007
『神々のカードゲーム』は、普通のカードゲームでは無い。
不思議なカードゲームは、不思議なことがよく起っていた。
カードがいきなり光り出すことも、当たり前のように起っていた。
あたしと、烏嶽の持っている5枚のカードが光り出す。
光ったカードを見ると、無地だった裏面に文字が浮かび上がっていた。
文字をよく見ると、それは人名だ。
しかも、無地だった背景にも人名と同じ人間の顔写真が映り込んでいた。
一体どんな映像技術なのだろうか、それとも手品の類いなのだろうか。考えても答えが出ない。
「あなたたちプレイヤーのカードには、5人の人間が写っています。
今からプレイヤーは、1人の人間を選びます。
選ばれた人間を、1人だけ照美栖にテレパシーで伝えてもらいます。
相手プレイヤーは、対戦相手のプレイヤーの選んだ人間を当てれば勝ちです」
「テレパシー?」あたしは首を傾げた。
「テレパシーは、テレパシーです。
こちら側の通信を、無効に傍受されることはありません」
風紀委員の光山は、堂々と不思議な事を告げていた。
「まずは、選べばいいんだろ。簡単じゃねえか」
烏嶽は、慣れた様子でカードを見ていた。
おそらく、このゲームをやったことあるようだ。
「はい。ではカードを、確認して選んでください」
光山に言われて、あたしもカードの中身をじっくり見ていた。
あたしは、変化していたカードをじっと見ていた。
(あたしのパパ『天瀬 智雄』と、ママ『天瀬 市香』。
親友の『野部 両子』……昔の彼氏の『長谷 健太郎』とあたしの姉……『天瀬 遥乃』)
カードは全部で5枚。一体どうやってこの写真を、無地のカードに写したのか分からない。
不思議な技術だけど、確かに写真はあたしが知っている5人だ。
(さて、誰を選ぶのがいいのだろう)
相手にカードを、選ばれたら負けだ。
烏嶽は、あたしの姉『天瀬 遥乃』を知っていた。
元生徒会長で、有名人の遥乃を……どうするか。
(遥乃は勿論、警戒されているけど、父親の会社経営の事も知っていた。
相手が選ぶカードも気になるけど、そういえば長谷って、文化系だったよね。
確か演劇部……って、烏嶽と同じ部活か。これも厳しいかな。
だとすれば、相手がすぐに選ばなさそうなカード……これかな?)
あたしは1枚のカードを、選んだ。
選んだ瞬間、体には言いようのない身震いを感じた。
あたしの目の前には、烏嶽がいた。
烏嶽は、あたしより早くにカードを選び終えた。
「烏嶽、先にテレパシーで送れ」
「おお」と言うと、会話はしていないが、光山は頷いていた。
烏嶽の顔からも、何を選んだのか分からない。
一分ほどの沈黙の後、光山が口を開いた。
「今度は、天瀬……テレパシーを送る」
光山が言うと、あたしの頭に声が聞こえた。
【テレパシーだ、お前が思っていることを、そのまま念じればいい。
照美栖は、その声を感じることが出来る】
【あんたは、何者なの?】
【早く送れ、いいか……口には出すなよ】
【わ、分かった。あたしが選んだのは『天瀬 市香』よ】
頭の中で、念じると数秒後にテレパシーが途絶えた。
これで、よかったのだろうか。少し疑問が浮かぶが光山が前を向いていた。
「よし、では互いのカードをオープンしよう」
すると、カードが立ち上がってこちらを向く。
あたしの持っていた5枚のカードもまた、大きなカードになって立ち上がった。
そのまま、写真付で烏嶽の方に向けていた。
あたしは、早速烏嶽のカードを確認していた。
(えーと、『烏嶽の父親『烏嶽 啓剛』』と『烏嶽の母親『烏嶽 櫻子』』
後は『兄で大学生『烏嶽 剛三』』。兄がいるのね。
若い女性が一人、演劇部マネージャー『マネージャー『榊原 鶴望』』この子ってD組だ。
最後は『演劇部の一年後輩『梶原 龍馬』』。この五人が、彼の手札ね)
手札の情報は、カードの後ろに書かれていた。
対戦相手の烏嶽もまた、あたしの目の前にあるカードの写真の人物を眺めていた。
そして、あたしの手札を確認しているはずだ。
この中に、烏嶽の選んだ一人の人物がいる。
あたしは、それを見ながら……考えていた。
(一体、烏嶽は誰を選んだのだろうかと)