雪深まる佻尾市の死闘→馳せ参じる小さな勇者たち
刈れども刈れども減らない屍人……
やがて限界を感じたナガレは捨て身の作戦を決行しようとするも、そこに思わぬ救援が……?
俺の名前は、北川ナガレ。
『ただの死体風情がっ! 消し炭になっとけェ!』
『『グオワアアアア!?』』
『『『ブグァァァァァァッ!?』』』
『『『『『ナンデエエエエエエ!?』』』』』
『『『『アヅウウウウ!!』』』』
雪の深まる深夜の街で屍人や変異体どもと戦う、蟹座の死越者だ。
『……オチで燃えた作品がモデルなだけに火力も抜群ってか?』
使ってる武器は新作"偽りの愛は永遠に"。
要するに片手サイズのコンパクトな火炎放射器なんだが、どこにそんな燃料が入ってるんだってぐらい圧倒的な火力を誇りやがる。
『野原一家ッ、ファイアァァァァァァアアアアッ!』
『『『イヤワレノハラケチャウヤンケエエエエエエエ!?』』』
『イクジドコロカ
ケッコンサエデキヒンカッタマケグミガ
ナンゾイウトッテクサカ――――
『余計なお世話だ! てか草加生やしてんじゃねぇっ!』
『カイザアアアアア!』
『ムラカミイイイイ!』
『バドオオオオオオ!』
『イサナアアアアア!』
『ソノヤアアアアア!』
『ザリガニイイイイ!』
『『テカワテラモマキゾエカヨオオオオオ!?』』
その火力たるや、並みの屍人や防御特化でない変異体は勿論、
強欲警官の通常弾にさえ耐えやがるアーマーゴーレムやタイタンみたいなのにさえも有効なんだから驚きだ。
『――さて、と。
結構片付けたハズなんだが……』
『ゥゥゥゥ……
エヌエヂゲェヲッ!
ブッゴワ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ズ!』
『ズェヴンギレヴゥン!
ギョグヅァイ、ギヴゥゥゥゥゥン!』
『ギャバボドダヅォォゼンズェ、ヴァンザァァァアイ!』
『ジィヴィンドォグダヴァレェ!
ゴォヴェイヅォヅヴゲロォ!
ゲェイヴァジンズェングミニ、ドォビョオジグォォ!』
『ギィズィンダァ! ヴィージンダァ!』
『ビーフグウナァ! ゴオロギヺグエエ!』
『ガンギョオボゴダァ! ニググウナア!』
『アヴェジヌゾォノ! ヴォガジダヅミヴォオ!
ヴァレガレッハ! ギャヅノジゴボォ! ヅヴィギュウジヅヅゲルウウウ!』
『『『『『『ヴオオオオオオオオ!
アヴェジヌゾォヴァ、ニヴォンノデギナリイイイイイ!』』』』』』』
どうやらまだまだ全滅には至ってねぇらしい……
『見るからに粗大生ゴミって感じのヤツばかり
墓にも入らずゴロゴロと……全くお笑いだぜ。
つーか、何なら増えてねぇか……?』
気のせいかもしれなかったが、
どうにも"敵の頭数が減ってる"って実感がねぇもんでついそんな風に疑っちまう。
(……おっと、こいつはもしや……)
降り続く雪で視界が悪くなる中、俺は感づく……
『……間違いねえ。増えてやがるッ』
そう、屍人どもは明らかに……
虚空から湧き出るようにして、夜更けの佻尾市街へ"補充"されてやがったんだ。
『しかも変異体ばかり! めんどくせぇ……一体どこのどいつだぁ?』
あの感じからして空間系の、
ワームホールめいたもん(?)を形成して物体を転送するとかそういうタイプの魔術だろう。
そんでもって嫌な事実として、屍人は原則魔術を使えねぇ。
ということは、つまり……
(こいつらの異常発生は人為的なもん……つまり本件は明確な下手人のいる"事件"ってこった)
果たして何者が、どこから屍人どもをかき集め、
一体何の目的で佻尾市街へ放ってんだかはわからんが……
その辺の仔細は実際黒幕をとッ捕まえて吐かせりゃいい話だ。
ただ、そうはいっても懸念事項がないわけじゃねえ……
(このまま戦い続けてたんじゃ、武器のリソースが流石にやべぇ……!
