明かされる暴走の真相→樋口伸容の失態と京都事業所の暗部
我乍らもうちょっと秀逸なオチはなかったのか?
って思えてなりませんが……これで漸く師走外伝に直接つながる話になってきました。
俺の名前は北川ナガレ。
『いい加減往生しろォァッ!』
「――――くっっ!
だから! 何度も! 言ってるだろっ!
オレたちはっ! 掌握派なんかじゃ! ないんだって!」
≪ディップ、ロァ!≫
「何時になったら、信じてくれるんだよぉぉぉーっ!」
『ヌぅっ!?
――――嘘を吐いてるヤツほどそう言うもんだ!
なら証拠でも見せてみろィッ!』
前回から引き続き、
巨大ディプロカウルスを連れた陰陽師風の小僧
――その正体は実際味方陣営の要職、樋口伸容少年とその相方ディプ朗だが、
哀れ俺はその事実に気付いちゃいねぇ――
と派手にやり合う蟹座の死越者だ。
〈T皿T〉<ほんと情けねぇ……
さて一方その頃……
「――ええ。はい。はい。それは全くですのだ。
はい。ええ。はい。分かりましたのだ。
いえ、此方こそ無茶なお願いをしてしまい申し訳ありませんのだ。
はい。はい。ええ、問題の対処は此方でなんとか。
はい。いえ、此方こそ。
はい。では失礼します。
……ダメだったのだ」
「こっちも全滅なのだ。
やはりどこも応援は寄越せないと……」
「こっちも無理なのだー……」
「同じくー……」
俺たちが派手にやり合ってるまさにその時、
4649号様や44031号を始めとするズンダー隊の皆様方は事態収束に向けて裏で奔走しておられたんだ。
自分たちだけでは力不足と考えられた皆様方は、手始めに『極東四七守護霊会』の他の事業所で手の空いた人員が居ないか探し回られたが結果は芳しくなく、
ならばと範囲を魔界二十三閥族にまで拡大したがやはりどこも多忙で応援が来ることはなかった。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!
このままだと白雪所長と樋口所長見習いとディプ朗氏が危ないのだ……!」
「仮にお三方が無事でも青佐の術で深刻な精神汚染状態にある北川殿を止めないことには新たな被害者が出かねないし、
かといって彼に対抗しうる戦力で動ける人員なんて……」
「奈良事業所の如月所長か京都事業所のフオン殿でも居て下されば万事解決なのだが……」
「如月所長は鬼束所長補佐の出産立ち会いで動けず、
フオン殿に至っては日本国内どころか地球上にすら居られず帰還は早くとも来週……。
フオン殿は勿論のこと、如月所長も休暇中だから無理に呼び出せば僕たちのみならず彼女までも処罰されてしまうのだ……」
魔界二十三閥族の労働規則は厳しく、
休憩時間の削減や休日出勤なんかは指示・要請した側のみならずそれに応じた者もかなりの厳罰に処されちまう。
まさに万策尽きた絶体絶命の危機的状況……
「かくなる上は、やるしかないのだ……」
「ウイ。どうせ僕たちは記憶移送で実質不死身のクローン兵士、
死を恐れる理由などありはしないのだ……」
追い詰められたズンダー隊の皆様方は、
ほぼ自殺前提での特攻を決意したんだが……
――《『待ちナッ!
勝てねえ戦へ死にに行くなんザ
あんたらみてーなエリート部隊のするこっちゃねーゼェ!?』》――
「「「「「「――――!?」」」」」」
突如ズンダー隊仮設本部に、若い男の声が響く。
顔は隠していたが年の頃は大体十代半ば程か……
どうにも軽妙な雰囲気のそいつは、
仮設本部に備わるモニターを電波ジャックして話し掛けているらしい。
「なっ、何なのだお前はっ!?
