033
――あたしが、榊原と初めて出会った日。
逃げるようにバスに乗り込んだあたしが向かったのは、仲津総合病院だ。
病院に入り、あたしはお見舞いをするために四階に向かった。
遥乃のお見舞いは、あたしの日課だ。
四階の病院の個室にやってくると、あたしは絶句した。
思わず、持っていた通学鞄を落としてしまった。
「これって?」
病室の個室には、先客がいた。
先客は、遥乃のベッドの上にいた。
そして、一番の驚きは小さな遥乃とキスをしていた。
うさ耳カチューシャを外した、茶髪の女がそこにはいた。
「あら」
あたしに気づいたのか、冴木は不敵な笑みを浮かべていた。
口元が、少しべたついていて、怪しく笑う。
「見ちゃったのね」
「な、な、な、何をしているの?」
あたしは、なぜか顔が赤くなった。
いくら女子同士とはいえ……遥乃の体が幼くなってしまったとはいえ……キスをしていた。
しかも、よりにもよって同じ学校の冴木だ。
「あら、羨ましい?」
「なんで、遥乃の部屋にいるの」
あたしはすぐさま、怖い顔で冴木の方に歩いて行く。
肩を怒らせて、そのまま冴木の右手を掴んだ。
「答えて!」
「遥乃は、極めて特別だからね」
「そんなの、わかるわよ」
遥乃は、双子の姉だけど特別だ。
全てが優秀で、魅力あるあたしの姉。
だけど、体も小さくなってしまったあたしの姉。
ベッドの上では、両手をついて四つん這いの遥乃が見上げていた。
幼い遥乃も、照れている顔を見せていた。
「ちゃんと病院から受付で……」
「家族と一部の人間しか、通さないようになっていたはずよ」
「女天栖は、一部の人間よ。まあ特別だし」
「あんたは、遥乃と面識ないでしょ」
「ないけど、遥乃の事はずーっと見ていたから」
「それって、ストーカーじゃない!」
あたしは、冴木に怒りを見せた。
だけど、冴木はまるで反省の様子を見せない。
気がつくと、あたしの手を振りほどいていた。
いつの間にか、あたしの掴んだ手を振りほどいて背中を歩く冴木。
「遥乃は、特別よ。女天栖が、一番目をかけた、特別な少女。
こんなところで、終わることはない。
彼女は、さらに特別になることを許された女だから」
「何を言っているの?」
だけど、あたしの声は冴木に届かない。
いつの間にか、冴木は病院の個室からいなくなっていた――




