054
遥乃が選んだ数字を、あたしが一発で当てた。
審判として中央で見守っていた光山が、口を開いた。
「勝者 天瀬 雪乃」体育館に響く。
多田も黙ってみていたが、もう一人の人間が不機嫌な顔をしていた。
「なんで、分かったのよ?」
「この数字、遥乃にとって大事な数字だったから。
あたしは、ずっと忘れていた。でも分かったのよ。
遥乃の態度、複雑な感情であたしは思い出せたの」
「病室の番号」
そう、これは遥乃の病室の番号だ。
4階の個室『63』、そこが遥乃の病気だ。
ここにいる多田に負けて以来、遥乃がここを出ることを許されなかった。
急に体が子供のように縮んで、あの子はこの63病室から出ることが出来ない。
63は、遥乃の一番大事な場所の名前。
遥乃にとって、63こそ全てのような数字だ。
「やっぱり、私の事を分かってくれたのね」
「ええ、遠回りしてしまったけど」
「本当に遥乃が、あの場所を大事にしていたんだって」
「雪乃が、私のお見舞いに来てくれる。それだけで嬉しかった。
何もいらない、幸せな日々。雪乃は、普通な事が好きだった」
「そう、私にとって普通とは……雪乃がいる世界よ」
あたしは手を広げて、遥乃を迎えた。
あたしは駆け寄って遥乃に、抱きつこうとした。
だけど、あたしと遥乃の間には透明な壁が阻んでいた。
「どうして、そんな顔が出来るの?雪乃は……」
「あたしは、遥乃のことが好きだから」
「私はそんな顔をする雪乃が、嫌い……にはどうしてもなれない」
「遥乃っ!」あたしと雪乃は、声をかけていた。
「雪乃は、本当にゲームを楽しんでいたのね」
「ゲーム、楽しいじゃん。双子で、こうやって一緒にゲームをするのを」
「え、うん。バカじゃないの?
あなたは、今の立場が分かっているの?」
あたしに対して、遥乃もまた笑顔を見せていた。
「では、約束だ。遥乃の神格化を止める。
遥乃は神を諦め、これから人間として……」
「どうしてよ、照美栖。彼女が神にならないと、世界がおかしくなってしまうのに!」
「無理よ。あの双子に、照美栖達が入れるスキはないわよ」
「だったら……いいわよ」
「諦めなさい、女天栖っ!」叫んだ光山。
そのまま、光山が天秤を動かす。
そして、遥乃の体から光が吸い上がって行くのが見えた。
遥乃から抜けていく光の柱が、体育館の天井を突き抜けていく。
その光は、とても綺麗に見えた。
「ありがとう」
遥乃は、満足そうな顔で私に言ってきた。
その一言を聞いた瞬間、あたしは全てが報われた気がした。
「おかえり、遥乃」とあたしは、ようやく遥乃を抱きしめていた。




