004
翌日、仲津西高校の三階に来ていた。
遥乃が子供になってから、ちょうど4ヶ月目。
夏休みの間も、あたしはこの場所に来ていた。
それは、三階にある生徒会室。双子の姉遥乃が、かつていた場所だ。
昼休み、仲津西高校の生徒会室にやってきたあたし。
広い生徒会室に入ると、一人の生徒が待っていた。
「天瀬 雪乃さん、ようこそ」
黒のミニツインテールの髪型をした女子が、声をかけてきた。
茶色のブレザーに、黄色のスカート。
彼女こそ、現在の仲津西高校の生徒会長になった人物。
「賀木さん、今日は助かります」
「いいえ、今日……11月1日は、大事なあの日ですから」
賀木 瑞穂、現仲津西高校の生徒会長。
生徒会長のあたしの双子の姉が、突然の病で学校に来れなくなってしまった。
そんな出来事があって、副会長である賀木先輩が生徒会長に昇格していた。
三年生でもあり、本来生徒会を引退するはずの賀木先輩は特例で生徒会に籍を残してくれていた。
「あっという間の、この時間だったわね」
「ええ、あの日……神々のカードゲームで遥乃は負けておかしくなった。
『神々のカードゲーム』で、おかしくなった生徒は今も増え続けている。
しかし、取り締まる表サイトも……風紀委員も機能していない。
学校側も、この原因をなぜだか『知らない』と黙認している」
「うん」大人は、動いてくれない。
証拠の動画さえ、撮ることもできない。
あの風紀委員が、怪しいのは分かるけど。
「でも、本当にいいの?『神々のカードゲーム』に、あなたが参加しても。
話を聞いている限り、かなり危険なゲームなんでしょ」
賀木生徒会長は、不安そうな顔を見せていた。
「だから、調べてもらってくれた。
大丈夫、あたしがここで遥乃の仇を取らないとね」
「情報によると……」
いきなり、パソコンの方から声が聞こえた。
いや、パソコンでは無い。パソコンの前に、一人の男子生徒が隠れていた。
七三分けの黒髪の男子生徒は、眼鏡をかけていた。
茶色のブレザーに、ネクタイの知的な男子生徒が顔を上げていた。
「牛王君、ちゃんと部屋にいるなら挨拶をなさい。
あなたは、とにかく影が薄いんだから」
「薄くは無いです」
牛王 秀太、一年で生徒会役員に入った男子生徒。
一般的に生徒会長が、役員を選任するのだけど……遥乃が彼を選んでいた。
噂だと、一年の中でもかなり頭がいいらしい。
「それより、姉の遥乃が戦った相手……多田 勢場とは戦えるの?」
「四ヶ月の間、多田先輩は階級が上がりました」
「階級?」
「階級があります。
階級が低いと……現状最高階級『プレミアム』の多田 勢場と戦う事が出来ません。
それと主催者側は、生徒会を警戒しているようですし……」
牛王の言葉に、あたしは難しい顔を見せた。
「まあ、最初は戦えないけど……階級を上げるしか無いんでしょ」
「ええ、『望み』は叶う分けでしょ」
「多田 勢場と戦わない限り、遥乃は絶対に戻らない。
だから、あたしにはゲームに参加する。そう決めたの」
「だけど……負けたら相手の『望み』が叶う」
「あたしには、何も無い平凡な人間だから」
平凡なあたしは、遥乃と違って何も無い。
成績も優秀じゃないし、運動神経も抜群じゃ無い。
見た目だって……遥乃ほどかわいくない。
双子の遥乃の妹って事だけしか、あたしにはない。
ならば、あたしが負けても失うモノが無い。
あたしはそう思い、参戦を決めた。
「ゲームの内容だけど、それは当日にならないと分からない。
だけど、カードを忘れずにその場所向かう。時間と場所は、指定がある?」
「午後6時、視聴覚室」スマホを見て、あたしは口に出した。
賀木生徒会長は、それでも不安そうな顔を見せていた。
「残念だけど、私たちは助けに行けないけど」
「大丈夫よ、あたし一人でやれるから」
あたしは、穏やかな顔を見せていた。
賀木生徒会長は、最後まで心配そうな顔を見せていた。
「何かあったら、ダッシュで逃げなさいよ。
そんなおかしなゲームで、あなたまでおかしくなる必要は無いのだから」
賀木生徒会長は、それでも不安な顔であたしの手を掴んでいた。その手は温かかった。