黒幕を探り出してブチ殺すのが手っ取り早いんだろうが、
この場の屍人どもを下手に放置し過ぎようもんならどんな悪さすんだかわかったもんじゃねーっつーのが……)
いつもなら物資の補充は自警団側に連絡すりゃ良かったし、
特殊な武器の発注だって早川さんに頼めば何とかなった。
何なら人手が欲しいと思えば自警団の面々を呼ぶなり、
マインデッド邸含めサイトウ地区と仲良くさせて貰ってる各所に頼むなり色々できたんだ。
だが生憎、佻尾市とサイトウ地区はかなり距離が離れている。
車で高速を飛ばしても最低四時間はかかる。到着までの間持ちこたえられるかっつーと……
(それ以前に大体有能な奴は多忙だから、
仮に素早く移動できたとして俺に手を貸す余裕があるかっつーと微妙なトコだしな。
あとサイトウ地区は地形の関係上、佻尾ほど雪降らねえから来てもあんま動けねーかもしれんし)
さりとて地元・佻尾市内の警察や自衛官を頼れるかっつーとこれも微妙だろう。
そもそもの話、確かにここ最近になって屍人の存在は広く知られるようにはなり、
国家機関も屍人や革命派・掌握派といった敵対勢力との戦いに力を貸してくれるようにはなったが、
さりとて民衆の間じゃそれらはあくまで都市伝説程度に語られるのが関の山、
政府関係者や都道府県知事にだって屍人や淫魔の実在を信じず認めない奴は大勢いるのが現状だ。
(野党の連中に至っちゃ『不都合な真実を隠蔽すべく政府が捏造したもの』などと抜かしやがるからな)
特に地上波で堂々と俺とサイトウ地区を出鱈目にディスりやがった令和新徴組だかの木山一太郎……
俺個人に対する攻撃ならまだいいが、サイトウ地区のみんなをボロクソに扱き下ろした挙句、
どこから仕入れたんだか早川さんの過去を曝し上げて性的少数者叩きまでしやがんのはフツーに許せねぇ。
ヤツ含めサイトウ地区の悪口言った政治家は、気が向いたらその内殺そうと思う。
(で、問題の佻尾市だが……
調べによると市長はカルト教団「救済の摂理」と癒着状態……
教祖の教えから屍人を「信仰なき者を罰すべく神の遣わしたる義勇兵」と思い込み、
「真なる神を信じ『救済の摂理』の教えを遵守する者は義勇兵に攻撃されない」
「義勇兵がゾンビのように醜い姿なのは見る者の心が汚れていて信仰がないから」
「義勇兵に攻撃される者は正しからざる者なのだから救う価値はない」
「存在そのものが正義である義勇兵への攻撃は神へ背く大罪」
などと馬鹿げた考えを拗らせてやがるらしい……)
勿論その市長とて行政機関のトップに選ばれる程の実力者……
カルトにハマった狂信者乍ら決してバカじゃねぇから支持率維持のため市井に向けては普通に振る舞ってるが、
警察や消防、自衛隊なんかの公的機関には陰ながら圧力をかけていて、表向きには屍人を『存在しないもの』として扱ってるそうで……
つまるところ市長の息がかかった佻尾市民に助けを乞うのもほぼ無理と考えるのが妥当だろう。
(「絶えず"補充"され続ける屍人どもを刈り街を守る」、
「屍人どもを"補充"してる黒幕をブッ叩き街を救う」、
"両方"やらなきゃなんねーってのが"デキる人外主人公"のつれェトコだよなァ~)
必死の努力で出世して行くとこまで成り上がっちまわれた"蜘蛛子"神も……
癖の強すぎる仲間を率い世界平和の為に邁進しておられる"三上悟"王も……
偉大なるアンデッド系悪役主人公の大先輩にあたる"モモンガこと鈴木悟"魔導王陛下も……
誰も皆、偉大な主人公たちは苦難に直面しながらもそこから逃げず、
知恵や機転、経験や仲間との絆を活かし、如何なる苦境をも乗り越えて来たハズだ。
(ならば俺とてこの状況、どうにか乗り切ってやろうじゃねぇか……)
迫り来る屍人どもを刈りつつ決意した俺は、隠し持っていたゾディアス・ヴェポライザーを握りしめる。
(リソースが尽きるギリギリ限界まで粘ってから……こいつで一気にカタをつけるっ!)
