005
仲津西高校の二階、特別教室棟にその部屋はあった。
視聴覚室は、普通の教室よりも少し広い部屋だ。
中には長テーブルとパソコンが、置かれていた。
中央には大きなモニタースクリーンが、天井から吊されていた。
だけど、この部屋にはあたし以外誰もいない。
視聴覚室の窓から、秋の空……グラウンドが見えた。
秋の夜になると薄暗いので、天井の灯りがついていた。
あたしは、メッセージの指示通りに視聴覚室の中で待つ。
時刻は午後5:59、そして、6時になった。
ちょうど6時になったその刹那……空気がいきなり変わった。
校舎の中なのに、寒気のようなモノを感じた。
その僅かな空気感の後、いつのまにかモニタースクリーンを背に一人の人間が何も無いところから現れた。
茶色のブレザー、背の高い女性。
灰色のスカートに、無表情な顔。
風紀委員の腕章をつけた女は、あの日見た女子生徒と同じ姿だ。
「ようこそ、神々のカードゲームへ」
時間通り、一分一秒の狂いも無く彼女は現れた。
「光山 照美栖……『カミアラソイ』の主催者」
「照美栖は、主催者では無い。ゲームを裁く審判だ」
無表情の彼女は、どこからともなく取り出した黄金の天秤を取り出した。
そのまま、彼女の前に大きな天秤を置いていた。
「審判?」
「ゲームを裁くのが,照美栖の仕事」
「そう、今回の対戦相手は?」
「もう間もなく来るわよ。
それより、初めて参加する『カミアラソイ』のプレイヤー……天瀬 雪乃。
あなたはカードを,ちゃんと持ってきたかしら?」
「ええ、いつの間にかロッカーに入っていたわよ」
あたしは、無地のカードを取り出した。
持ってきたカードは、全部で5枚。
5枚あるカードの中は全て無地、表に幾何学的な模様が書かれているが裏には何も書かれていない。
「それより、相手は?」
「来た」
光山が言うと、視聴覚室の前のドアがいきなり開いた。
静かな視聴覚室に、ドアが開く音が響く。
ドアの奥から、一人の人間がゆっくり光の方に近づいてきた。
間もなくして出てきたのは、大きな体の男。
大柄で肩幅のある男子生徒の腕は、筋肉質だ。
少し老けた顔だけど、茶色のブレザーを着て、ねずみ色のズボンを履いていた。
「今回の対戦相手は、女か?」
「あなたは?」
「烏嶽 芳吉だ。俺は演劇部長だ。その前に、お前も名乗ったらどうだ?新人」
太く大きな声で、烏嶽という男は言い放ってきた。
あたしは、胸に手を当てて一歩前に出た。
「あたしは、天瀬 雪乃。
悪いけど、あたしが勝ったらあなたの神々のカードゲームの階級を頂くわよ」
大きな相手に対してあたしは、はっきりと言い放っていた。