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神々のカードゲーム  作者: 葉月 優奈
一話:プロテクションカード
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003

(YUKINO‘S EYES)

仲津市、ここは海と山に囲まれた地方都市だ。

のどかな街で、この市のほぼ中心にあるのが仲津総合病院だ。

大きな病院の四階の病室『73』を目指していた。


夕方の病院は、かなり静かだ。

私は学校帰り、そのままこの病院に来ていた。

病院に来た目的は、ある人物のお見舞いだ。


髪も赤いショートのあたしは、個室のドアを開けた。

私が個室に入ると、白い壁に、大きな窓が見えた。

奥にある白いベッドの上に、目的の人物がいた。

一人の女の子が、ドアが開いたのを見て手を広げてやってきた。


「雪乃お姉ちゃん」

かわいらしい声で、あたしを出迎えた。

光が差し込む明るい部屋、そこに見えるはベッドの上にいる小さな女の子だ。

ピンク色のパジャマを着た、かわいらしい女の子。

あたしと同じく赤く長い髪の少女は、あたしより幼く見えた。


目が大きく、かわいらしい女の子。

見た目は、小学生に見えてしまう。

無邪気な姿の女の子を見て、あたしは何とか笑顔を繕っていた。


「遥乃、元気だった?」

「うん、雪乃お姉ちゃん!」

いつも通りの無邪気な笑顔を、見せてきた遥乃。

仲津西高校の前生徒会長『天瀬 遥乃』が、ここにいた少女だ。

全ては、あの日……私が見ていた多田君と戦った奇妙なカードゲーム『カミアラソイ』によるもの。


用具室から見ていたあたしは、遥乃の言うとおりに撮影をしていた。

用具室で隠れてあたしが目撃したのは、カードゲームに負けた双子の姉遥乃。

敗戦後にテミスの天秤が動くと……遥乃の姿がなぜか変わってしまった。


まるで、十年前の小学校時代の遥乃に若返ったかのような変化があたしの目の前で起った。

2022年7月1日。

ちょうど四ヶ月前のこの日から、遥乃はこの姿になってしまった。


ゲームに負けた瞬間、遥乃は小学生になった。

そのことが目の前で起っていたのに、信じられなかった。

スマホで、その動画を撮影したけど……その動画はノイズで証拠動画も残っていない。

遥乃自身も、ゲームのことや、体育館での出来事を、すっかり忘れてしまっていた。


「雪乃お姉ちゃんは、今日学校で何があったの?」

「うーん、今日は英語のミニテスト。点数が酷かったわ」

「へえー、雪乃お姉ちゃんは英語苦手だもんね」

「まあ、そうね」遥乃にストレートに言われて、苦笑いをしたあたし。

何気ない、いつも通りの話。

双子で、同じような顔で、あたしと違い全てが優秀な姉の遥乃。


しかし今の遥乃は、幼くて弱々しく無邪気で小さな女の子。

学年トップクラスの頭の良さも、男子勝りの運動神経もあたしの知っている遥乃ではない。

何より、何かの手違いで遥乃は子供になってしまった。


あたしの家の……遥乃の部屋には彼女の着ていたあたしと同じ仲津西の制服が飾られていた。

本当ならば、今日も彼女はあたしと一緒に仲津西の学校に行くのが普通だ。


だけど彼女は原因不明の病気ということで、この病院に入院していた。

筋肉が衰える病……らしいけど、あたしが見たあの出来事を話しても誰も信じてくれなかった。

そのことが、悔しくて哀しい。


「でも、本当に忘れちゃったの?あの日のこと」

「うん」

「7月1日、放課後に体育館であったあの出来事を」

「なにそれ?遥乃は高校に行っていたの?」

「遥乃は、高校生じゃない」

「そうだっけ?」首を傾げる遥乃。

自分が高校生である事も忘れているし、今は学校にも行っていない。

今のところ、病欠でずっと休んでいた。

あたしは、泣き出しそうな顔で遥乃に抱きついた。


「ごめんね、遥乃。

あたしは、何も出来なくなって……」

「なんで、雪乃お姉ちゃんが謝るの?」

「あたしが、あの場で飛び出せば良かったのに……」

怖かった。

双子の姉が、突然変な光に包まれて小さくなったのを目の前で見て怯えていた。

用具室の中で、スマホを持ったまま震えて何も出来なかったあたし。


「でも、あたしは四ヶ月で変わったわ。

大丈夫、あたしが仇を取ってあげるから」

「仇?」

「ううん、大丈夫。遥乃は、何も心配しなくていいから」

あたしは、抱き寄せた遥乃に笑顔を見せていた。

まだ目元に、涙が残っていた。それでも涙を拭って、笑顔を見せていた。


(そう、あたしはこのときを待っていた。

ようやく、明日……あたしはその一歩を踏み出す)

遥乃から少し離れた場所で、スマホを見るあたし。

そのメッセージを見て、確信していた。


「ありがとう、遥乃。勇気が出たよ」

あたしは、小さな遥乃の頭を撫でていた。

撫でた遥乃は、不思議な顔であたしをじっと見上げていた。



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