マインデッド邸へ出向く迄の期間、訓練・実戦を問わず積極的な変身を心がけた甲斐あって変異補助薬は俺の身体によく馴染んでいる。
未だヴェポライザーが手放せねえとは言えそれでも変身時の能力は飛躍的に向上、持続時間も伸びたし昏睡状態に陥る時間も目に見えて減りつつある。
(何より能動的に変身を解除できるようにもなってんだから、
イザって時には変身解除して昏睡を回避しつつ武器での戦闘に切り替えられる……)
最もそれをやっちまうと暫くの間再変身に必要な薬の量が倍増しちまう新たな欠点も出て来たもんで、
結局危ういのに変わりはねえが……ともかくこの戦い、俺一人でも勝算は十分にある!
『来いよ死体ども、この俺が直々に戦ってやらァ!』
てな具合に屍人どもへ啖呵を切った、その時だった。
『ウウウアッラアアアア!
ヴェヌゲヂゲェヴォオ、ヴッゴバァァァ――グガアアアアアッ!?』
どこぞの口だけドブネズミよろしく拳を振り下ろすタイタン。
迎撃の構えを取る俺。
だが奴の拳は突然に、俺へ届かず粉々に砕け散ってしまった。
『な、なんだぁ!?』
思わず困惑していると、立て続けに他の屍人ども迄もが次々と的確に破壊されていく。
『グガアアアアア!?』
『ブバアアアッ!?』
『ボギョゲエエエエ!?』
見た感じどうやら、訓練された兵士たちが死角から次々と屍人どもを撃破しているらしかった。
となるとその兵士たちとやらは何者なんだって話になるわけだが……その答えは程なく判明した。
「のだー! 一匹残らずぶっ潰すのだー!」
『グウエアアアアア!?』
「街と市民を守り抜くのだー!」
『ギバァァァッ!?』
「機関砲発射なのだー!」
『『『『グゲボオオオオオ!?』』』』
「対屍人用中枢破壊弾を喰らうのだー!」
『グギッ、ブボアアアーッ!?』
「装甲除雪車出動! 屍人どもごと雪掻きしてやるのだー!」
『『『『ヴオガアアアア!?』』』』
『『『『『ブベエエエエエエ!?』』』』』
各々武器を手に屍人どもを撃滅していくのは、緑の防寒着と白い防具に身を包んだ兵士たち。
「よしみんな、順調なのだ!
この調子でどんどんぶっ飛ばすのだ!」
「「「「「「おかのしたー!」」」」」」
無駄なく洗練された動きでキビキビ働くそいつらは、
一見ただの有能な自衛官か、普通のよくできた特殊部隊のようでいて、その実並みの兵士とは異なる点があった。
(身長一.五……いや、一.三メートル前後か?
防具と防寒着を加味すりゃ体格はかなり華奢で貧相……
推定体重は下手すりゃ三十キロ切るんじゃねぇか?)
そう、奴らは余りにも小柄過ぎたんだ。
確かにどこの業界にも色んな奴がいる。
山のようにデカい保育士もいれば、細身のアスリート、モデル並みに顔のいい芸人や、格闘家みてぇな体格のアイドルたっている。
だから小柄の自衛官や特殊部隊員が居たとて何ら不思議じゃねーんだが、
と言って小柄なヤツだけで構成された戦闘部隊なんて聞いたことがねぇ。
そもそも奴らは総じて声や口調が男女のどちらともつかない小童のそれ、
かつ各々の声・口調・挙動なんかが完全に同一なもんだから余計理解が追いつかねえ。
例えるならまるで……
(量産されたクローン、みてーな……)
ともあれ小さな兵士たちの介入のお陰で戦況はこっちが有利になりつつある。
一気に畳み掛けるなら今だろうと思った、その時。
「ご無事っすかー? 蟹座の死越者殿ぉー!」
弓を担いだ兵士の一人が、俺を呼びながら駆け寄ってきた。
どうやら援護に駆け付けてくれたらしい。
『ええ、お陰様でこの通り無事です。
本当に助かりました。情けない話かなりヤバい状況でしてね、
全くなんてお礼を申し上げりゃいいんだか』
「どうぞその辺はお気になさらなくて構わないんスね!
