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エレベーターのおかげか、冴木の姿は後ろに見えない。
だけど、多田が乗ってきたタクシーが、病院の前に止まっていた。
そのタクシーを乗りながら、辿り着いたのは夜の学校校舎だ。
四階建ての暗い校舎は、部活動も最近は休止が相次いでいるので生徒はほとんど残っていない。
秋の寒い空に、あたしはタクシーを降りた、
「学校に、本当に来ちゃった」
タクシー運転手に、お金を払っていた多田。
だけど、多田は一言。
「お金ないんだけど」
「全く、しょうが無いわね」
あたしはブランドモノの財布から、お金を取り出した。
情けなさそうな多田に対し、あたしはタクシー運転手に多田の足りなかったお金3000円分を代わりに払う。
こう見えても、あたしは社長令嬢だ。
お金の方は問題なくあったし、奢るのも慣れていた。
支払いがトラブりながらも、多田はあたしを助けてくれた。
それでも助けてくれた多田を、少しだけ見直した。
「すいません、助かりました」
「全く、タクシーを使うときは計画的にね」
「そうだね」
穏やかな、喋り方の多田。
少しドジな所はあるけど、いい人みたいだ。
確かに、クラスでもあまり賑やかな様子はない。
大人しくて誠実、クラスで見ているそんな彼の印象だ。
あたしと多田が歩いているのは、校舎の門をくぐった所。
多田が、先導して学校を歩いていた。
「でも、こんな時間に学校に来てどうなるの?」
「この学校は、不思議な構造をしている。
簡単に、冴木は力を発揮することができない」
「え、そうかしら?」
「神には、ゴールデンタイムが存在する。
それは18:00~19:00のゴールデンタイム。
この時間にだけ、カミアラソイは行なわれているよ」
「あ、そういえば……全部夜6時からだったわね。あのゲーム」
カミアラソイの開始時間が、夜6時からというのも納得できた。
あれは例の感染症で、部活が出来ないことによる事だけなのかと思った。
例の感染症で、学校の活動は6時前にはほとんど行なわれない。
仲津西高校は、ごくごく普通の公立高校だ。
特別強い部活もないので、学生は6時前にほとんどいなくなってしまう。
「おそらく今の神は、そこまで力を発揮しない」
「そうなのね」
「学校の中では、神の力が制限されるらしい。
理由は詳しく分からないけど、昔この学校は防空壕だったらしい」
「急に戦争の話?」
あたしは、驚いた顔で言い返した。
「神は、負の力が働くと力が弱まる。
だからこそ、この学校の校舎にいるのがどこにいるよりも安全だよ」
「そっか。でも、多田君」
「は、はい!」急に、甲高い声で返事をしてきた多田。
今までの余裕の語りでは無く、緊張した顔に変わっていた。
「あなたは、なんで神になろうとしたの?」
「え、その話?」
「うん、あたしはどうしても聞きたかったの。
遥乃からゲームに勝利し、たくさんの生徒に勝ってきた。
あなたは99回勝利を収めて、神になろうとした」
「僕は、いじめられていたから」
多田が、落ち込んだ顔を見せた。
今の多田を見ると、確かに気弱な雰囲気の男子生徒だ。
いじめられたという言葉にも、彼の姿を見れば理解は難しくない。
「いじめっこへの復讐?」
「それで、気が紛れることはない。
僕がやろうとしていたことは、いじめ自体をなくそうとしていたことだよ。
いじめるヤツはクズだ、いじめなんてなんであんな非生産的な事を人間はするのだろう」
「そっか」悔しそうな多田を見て、あたしは思わず同情していた。
彼は、普通では無かった。
いじめを世界から消滅させるために、彼は神になろうとした。
多田は、神になれなかったけど彼の行動はなんだか応援したくなった。
「まあ、いい心がけじゃない。神にならなくても、出来るわよ」
「そうかな?」
「うん、そうよ」
会話をしながらあたしと多田が歩いていると、間もなくして灯りがついた一つの建物が見えた。
それは大きな体育館が、見えていた。




