034
木曜日、あたしは久しぶりに病院に来ていた。
あの日以来、あたしは病院で遥乃のお見舞いの日だ。
受付で、冴木が勝手に入ったことをあたしは説明した。
だけど、冴木が入った事を受付の事務員は知らない様子だ。
姉のお見舞いに行くのは、家族でもあたしぐらいだ。
パパは、会社を経営していて忙しい。
ママも、なぜか仕事をしていた。
元々仕事が好きなママは、仕事をしていて家事すら余りやらない。
当然、お見舞いも余り来ることは無かった。
だからあたしは、遥乃に会いにこの病室を訪れていた。
小さなベッドの上で、元気な女の子が無邪気な笑顔を振りまいて出迎えた。
「雪乃お姉ちゃん、今日も来てくれたんだね」
「うん、遥乃」あたしは、遥乃のベッドのそばにある椅子に座った。
同じ十七才だけど、遥乃は子供っぽく元気だ。
見た目は小さくなっていく、あたしの双子の姉。
病名は、筋萎縮性側索硬化症という診断。
だけど診察する医師も、既存の病名と違うと考え込むほどの難病。
見た目も若返り、子供っぽくなる病気は聞いたことがない。
「今日もお土産よ」
買ってきたのは、着せ替え人形だ。
子供向けのオモチャだけど、遥乃は無邪気に喜んでくれた。
「いつもありがとう、雪乃お姉ちゃん。今日で82回目だね」
「あたしが来た数を、覚えているの?遥乃?」
「うん、雪乃お姉ちゃんが来た日は全部覚えている。
今日で82回。もうすぐ100回だね」
「100回になったら、お祝いする?」
「ううん、100回になったら遥乃は退院できるかな?」
「できるよ、遥乃は」
その根拠は、どこにもない。
医者でさえ、どうしようもないとサジを投げるほど。
でも、そんなことは言いたくない。言えなかった。
無垢で、無邪気な遥乃の悲しむ顔が見たくなかったから。
「遥乃にとって、雪乃お姉ちゃんは今の全てだから」
「そう……そうよね」
あたしは、穏やかな顔に変わっていた。
そうだ、あたしは遥乃を守ってあげないといけない。
ベッドの上にいる遥乃を、あたしは撫でていた。
撫でていた瞬間、あたしのポケットの中が光った。
(またか)あたしが持っているカードが、青く光り出した。
その顔をチラリと見えると、ため息をついていた。
「雪乃お姉ちゃん、なんか光って……」
「大丈夫よ、スマホだから。あははっ」
作り笑いをして、あたしは遥乃に向き合っていた。
そんな雰囲気の中、病室個室のドアが開いた。
(また、あいつが来るの)
思い出されたのは、先週の出来事。
冴木はこの場所に、また姿を見せるのだろうか。
遥乃をキスしてきた冴木が出てきたら、今度はどう言って言い返そう。
などとあたしが思考を巡らせると、意外な人物がそこに入ってきた。
「あっ、賀木生徒会長」
そこにいたのは、黒いミニツインテールの制服を着た少女が姿を見せていた。




