶽 芳吉』」
光山は砂時計を取り上げて、前にある天秤の右の皿に砂時計が移動させた。
ひっくり返された砂時計の砂が、ゆっくりと落ち始めた。