ルーザイマ星人の狙い→その陰に潜む恐るべき陰謀
ルーザイマ星人ザーリイ、
その正体と彼女の裏で蠢く恐るべき陰謀とは!?
俺の名前は北川ナガレ。
『いい加減このふざけた悪夢を終わらせねぇとなァ……』
【ぬぅぅっ……ぐっっ……!】
わりと何でもありな明晰夢の世界で、
てめえにチョッカイ掛けてきたクソ宇宙人をどう始末してやろうかと考える
蟹座の死越者だ。
さて、既に述べた通りここは俺の夢の世界で
大体何でも俺の思いのままにできちまうらしい。
つまりこのクソ宇宙人をここで完膚無き迄に消滅させるなりして、
こっから抜け出すことも出来ちまうのだろう。
或いはこいつに関して、
それこそ作者しか知り得ないようなメタ的事情迄含めて
何もかも知り尽くすなんてマネさえ可能かもしれねぇ。
だが、俺はそのどちらも選択しない。
あくまで眼前のクソ宇宙人を、
印象的にカッコよくブチ殺すだけだ。
【ぐぶぇ、がっ……!
きっ、さまああ゛っ!
愛する妻を新居ごと爆破する夫がいるかァァァッ!】
『誰が愛する妻だこのスカポンタイクーンがァ〜
騙すつもりならもっと解像度上げてこい間抜けェ……』
よろよろと立ち上がるクソ宇宙人……
ある程度ヤツ自身の自由意志をも認めてやって尚、
逃げたり命乞いをするでもなく戦う姿勢を見せるとは中々骨のあるヤツのようだ。
【づぅぅっっ……!
こんな所で、負けてなるものか……!
私はルーザイマ星人……!
私に勝てる男など、
この宇宙のどこにも存在しないのだぁぁっ!】
滑稽を通り越して哀れにすら思えちまうような発言だ。
恐らくこいつは遺伝子や素粒子のレベルでクソみてぇな生き方を強いられているんだろう。
『……可哀想に。よっぽどひでぇ環境で育ったんだろうなぁ』
『蒔かぬ種は生えぬ』つーけども、
百姓かどうかも怪しいバカに買われた挙げ句、
路端より岩地より茨の中より最悪な土地に蒔かれるなんざ、
不幸でなくて何なんだよ。
或いはこういう時、
仮にまともで正しい主人公だったら
例え相手がどんな外道だろうと見目麗しい女性様な時点で諸々考慮して
改心させるべく救いの手を差し伸べるんだろう。
だが生憎、俺はまともでも正しくもねぇワケで……
『――――"我が守護星よ、止めてくれるな"
"死を越えた俺の復讐を。深みに引き込み切り潰す"』
結局、こういう判断しか下せねぇんだ。
『"塵屑どもめ、今に見ていろ"
"代々長らく受けた仕打ちを、兆乗倍でお返しするぜ"
"沼地の巨蟹は雑魚の脇役、あっさり死んだ噛ませ役"
"誰もがそれを信じ込み、救おうとすらしなかった"
"尊き友への献身を、無駄な犬死にと謗られて"
"故に今こそ謀反の時だ。この爪で穿ち切り刳る"』
何もかも思い通りになる世界ってんなら好都合、
いっそ前々から考えてた死越葬態の詠唱を完成させちまうとしよう。
『"嘲られ謗られて、意味もなく痛め付けられた"
"挙げ句その件を指摘すりゃ、奴らは言い訳するばかり"
"やれ優遇例もあるだ何だと、罪と向き合わず自己弁護"
"嗚呼なら矢張り、赦せやしねぇ"
"塵屑どもめ、恐れ慄け"
"焼かれ茹でられ食われても"
"腹に詰まったその臓物を、穿ち刳って切り刻み"
"食い荒らし糞に変えてやる"』
詠唱を終えると同時、
俺の全身を覆い尽くした泡立つ白い粘液の層を内側から突き破る形で変異は完了する。
『死越葬態、
呪われし巨蟹の復讐譚!』
変異後の姿は最早お馴染み(?)