こちらの心中も知らず勝手なことを吐かすなっ!」
いきなりの不正アクセス者にも怯まず問い掛けるのは、44031号様だ。
さて、それに対する男の答えは……
――《『おっと失礼、
俺としたことがつい焦っちまったナ。
非礼を詫びさせてくレ、ズンダー隊の皆様方ヨ。
俺の名は森永ニュート。
魔界二十三閥族第零位「ボーダーフールズ」傘下
「紅楼会」情報技術課の課長をやってるモンだ』》――
「ボーダーフールズ……?」
そう。なんと事もあろうにその森永って男は、
ボーダーフールズ傘下の組織『紅楼会』の幹部構成員だったんだ。
「つまり、敵ではないと?」
――《『おうとモ。
寧ろ俺ァあんたらの味方サ。
諸般の事情からこんな形で挨拶する羽目になっちまったがヨ』》――
「それで、用件はなんなのだ?」
――《『要件、ってェほど大したことでもねーんだガ……
ズンダー隊さんヨ、
今あんたらが力づくで止めようとしてるカニのバケモン、
もとい新人死越者クンだガ、
あの子のガラ、こっちで預からせて貰っても構わねえかイ?』》――
「それは構わないが……大丈夫なのだ?
北川殿は今、青佐の術による精神汚染で暴走状態……
生半可な戦力で止められるとは到底思えないのだ」
――《『そこに関しちゃ心配いらねエ。
丁度お誂え向きの御仁がいるもんでナ。
ただその代わリ、新人クンの確保に専念しなきゃなんねー関係上
現場で立ち往生してるそっちの構成員の救助までは手が回らなくてなア』》――
「それならば心配要らないのだ。その程度なら僕たちズンダー隊でもなんとかなるのだ」
かくして暴走状態に陥った俺の対処を『紅桜会』に任せたズンダー隊の皆様方は、
目標を救助活動に切り替え改めて動き出したんだ。
さてそれで、一方その頃俺はどうなってたかっつーと……
『グエエエアハハハハァァァアアアア!!
活け造りにすんぞテメェラアアアアッハハハハハハァ!』
「ひいいいっ! 流石に殺されるぅぅぅっ!」
≪ディップロァアアアア!≫
こんな感じ。
精神汚染由来の暴走が行くとこまで行っちまって、
いよいよ常人には手がつけらんねぇレベルに荒れ狂っちまっていたんだ。
その原因は至ってシンプル、
さっきから何度も言及されてる"青佐の術"が俺の脳を狂わせてるからに他ならねぇ。
『どーしたァ!? 何故戦わねぇ陰陽師のガキぃ!?
さっき迄の威勢はどこ行ったよァ゛ア゛ン!?』
掌握派の青佐江雪……
奴の真なる脅威はその高い戦闘能力なんかじゃなく、
体内に仕込まれたある術にあったんだ。
「くっ、もうダメだ……力が出ないっ……!」
≪ディプロッ、ディプディプディプロァッ!≫
「なっ!? 馬鹿言うなよディプ朗!
そんなの死にに行くようなもんじゃないか!」
"加速する疑心暗鬼"
開発者によりそう名付けられたこの妖術は、
発動後暫く術者の周囲に残存し持続的に作用し続ける。
そして効果が続く間、範囲内に立ち入った者の脳を狂わせ『敵味方が逆転した状況』に陥れ同士討ちに追い込むって代物だ。
『逃げ回ってんじゃぁ、ネェェェエエエエッ!』
後の検死で判明した事実によると、
青佐はどうやらこの術を予め"自分の絶命を合図に発動する"よう体内に仕込んでいて、
自分が戦死した時は下手人を味方と争わせ敵陣営に損害を齎そうとしてたらしい。
「くっ! かくなる上は一か八か、アレに賭けるしか……!」
≪ディップゥロッ!? ディプディプディディップロァッ!?≫
「確かにそうだけど……
でも他に行けそうな方法なんてないだろ!?
いいから早く行くんだディプ朗!
白雪所長を連れて安全な所へ逃げろっ!」
そして結果的に青佐は白雪所長に殺され、
偶然にもその直後現場へ到着した俺共々"加速する疑心暗鬼"の餌食になり、
互いを敵と誤認した所長と俺は無用な争いを繰り広げる結果になっちまっていたんだ。
『さぁせるかァァァァァァァアアアッ!』
――『カアッ!』『ブベァッ!』
「ぎゃあああああ!? 毒液いいいいい!!」
≪ディップロァァァァァアアアッ!?≫
"加速する疑心暗鬼"は幻術を始め脳に作用する妖術ん中ではトップクラスの性能を誇り、
一度術にかかれば生きて抜け出すのは至難の技だ。
だがある程度腕の立つ術者なら対応はそう難しくもなく、
特に元来防衛や保護に重きを置く樋口流陰陽術にとっちゃ
ただのサンドバッグみてーなもんだそうだが……
「だぁぁあああもぉーっ! それもこれも全部青佐とかいう奴の所為だ!
