008
『神々のカードゲーム』をやるのは、あたしは初めてだ。
見た事はあるが、プレイヤーは初めて。
相手のカードが見えるだけで、不思議な緊張感があった。
そんな中で、烏嶽が喋ってきた。
余裕たっぷりの顔で、腕を組んでいた。
「お前、このゲーム初めてか?」
「……そうよ」
「俺はこのゲームは、既に3回目だ。
過去2回とも俺は勝利をしている、負けを認めるなら今のうちだ」
「なんで、あたしが負けを認めないといけないのよ!」
あたしは、険しい顔で憤っていた。
それでも、頭の中は彼の選んだカードを考えていた。
あるいは会話で揺さぶりをかけているのだろうか。
戦いは既に、始まっていた。
「だが、傾向はあるんだよな」
「へえ、そうなの?」
「傾向を分析してやるから、選んだ人物を言ってくれるか?」
「言うわけ無いでしょ!」
「そうかい。まあ、普通に考えて……俺の知っている人間を選ばない。違うか?」
「ノーコメント」
「俺は、既に二択までに絞っているけどな」
「へえ、なにかしら?」
「仲津西高校に通っている生徒は、普通は選ばない。
このゲームの参加者は、仲津西高校の裏サイトの人間だ。
だからこそ、関係性のない人間を選ぶ傾向があるんだよな」
烏嶽は、鋭い指摘だ。
あたしの考えているとおり、狙いも間違いが無い。
「このカードに出てくる5枚は、プレイヤーの関係性の強い5人。
だけど親密かどうかは、関係ない。
まあ、普通に考えれば親当たりを選ぶかな。
経験者である俺は、ひと味もふた味も違うけどな」
「そう」あたしは、真顔で烏嶽をじっと見ていた。
すでに、ゲームは始まっていた。
烏嶽は、あたしに揺さぶりをかけてきた。
「おしゃべりは、そのぐらいにしてもらおう。
ルールをもう一度言うぞ。相手のカードを選んで、当たれば勝利。
外れれば、相手にターンが渡る。
先に当てれば勝ち、勝った方の『望み』が叶う。負けた方は失う。
言い忘れたが、相手のカードを選択する時間は5分間だ」
淡々と話す光山は、やはりどこからともなく砂時計を取り出した。
緑色の砂が入った砂時計を、無表情の光山が握っていた。
「5分を越えた場合、カードを一枚選んでもらう。
選べなかった場合も、相手にターンが移るシステムだ。
さあ、準備も出来たし始めよう。では、先攻後攻だが……」
光山の前に、黄金の天秤が置かれていた。
黄金の天秤の上には、大きなサイコロが見えた。
「このサイコロには、二人の人間の名前だけ書かれていない」
ゲームに参加するあたしと、烏嶽の名前だ。
光山が全6面を、丁寧に見せてくれた。
「このサイコロを振って、名前の書いてある面が出た方を先攻にする。異議無いな?」
「いいわよ」あたしは同意し、烏嶽も頷いた。
光山が、サイコロを振って視聴覚室のカーペットの上を転がった。
サイコロが、やがて止まるとあたしの名前が上になっていた。
「では、先攻……天瀬 雪乃」
光山の言葉に、あたしは息を飲んだ。
風紀委員光山は、彼女の目の前に置かれた天秤の左の皿には砂時計を置いた。
そして、砂時計が反転されると砂が落ち始めた。
「ではゲーム開始だ。開始」光山が宣言する。
「アライシー」あたしは、なぜか口が勝手にこの言葉を呟く。
目の前の烏嶽もまた、同じように『アライシー』と言っていた。