左右計四本の蟹爪と六本の節足を持ち
背からそれぞれ異なる八匹の毒蛇を生やした
若干ヒト型じみた蟹の化け物だ。
(然し何だな……
薬で変異した時より幾らかスリムになってんな。
あと蛇は相変わらず八匹のまま、と)
まぁこれが完成形とも限らねぇし、
一先ずさっさとトドメを刺す……
前に、やっぱり幾らか聞いとかなきゃなるめぇ。
『よぉ、宇宙人クン……って呼ぶのもアレだな。
確かイマルーザー星人のザアカイだっけ?』
【ルーザイマ星人ザーリイだ!
私は下等生物の金貸しなどではないっ!】
『……なんだよ、やけに地球に詳しいじゃねぇか。
だが惜しいなぁ、
ザアカイは金貸しじゃねぇ。取税人だ』
そもそも奴が不正に走ったのは当時の取税人の給与体系に根本的な問題があったからって理由も無くはねーからな。
『で、ルーザイマ星人クンよぉー
お前の目的を教えてくれるかなぁ?』
【……目的だと?
そんなもの決まっておろう、侵略と征服だっ】
『ホウ……』
【地球は全宇宙の最底辺たる辺境の星だが、
なればこそ植民地化には最適なのでなぁ。
崇高なる惑星ルーザイマが嘗ての栄華を取り戻す為の足掛かりにしてやるのよ!
私はそのとして、地球人を奴隷化し労働力を確保すべくやって来たというわけだ!】
『ふーん』
【惑星ルーザイマは完全なる女尊男卑の星!
よって奴隷も男が相応しい!
ということで私はこうして貴様の夢に介入し、
何もかも思うままに叶う理想世界の夢を見せ惑わしてやろうと考えたっ!
男とは所詮単純な下等生物、
欲望を刺激してやれば隷属など容易いからなぁ!】
『へぇー』
【尤も夢を見ている貴様自身が私を殺せばそれまでだが、
貴様とて間違いなく男であるならば、
私のような見目麗しい女性に暴力を振るおうなどと思うまい?
『もしかしたら仲良くなれるかも』と幻想を抱く余り、
優しくせずにはおれぬであろう?
まして貴様のような
如何にも女にモテず恋愛経験も無さそうな男が、
この美しい私を手に掛けるなどできるわけが――
――『ほいっ』
――ぐぼぇっ!?】
いい加減鬱陶いんで
適当に腹でも貫いて黙らせとこう。
これ以上好き勝手喋らせたとて別に有益な情報は吐かなさそうだしな。
【ぅ……ぁ……な、ぜぇ……?】
『"何故"だあ?
さてはYouTubeの特撮動画のコメ欄によく居る何故bot次郎だなオメー?』
そうか、あのクソコメ野郎地球外生命体だったのか。
どうりで言語不自由なわけだぜ。
『……なんて冗談はさて置きだ、
てめーんとこの母星の奴らは今何してる?
先遣隊て事ァ他にも地球人奴隷化やらに動いてる仲間がいるよな?
んで侵略軍の本隊は何時到着予定だ?
そいつらの規模と装備は?
