青佐との戦いが決着するとどうなる?→知らんのか、少年陰陽師との戦いが始まる
はい、少年陰陽師との戦いが始まってしまいました。
……本当はこの少年陰陽師がナガレを止める展開も考えたんですけど、
なんか読者としてはまだまだナガレの死越葬態の暴れぶりを見たいんじゃないかなーとか思っちゃったもんでね。
俺の名前は、北川ナガレ……
『やっと出て来たか、おせーんだよテメーはよ……
俺が生前居た会社の重役どもでももっと早く来てたぜ……?』
「……っっ、っく……!」
ちょこまか逃げ隠ればかりする掌握派のクソ、
青佐江雪をどうにか追い詰めた本作の主人公だ。
『ともかくこれで遠慮なく殺せるぜ……
凍死霊、それも掌握派仕様の雌淫魔化個体を相手取るのは初めてなんでなぁ~
憂さ晴らしも兼ねて色々やらせて貰うぜ、今後の為にもよォ』
「……っっ!」
これまで『本体だと思った? 残念、氷像でした!』って"美樹さやかオチ"ばっか延々と続いてたが……それも漸く終わりのようで、
俺は今現在大変清々しい気分で奴と向かい合っている。
『さあ殺ろうぜ、氷漬けの通り魔!』
「……仕方無いわね。速攻で片をつける……!」
斯くして互いの気分は最高潮、
二者は激突し壮絶な死闘は決着すると、誰もが確信していた。
『シャアアアッ!』
「ハァーッ!」
だが……
「ちょおおおおおおっと待ったああああああああっ!」
≪ディップァァァァァァァ!≫
『ぐうっ!?』
「くっっ!?」
突然夜空を裂くように現れたそいつは、
睨み合う俺と青佐の間へ割って入るように降り立つワケだが……
その勢いたるや誘導弾かジェット機の如し。
お陰で雪が巻き上がり俺らの視界は一瞬塞がれる。
(傍迷惑な……!)
さて、そんな傍迷惑なヤツの見た目はというと……
(……陰陽師コスの小僧に、
バカでかいディプロカウルス……?)
みんな知ってるかな……ディプロカウルスって。
頭がブーメランみてーなっつーか、矢印みたいなビジュアルっつーの?
ゲーマーなら『モンハンのガレオスみたいな見た目のオオサンショウウオ』とかで伝わると思う。
そんなディプロカウルス……何食わせたんだが実物より遥かにデカいヤツが、
陰陽師っぽい和装の小僧を取り囲むように、空中へ浮いてるんだ。
多分、妖怪かなんかだろうが……古代生物って妖怪化すんのか?
んでそいつの恐らく主か何かと思われるのが、和装の小僧……
幾らか防寒具を身に着けてるが、見た所着物そのものの生地は薄く如何にも寒そうだ。
年の頃は凡そ十代序盤。
体格は華奢で背も低けりゃ顔立ちも中性的かつ美形……
淫魔釣りのエサにはうってつけだろう。
『……兄さん、すんませんけど退いといて貰えますかねェ?
そこ居られましたら巻き添え食らわしちまいますもんで……』
明らかな歳下相手だが、煽る意味も込めて敢えて敬語を使う。
さて向こうの反応は……
「悪いな、そいつはできない相談だぜ。
オレの役目はこの方を守ること、
そしてアンタを止めることだからな」
『その女を守る、と……?
兄さん、貴方が何方か存じませんが、そいつぁ頂けませんなァ……!
俺ァその女、掌握派の青佐江雪をブチ殺さなアカンのですわ……!』
パッと見掌握派の構成員には見えねーが、あの豚とて不細工野郎の癖して要職に就いてたんだ。
美形のショタで有能なら要職に就いててもおかしくはねぇだろう。
何ならこういうタイプほど裏社会じゃ世渡り上手でそれ相応の地位に居たりするんだ。
(いざって時はこいつらごと殺すか、或いは一旦退くかだが……)
脳内に浮かぶ二択。
どちらを採るかはこの小僧とディプロカウルスの実力次第だが、
青佐が大雪の元凶である以上は可能な限り前者を採用せねばなるめえ。
そう覚悟を決めた俺だったが……
小僧からの予想外過ぎる返答で、事態は思いがけねぇ展開を迎えるんだ。
「なんなんだよ……
何言ってんだアンタ?
彼女が掌握派の青佐江雪だって? 本気で言ってるのか?」
(なに……?)
あたかも、かの有名な格言の
『お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな』めいたニュアンス……
しかも語気からして嘲笑や皮肉、敵意や害意なんてもんは感じられねえ。
この小僧、本気で俺を案じ、止めようとしてるらしい。
(だが何故だ? 何故青佐を庇う立場にある掌握派の要職が、俺の身を案ずる……?)
口ぶりから察するに、どうやら小僧は俺について事前にある程度知ってるらしいのが尚不自然だ。
……まあ、短期間に散々奴らの同胞を殺して来た俺だ。
悪名は知れ渡ってるだろうし、要職ともなりゃどこからか俺の個人情報をくすねてる可能性もあるだろう。
だがだとすれば猶更俺の身を案じる理由がわからねぇ。
≪ディップァ! ディプロディプ、ディップディ!≫
「なんだディプ朗、どうしたんだよそんなに慌てて?」
≪ディプロップディ、ディプローロ! ディップロロップディ!≫
「なんだって? お前なあ、検知できてたんなら早く言えよもう!」
困惑する俺そっちのけで何やら口論し始める小僧とディプロカウルス……
ディプロカウルスの方は何を言ってんだかサッパリで、正直よく会話が成立してるもんだなと思わなくもねーが……
どうやら両生類側が何かしらの証拠だか情報だかを掴んだらしかった。
≪ディプロプロロ、ディプディプロッ≫
「ああ、わかってる。
タネさえ割れちまえばこっちのもんだぜ。
なあ北川さん! 一旦そのハサミとヘビを引っ込めてオレの話を聞いてくれないか?
