知人からの連絡→新たなる戦いの幕開け。その舞台は……
アーネストからかかってきた電話。その内容とは……
「よぉアーネスト君、一体何があったんだよ」
俺の名前は、北川ナガレ……
《おう北川殿ぉ。夜も更けて来たトコへ不躾に連絡しちまってすまねーな。ちっとお前さんへの言伝を預かっててよぉ~》
『言伝だぁ? なんでぇ、時期が時期だしルージュ様が忘年会でも開くのかぁ? んで紅白歌合戦みてーな企画やるとか言って俺にテキトーな流行りのアニソン歌わそうってか?』
電話口の友達に軽いノリで冗談を飛ばす、蟹座の死越者だ。
……まあ冗談とは言ったが、とは言え実際ルージュ様は何かにつけてパーティやらのイベントを自腹で主催したがる持病の持ち主だ。
その重篤さたるや、概ね|Peaky Hikersの猛獣使い女史の"他人に勝負を挑まずに居られない病"にも匹敵する。
平素からしてそんなだってのに、常人でさえ浮足立たずにいられねぇ年末シーズンともなりゃ必然、あのお方が忘年会的なイベントを主催すんのは確実だろう。
少なくとも俺自身はそう確信してたんだが……
《……それ系なら良かったと思うんだけどさ俺もさ~、実の所今回の言伝ってのはそんな愉快で派手なモンじゃねェンだワ……》
『マジかよ』
アーネスト君の口ぶりや不穏な雰囲気からして、どうも違うらしい。
となるといよいよ内容が予想できなくなってくるワケだが、果たして実態はというと……
《時に北川殿、唐突だがよぉ~……宇宙旅行とかって興味ねぇかい?》
『なんでぇ唐突に。そりゃ全く興味がねぇと言ったらウソんなるが……一体何事だい?』
結構過去の回で言及したっきりなんでみんな覚えてるかわからんが、俺自身は元来知識欲が強く、ガキん時の将来の夢は世界旅行だった。
その過程で宇宙ってもんにも興味を持っていて、概ね小五から中一頃には『実際宇宙旅行に行けるのはかなり先になりそうだが、生きている内に行けるようになって、地球に飽きたら行ってみよう』ぐらいには考えていた。
果たして今となっては宇宙に行くどころか、地球外生命体と接触して殺し合うとかいう我乍らワケわからん領域に到達しちまってるワケだが……
然しここでアーネスト君の口から宇宙旅行の四文字が出て来るたァどういう風の吹き回しだと、俺は思わず訝しむ。
《そうかいそうかい。興味があるかい……なら丁度良かったぜ》
『あん?』
アーネスト君への"訝しみ"が"嫌な予感"に変わる。まあとは言え予感は予感だ、外れてくれるかもって希望は捨てずに取っといたんだが……
《北川殿、元旦に宇宙旅行と洒落込んでみねーか? 行き先は月、旅費は魔界二十三閥族が出す。
サイトウ地区を留守にしちまうのがアレだってんなら妥当な代替人員も手配できるぜ。どうだ、悪い話じゃねえだろう?》
『……ああ、まあなァ。……"ただの宇宙旅行"なら悪くねぇんだがなぁ……アーネスト君よ、いい加減素直に話してくれねぇか?
最初に「愉快で派手な言伝じゃねえ」と聞いちまったし、俺ァもう概ね察しついちまってんだ。どうせその宇宙旅行ってなァ、単なる月面観光じゃねーんだろ?』
話す内どうにも耐えられなくなり、俺はついブッ込んじまったんだ。さて、そうなると狼執事の反応が気になるトコだが実際は……
《……バレちゃしょーがねぇな。確かにお前さんの言う通りさ。俺の言う宇宙旅行ってのは、単なる観光なんかじゃ断じてねぇ。
魔界二十三閥族ひいては裏社会……つーかまあ、ぶっちゃけ地球の存亡をも賭けた一世一代の大作戦だよ。
規模で言やぁ、"クリスマスのアレ"をも凌駕するレベルと言っていい……》
『なんだと……』
アーネスト君の発言を聞いた途端、俺は色々と悟った。
元旦の月面へ飛ぶ必要があって、かつ裏社会どころか地球そのものの存亡にも関わる話で、序でに師走外伝が引き合いに出されるってぇと一つしか思い浮かばねえ。
『ようアーネスト君、そりゃまさか……』
《察したか……まあ当然っちゃ当然か。此度の件について地球で最初に知ったのは他ならぬの北川殿だもんなァ……》
『……正直言っちまうと、宇宙って聞いた時点で何となくそんな気はしてたよ。認めたくねぇが為にトボけたフリしてたがな……』
さて、読者のみんなももう分かったよな?
アーネスト君の言う"元旦の宇宙旅行"、その実態ってのは要するに……
『……ルーザイマ星人、だろ?』
《そうだ。奴らの迎撃と殲滅……それが"宇宙旅行"の実態だよ》
性根の腐り切った侵略宇宙人"ルーザイマ星人"……宇宙と聞いた時点で、概ね奴らだろうと予想はついていた。何せ、連中の大艦隊が地球を狙ってて、元旦から一週間ほど月面に潜伏した後地球へ総攻撃を仕掛けて来るって情報を掴んだのは他ならぬ俺だからだ。
『……然し何だって俺なんだよ。あの件はもう魔界二十三閥族に通達済みだし、紅桜会の江崎副課長も俺の掴んだ情報さえありゃ奴らの迎撃は可能だと仰ってたぞ?
ガチの宇宙人、それも等身大のウルトラ族みてーなゼネラヴァント星人が大丈夫だーつってんのに、こんなギリギリになってたかが地球のデミ・アンデッド如きになんでそういう話が回ってくるんだよおかしいだろ』
《ああ、まあ当初はみんな大丈夫だと踏んでたんだが、想定外な事態が重なっちまったっつーか色々その辺も事情があってだな……。
まあなんつーか、電話口で話すのも憚られるようなって言っちゃアレだが、俺もガッツリ細部まで説明できるわけじゃねーし、改めて色々詳しいお方に説明して頂いた方が早えと思うしさ、とりあえず一旦屋敷に来てくれねーか?》
『オッケーわかった。あんま時間もねぇだろうし大至急そっちへ向かおう。構わんな?』
《勿論だ。受け入れ態勢は整えとくぜ》
てなワケで俺は早速マインデッド邸へ向かった。
夜も更けて来てたし普通なら時間をおいて夜明け以後辺りに行くところだが、何分今回の事態は急を要する……急ぐに越したことはねーからな。
〈;=皿=〉<一体何がどうなってんだよ……
次回、ナガレ遂に宇宙へ!