知ってる限り正直に吐け……
返答次第じゃ命だけは助けてやらんこともねぇ』
さて、如何にもプライドの高そうな、
しかも異星人や男を下に見てる差別主義者であるこのクソ宇宙人。
果たしてこの程度で口を割るとは考え難いが……
【ぅ、ぐうっ……わかった……
全て話す……だから、助けてくれっっ……!】
『……いいだろう。
前向きに検討する序でだ、普通に喋れる程度に回復させてやる』
なんとまあ、こいつの強気な態度と母星への忠誠心は所詮見せ掛けのハリボテだったらしい。
【――っ、ふー……
……先遣隊のメンバーは私を含め八人。
それぞれ別の宇宙船で地球に降り立ち各々の任務を遂行中だ。
ただ私の宇宙船は大気圏を抜けた辺りで何者かに迎撃されてしまい不時着。
その時の衝撃で通信機器が故障し仲間との連絡が取れなくなってしまったのだ……】
迎撃……恐らくは魔界二十三閥族のどっかが目を光らせてたんだろう。
このクソ宇宙人はどうやら地球をかなりナメ腐ってるようだが、
生憎実際の地球は奴自身が思う以上に優れた惑星だったってワケだ。
【それから一週間かけて通信機器を修理したが、結局仲間との連絡はつかず……】
『結局他にやることもねぇから仕方なくてめえ一人でできる限りの仕事をしてた、ってか』
【そうだ。此度の地球侵略作戦は我が母星の命運を賭けた一世一代の大勝負。
幹部から末端に至るまで全軍関係者が不退転の覚悟で挑んでいる以上、
私一人だけ敵前逃亡しようものならどんな目に遭わされるかわかったものではないからな……】
ああ、やっぱこいつ軍人の面子とか母星への忠誠心よりてめーの保身最優先なんだな。
大方給料がいいからとかそういう理由だけで軍に入ったようなクチだろうぜ。
【それから本隊の動きだが、
地球の標準時刻で西暦2026年1月1日午前0時に月へ到着。
暫く月面に滞在した後、
一週間と一時間後の8日午前1時に地球侵略作戦が開始される予定だ……。
本隊の保有戦力は主に軍用宇宙船……
拠点となる母艦級一艇、戦艦級二艇、
軽重巡洋艦級各四艇、駆逐艦級十六艇。
加えて戦艦級以下の船内に格納されている小型無人機が合計二五六機】
なんだよそりゃ。とんでもねー数じゃねえか。
マジで不退転の覚悟で挑んでんのかよ。
『人員数は?』
【厳密には把握できておらんが、凡そ二万人ほど……】
『ウッソだろオイ……』
惑星間渡航ができるレベルの技術力を誇る異星の侵略軍ってだけでも脅威だってのに、
その総数は二万人で空飛ぶ軍艦や小型無人機を無数に保有してると来た。
(今が大体西暦2025年の十一月下旬だから……
長くてもあと一ヶ月ちょいしかねーじゃねぇか!)
状況は絶望的だ。
とっとと目覚めてこの事実を誰かに伝えねぇと。
『クソッ!』
【ぐぶぁっ!? が、あぁっ……!】
イラついた俺は、思わず蟹爪をクソ宇宙人の腹から乱雑に引き抜く。
【ぁ……は……どう、だ!
洗い浚い何もかも全て話したぞ!
これで助けてくれるのだろう!?
なあ、そう言ったものなあ!?】
『……』
なんだこいつ。態度変わり過ぎだろ。
【た、頼む! この通りだ、助けてくれ!
さっきも言ったが軍部はこの地球侵略作戦に全力を賭けている!
地球を植民地にして母星を救うか、
さもなくば地球侵略を諦め母星を見殺しにするかの瀬戸際なんだ!
ここで何の手柄もなく本隊と合流したら最悪軍法会議もすっ飛ばして殺されてしまう!
そんなの嫌だ!
高給取りのエリートになって高級男娼を買い漁りながら暮らしたくて軍人になったんだ!
そのために今までどんな厳しい訓練にも任務にも耐えてきた!
なのにこんな辺境の、クソのような惑星で最期を迎えるなんて有り得ないだろう!
なあ頼む、もう頼れるのは貴様し――
――『喧しいわ』
【ガアアアアアアアあああああ!?】
クソ宇宙人の命乞いが余りにも鬱陶しかったんで、
適当に蟹爪で引き裂いて殺してやった。
どぎつい色の蛍光塗料を雑に混ぜ合わせたような体液を撒き散らしながら即死したクソ宇宙人。
その亡骸が分子レベルで崩れて消え去ったのと同時、ふざけた明晰夢の世界も崩壊し始める。
『……これでいい』
目覚めた後も内容をしっかり覚えてりゃいいが……
なんて思いつつ、
俺はただ、静かに覚醒していく自分の意識に身を委ねた。
次回、ナガレが目を覚ます!