全ては大いなる陰謀、ちょっとしたすれ違いが切っ掛けだったんだ!」
なんだ、小僧め突然わけのわからねぇ事を抜かしやがって……。
「アンタはヤツに騙されているんだ。
全てはヤツの筋書き通り、掌の上だったんだ!」
『……なに?』
「全部仕組まれていたんだよ!
何もかも起こるべくして起こったんだ!
アンタがここへ来たのも、こうして戦わされてたのも、
全部罠なんだ!
早く気づいてくれっ!」
≪ディプッ!? ディプディプロッ! ディディーップ!?≫
『……ほう』
やけに曖昧な物言いだが、小僧の必死さは伝わった。
そして、奴の目的と真意も察しがついた。
『……成る程、概ね察知した。
そうか……俺ァ騙されてんだな、現在進行形で……』
「そうなんだよ! でも安心してくれ、オレが必ずアンタを助けてみせるから!」
『助けてみせる、ってか……!』
ジュニアアイドルやれそうなツラで白々しい台詞を吐きやがる。
如何に喋りと芝居が上手かろうがその程度の嘘で俺を騙せるとでも思ってんのかこの小僧……。
(腹ァ立つ話だが……いいだろう、乗ってやるよ!)
相手をハメようとしてる詐欺師気取りほど格好のカモとはよく言ったもんだ。
ガキが……天才子役くずれか何か知らねぇが、
てめえの実力にかまけて大人をナメてっとどうなるか教えてやらァ。
「そうだよ! オレはアンタを助けたいんだ!
このディプ朗だって同じ気持ちさ!
オレ達がここに来たのは彼女だけじゃなく、アンタも助けたいからなんだ!」
≪ディプ! ディプディプディプロォ! ディプーッ!≫
『そうかいそうかい、そりゃ有り難え話だなァ……』
「良かった……! 分かってくれたんだな?
これで一安心だよ。さぁ、ついて来てくれ。
今のアンタはヤツの術にやられてて危険な状態だ、
すぐに解呪しないと大変なことになっちまう!」
『なんだと』
「本当は彼女と同じようにこの場ですぐ解呪したかったんだけど、
手持ちの解呪符は彼女に使ったのが最後だったんだ。
けどこの近所にうちの事業所があって、
専門の解術師がいるからその人に頼めば何とかなるハズだよ」
『……お心遣い感謝するぜ、名も知らぬ兄ちゃんよォ』
「いいってことよ。困った時はお互い様だろ?
種族とか所属とか関係なく、困ったら助け合わなきゃ――――
『だが心配にゃ及ばねェ』
「え? 北川さん、アンタ何言って――
『魔・妖・呪術の解除なら知り合いに腕利きがいるからよ、
オメェさんの言う事業所の解術師とやらはお呼びじゃネんだワ』
機は熟した。
……今こそ、小僧の虚を突く時だ。
「いや、本当に何言ってんだよアンタ――――
『その代わり一つ頼みがあるんだ……』
「いやその、アンタ何か誤解してるみたいだけど、
とりあえず、頼みってのは……?」
『心配ねぇさ、単純だ。
くたばってくれよ、今すぐに!
青佐諸共、この場所で!
死因とか特に問わねぇからさァ!』
「うわっ!?」
≪ディプァァ!≫
俺は小僧目掛けて蟹爪を振り下ろすも、
小僧はそれを咄嗟に躱し、かつディプロカウルスの体当たりで弾き飛ばされる。
(両生類にしちゃ表皮が硬ェし筋肉の密度も高ぇぇ、か!
オマケに空を飛べて小僧と対話もできる辺り炎かなんかのブレス攻撃とかしてきてもおかしかねーな)
まあ関係ねぇ。
この程度で積んでちゃこの先やってらんねぇし、
次の被害者を出さねぇ為にもここでヤツらは始末しておくべきだろう。
(甘いマスクで何人落として来たのか知らんが、
死越者を騙してハメようなんざ無謀なんだよボケガキがぁ!)
斯くして雪原での戦いは二戦目に突入するわけだが……
俺はこの時、気付いていなかったんだ。
そもそもこの状況そのものが、死んだ青佐江雪の狙い通り、
ヤツにとっちゃまさに思う壺だって事実にな……。
「なんで!?
北川さん何故か襲い掛かって来たんだけど!
もしかして俺何かやっちゃった!?」
≪ディップルルルルルォァァァッ!≫
『なんだてめェ賢者の孫の真似事かァ!
上等だ、テメーは徹底的に痛め付け苦しめ乍ら地獄に送ったらァ!』
「ひいいいいっ!?」
っていうかぶっちゃけ陰陽師が両生類なのはモデル準拠なんですけど、
巨大化させるにしてもディプロカウルスは流石に無いよな~って我乍ら思います。
っていうか、ディプロカウルスだと台詞書くのが地味にめんどくさいんですよね……