あいつが"加速する疑心暗鬼"なんて使うからっ!」
≪ディプ! ディププディプロァ!≫
「はぁ!? なんだよディプ朗!
お前そんな言い方しなくたっていいだろ!?
確かに幻術用の解呪符切らしてて一枚しか無かったのはオレの責任だけどさ!
あれ使い所限定される癖して材料費とか結構高いんだからな!?」
≪ディップロ! ディプロディップロァッ!≫
「ああそうだよ普通はそう思うよな!
オレだって職場に買わせたかったよ本当は!
けど予算申請しようにも担当の黒橋さんが頭ごなしに
『プレバンのアレ買うつもりならやめとけ』~って勝手に決めつけるわ、
事情説明しようにもそこから延々と謎の特撮トーク展開してくるわでめんどくさいんだよ!
っていうかうちの事業所経費横領するヤツ多すぎて常態化してるとか終わってるだろ!」
解除には専用の"幻術用解呪符"が必要で、
しかも呪符やら呪術道具の類いは市販されてねぇから術者が自作しなきゃならねぇんだが、
上で樋口所長見習い殿が述べた通りの有り様なもんで安定した在庫確保ができておらず、
結果、辛うじて残ってた幻術用解呪符一枚を持参、
白雪所長にかかった術を解くに使っちまったんだそうだ。
≪ディップァ!? ディプディプディディプロォァッ!≫
「別に北川さんがどうでもよかったなんてことないわ!
白雪所長も確かに美人ではあるけど好きとかそんなんじゃねーし!
ただなんかほら、あの人死越者だからそういうのには強いのかなって、
じゃあ解呪符無くても交渉だけでイケるんじゃ?
って思ったんだよ!」
当然、樋口所長見習い殿の見通しが甘かったのは言う迄もねぇ。
死越者が様々な術やらに対し優れた耐性を持つのは間違いなく、俺自身例に漏れず強固な耐性は獲得済みだったんだが……
それでも未熟さ故の粗はあって、"加速する疑心暗鬼"はそこを突いて来やがったからだ。
『ヴオラアアアアッ!
逃げんなゴラ掌握派のクズがぁ!
逃げたらとっ捕まえて殺された白雪所長の仇取れねーだろうがぁっ!』
斯くして脳を侵食されながら暴れ回る俺は、図らずも抑止困難な"自我と肉体を持つ災害"と化していた。
だがあくまで"困難"であって"不可能"ではねぇからして、
抑止して下さるだけのお方は現場に辿り着きつつあったんだ。
『……やれやれ。
どうやら面倒なことになっているようですね。
我が同胞を狂わせて身内殺しに駆り立てようとするとは……
青佐江雪、実に許し難い女です……』
物陰に降り立ったのは、高級そうな燕尾服を着こなす長身痩躯の紳士……。
羊の頭蓋骨を象ったような仮面で素顔は窺い知れねぇが、
その所作や挙動は洗練された美しさに溢れていた。
『このお礼参りは必ず成し遂げねばなりませんが……
ともあれ今は彼を救うのが最優先。
半ば私の所為でこうなってしまったも同然な以上、
穏便かつ迅速に済ませなくては……』
意味深な発言をする紳士の両手に、赤い稲妻みてーなエネルギーが宿り球状に纏まっていく。
『お待ちを、新人くん……
少々、否かなり手荒になってしまいますが、
勘弁して下さいましッ』
狙いを定めた紳士は、両腕を振るい球状のエネルギー球を投げつける。
独特な軌道を描きながら飛ぶその球は、見事荒れ狂う俺に直撃……
『ガアっ!? ぐ、うぐおおがあっ……!』
その威力は凄まじく、
死越葬態をあっさり強制解除された俺はそのまま意識を失った……。
次回、謎の紳士()の一撃で気絶させられたナガレが運び込まれたのは……




