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神々のカードゲーム  作者: 葉月 優奈
プロローグ
2/56

002

(HARUNO‘S EYES)

仲津西高校の体育館は、かなり広い。

移動通路の反対側に、用具室と出口の大きな扉があった。

ごく普通の体育館で、奥には壇上も見えた。


体育館のほぼ中央で待つこと3分後、移動通路側の扉が再び開いた。

誰もいない体育館に、扉が開く音が聞こえた。

木造の床に、一人の男子生徒が姿を見せた。


垂れた短い黒髪の男子生徒が、私の前に姿を見せた。

茶色のブレザーは、しわだらけで不潔な印象。

深緑のズボンも、彼の体に似合わず少し長く見えた。


「あなたが、今回の対戦相手ね」

「はい」オドオドした顔で、返事をしてきた男子生徒。

私の顔を知っているのか、軽快している様子だ。


「あなた、二年の多田君よね?」

「多田 勢場(せいば)です。2年C組、出席番号16番」

「2年C組、私の妹と同じクラスよね。

ああ、自己紹介がまだね。2年A組出席番号2番、天瀬 遥乃。

分かっていると思うけど、私は生徒会長をしているわ。

あなたは間違いなく、神々のカードゲームをしているのね」

「ええ」

「今すぐ、あなたはやめた方がいいわ。

このゲームをやって、おかしくなった生徒が続出しているの」

「それを決めるのは、プレイヤーです」

いきなり壇上の方から、女の声が聞こえた。

さっきまで人がいなかった壇上に、いきなり一人の生徒が姿を見せた。


金髪ショートボブの女に、茶色のブレザーで真っ白の肌。

女子にしては、伸長170を超えるモデル体型の少女。

風紀委員の腕章を右腕につけていて、冷めた顔をしていた。

どこからともなく、音も立てずにこの壇上に姿を見せた。


「光山 照美栖、風紀委員長」

「生徒会が、このゲームを調べていたようですね」

「悪いけど、『神々のカードゲーム』は危険なゲームよ。

このゲームで、生徒に悪影響が出ていた。

このゲームの参加者は、登校拒否が増えているのが生徒会の調査で分かったわ。

今すぐ、生徒会としてあなた達にゲームをやめさせると……」

「それさえも、ゲームで決めます。

ゲームに勝てば、一つの『望み』が叶う。

負ければ、一つのモノを奪われる。このゲームは、そういうルール」

「ゲームを、しに来たわけじゃ……」

「じゃあゲームをしないの?天瀬生徒会長」

ここで口を開いたのは、多田だ。

初めて出会った怯えた様子の多田の声でも、顔も違った。

一瞬で強気に変貌した彼の声が、私に向けられた。


「私がこのゲームを、やめさせに……」

「ならば、生徒会長が勝ってゲームを手に入れればいいだろう。

このゲームは勝者が、何でも手に入れることが出来るのだから」

「あなた……本気で言っているの?」

多田の性格が、豹変した。

それでも多田は、ポケットから小さなカードの束を取り出していた。


「生徒会長も、このカードの束を持っているのだろう」

「あなた、おかしいわよ」

否定的な言葉を言いながらも、私はなぜか同じようなカードの束を取り出していた。

それは私の机に入っていた、100枚のカード。


なぜ急に100枚のカードを、右手に持っているのか分からない。

だけど、私はカードを取り出していた。


「今回の『神々のカードゲーム』は『ナインティナインカード』。

双方に100枚のカードをあらかじめ渡してある。そのカードを使ってゲームを行なう」

「私は……待って!」

だけど、光山はどこからともなく取り出した大きな黄金の天秤を彼女の目の前に置いた。

その天秤が置かれると、私の体が自由に動かせない。


私は、カードを持っている右手を前に突き出していた。

向き合う、多田もカードを持っている右手を突き出していた。


(何なの、これは?)

驚く暇も無く、光山の目の前に置かれた大きな天秤が釣り合う。

天秤の右の皿が赤く、左の皿が青く光ると私と多田のカードが周囲に飛び回った。

まるで鳥のように、カードが飛び回っていた。


「さて、ゲームの報酬を聞きます。

まずは多田 勢場、あなたの望みは何ですか?」

「僕は、生徒会長の記憶が欲しいかな。

成績優秀な生徒会長の頭脳と、女子なのに運動神経が僕よりも優れている身体能力」

「多田君、あなた……」

「天瀬 遥乃。では、あなたが欲しい望みは何?」

「あたしは……このゲームをこの学校で完全に終わらせること」

「対戦相手の多田 勢場から求める望みを、選んでください」

「彼から奪うモノは無い。

私の望みは、神々のカードゲームを終わらせることだけよ」

「分かりました、いいでしょう」

目を瞑って会話を聞いていた光山は、淡々と言い放った。


「ただし、多田 勢場に勝てたら……の話ですが」

「多田君が、どうしたというのですか?」

そんな私が質問すると、多田は不敵な笑みを浮かべた。


「まあ、そうだろう。僕は、カードゲームの天才だから。

さて、ゲームを始めようか。今回は『ナインティナインカード』だよね?」

「ええ、ルールは聞いている」

「では、早速空を舞うカードから1枚カードを選んでください」

光山の言葉を聞いて、私は周囲の宙を飛ぶカードを見ていた。

そして、私は1枚のカードを選んでいた。


(雪乃……ちょっと時間がかかりそうだけどごめんね)

用具室にチラリと視線を送りながら、私は目の前の多田を睨む。

不敵な笑みの多田は、カードを手にして胸に伏せていた。


「ではゲーム開始します、アライシー」

「アライシー」私と多田は、同時に声をかけた。



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