元より僕たちはこの佻尾市に居られる全ての方々を救助すべく馳せ参じた次第なのですよ!
そしてその救助対象には蟹座の死越者殿、貴殿も当然含まれておりますのだ!」
饒舌に喋りながら刀身が黄緑色に発光する短刀
――後に知ったが、近接武器にも転用可能な機械仕掛けの"矢"だそうだ――
でもって屍人どもを斬り伏せながら声高に宣うその兵士は、俺の目にやけに頼もしく写ったんだ。
こりゃ俺も負けてらんねーぜ。
『スヴェェェジイイイイ!』
『――ウラァ!』
『ズゥヴェッジイイイイイ!?』
『ところでそう言えば、そちらのお名前と所属を伺っても宜しゅう御座いますかね?』
どこぞの頑なな競走馬みてーな叫びを上げる変異体サラマンダーをぶちのめしながら、俺は兵士に問い掛ける。
彼若しくは彼女の返答によれば……
「おっとこれは失礼、申し遅れましたのだ。
僕はズンダー4649号、魔界二十三閥族第十六位『極東四七守護霊会』の複製兵士部隊"ズンダー隊"所属の枝豆型種子型草本人ですなのだ。
気軽にヨンロクヨンキュー号とかヨロシク号とお呼び下さいなのだ」
『ほう、守護霊会の方でしたか』
魔界二十三閥族第十六位『極東四七守護霊会』は、
東北地方に総本山を構え、各都道府県に一つずつ幹部構成員が統括する支部が存在する組織で、
閥族入りこそ比較的最近だが組織そのものの起源はざっと飛鳥時代辺りまで遡るって説もある程の由緒正しい古株だ。
『こいつぁご丁寧にどうも、4649号様。
では礼儀に倣いまして、改めまして此方からも自己紹介をば。
泥得サイトウ地区自警団所属、死越者の北川ナガレと申します。
以後お見知りおきを……』
組織内で言えばたかが一兵卒、
頻繁に自ら頭を垂れこそすれ他人から丁寧に扱われたりはしねーのかもしれんが、
とは言え俺にしてみりゃ格上だし何より助けて頂いた御恩もあるならば丁寧に接するべきだろう。
『ところで4649号様、一つお聞きしても宜しゅう御座いますか』
「はいはい、なんなりとお聞き下さいませなのだ。
僕程度に答えられることであれば、僕の将来の夢から気になる美人幹部のスリーサイズまでなんでもお答えしちゃいますのだ!」
『ほほう、そりゃ頼もしい限りですなァ』
とは言えそれはそれとして、この質問はしておかなきゃなるめぇ。
『では、4649号様。
単刀直入に質問させて頂きますが、あなた方ズンダー隊がこちらへ来られた経緯ですとか、
あとは何故当方を認知しておられたのかとか、その辺りに関しての詳細を伺っても?』
「構いませんのだ。話せば長くなるッスけど、なるたけ簡潔に説明させて頂きますのだ」
さて、勇敢で小さな戦士の口から語られる答えとは……
ってな所で次回へ続くぜ。
(作者曰く一応予定としちゃ、次回『守護霊会』の幹部が登場予定らしい。
あと一連の事件の黒幕も序でに出るかもしれねーとか……ま、あくまで予定だがな)
『ダァァァイズダァァン!』
『うるせぇ!』
『ブルウロオオオオズ!?』
予定は予定なのであんまり信用しないように。
あと最近はライブ配信なんかも始めました。
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スマートフォン限定かもしれませんけど、来れる方は是非……




