泥得サイトウ地区の危機→馳せ参じたのは……?
タイトルにはこう書いたんですけどあんま危機的状況には陥ってないです。
ところで親身に接して下さってる読者様から「月刊少女野崎くん」を勧められて買おうか迷って結局買えませんでした。
理由はよくわかんないんですけど、プロ漫画家の男子高校生で女から好意を寄せられてて特に不健康そうでもなくそれなりに男前って所で私の完全上位互換だし、
その上彼の手掛けるジャンルが少女漫画とのことであまりにも作家として住む世界が違い過ぎるというか、
不気味の谷現象っていうんでしょうか、自分とあまりにもかけ離れた存在ならともかく中途半端に近い存在なだけにコンプレックスが刺激されて食指が伸びなかったのかもしれません。
とは言え折角本屋に行ったのでなにかしら読むために買おうとしたんですが何買えばいいんだかわかんなくて……
あたしの名前はフオン・ジュイ。
「火葬してくれるわこの腐乱死体のクソババアがああああああ!」
『いい焼け具合だ、感動的だねぇ。ならお誂え向きの串をくれてやるよ!』
満身創痍のまま突進してくる敵目掛けてトドメの一矢を放つ、射手座の死越者さ。
「減らず口もそこまでだああああ!
必殺最終超絶奥ぎぃっ、
ぐげ!?
ご、ぼばぁぁっ!」
射られた矢は迫り来る《ヤキトリ》に命中……そのまま派手に墜落した奴は、矢に仕込まれた爆破機構で食道から上を木っ端微塵に吹き飛ばされ遂に息絶えたのさ。
『おやおや、《ヤキトリ》通り越して鶏そぼろになっちまうなんて情けないねぇ』
見れば生き残りの雑兵たちは軒並み逃げ出しちまったようで、その場にはあたしら二人以外にゃほぼ死体のみって有り様さ。
となればコールレインくんを助けに向かおうかと思っていると……
「係長! フオン姉さん!」
『おや、あれは……』
『コールレイン様っ』
噂をすれば影が差すってヤツだろうね、同じくこちらを案じて駆けつけたコールレインくんと合流したのさ。
『コールレイン様、よくぞご無事で!』
「係長こそ無事だったか! まぁあんたはあんな雑魚どもにやられるほどヤワじゃねーだろうなって気はしてたがよぉ。
てかフオン姉さんは死越者特有の変身だからわかるとして、係長どうしたんだよその姿。
やけにイメチェンしちまって、デビルメイクライかダークサイダーズのオーディションでも受けるつもりかい?」
『その予定はありませんでしたけれど、そういうのもいいかもしれませんわね。
まぁ要するに強化形態というか、貴方の狗人刑吏に相当するものかしらね』
後々聞いた話になるけど、狗人刑吏ってのはこのコールレインくんが持ってる技のことで、魔力や養分を吸い上げて革命派の奴らも倒すほど凄いヤツらしいね。
『然しコールレインくん、よく無事だったね。
そっちにも豚肉塩漬け隊の奴らが幹部二人はじめ結構な数行ってたように記憶してるけど』
『そうですわ。奴らはどうなりましたの?』
「そこは心配ご無用ってモンで。親切なお二方に助けて頂けたんでね」
『ドーモ、親切なお二方のデカい方デェす』
『ドヲモ、親切なお二方の小サい方でスー』
『おや、あんたらは……』
コールレインくんのいう"親切なお二方"……
どうにも聞き覚えのある挨拶をしてきたそいつらは体格差が極端な男女の二人組で、あたしにとっちゃ良く知ってる奴らだったのさ。
『なんだい、誰かと思えばロジャースにタクシャカじゃないか。
前に会ったのは先月だったか……久しいねぇ。
その後はどうだね、変わりないかい?』
『オウ、久しぶりだなフオン。こっちは相変わらずさ』
『オヒサねー、ジュイサン。ワレシも右に同じネ。
先週フォークリフト免許取タケど、そノクラいだヨー』
コールレインくんよりもガタイのいいコート姿で覆面を被ったデカブツと、反対に子供くらいの体格しかない浅黒い肌の華奢な美形……
この二人はどっちもあたしと同じ死越者で、それぞれ牡牛座のモーガン・ロジャースと水瓶座のタクシャカってのさ。
『然し、タクシャカはともかくロジャースまで日本に来てたとは驚いたよ。
日本は窮屈でやり辛いって前に言ってたじゃないか、どういう風の吹き回しだい?』
『窮屈でもいい国だから来させて貰った……ただそれだけのこった。
それと"窮屈"ってのは、てめえがデカい所為で動き辛ぇって意味だ。
何もやり辛えだの暮らし難いだのと言った覚えはねえぜ』
『寧ろロジャサン、日本大好きダカらネー。
日本人でなイ死越者じゃ随一の親日家カモネ!』
『そうかい、そりゃすまなかったね……。
春日部係長、紹介するよ。こちらモーガン・ロジャースとタクシャカ。
あたしと同じ死越者の同胞さ。
ロジャース、タクシャカ、こちらは春日部ユイカ係長……柳沼の姉さんとこの子だよ』
『ホウ、この姉ちゃんがか……初めましてだなァ係長殿、
オレはモーガン・ロジャース。牡牛座のニューヨーカーだ』
『ヤーヤー、初めマシて! ワレシ、タクシャカ言うヨー!
星座はクンブラァシィ、要すルニ水瓶座ヨー!』
「此方こそ初めまして。ロジャース様に、タクシャカ様……。
私、魔界二十三閥族第一位『株式会社逢魔ヶ時魔道会』総務課係長をしおてります、
ヨランテ・CORRECTORS・カインドネス……またの名を、春日部ユイカと申しますわ。
どちらでもお好きな方でお呼び下さいまし」
てな感じで自己紹介も終わった所で、あたしらは本題へ入ったのさ。
『それで、どうしてあんたらコールレインくんと一緒にいるんだい?
その感じからして上からの指示でってワケじゃなさそうだけど、
といってあんたらそこまで喧嘩好きでも革命派憎しってこともないだろう?』
死越者にだって色んな奴がいるもんさ。
殆どは魔界二十三閥族のどっかで世話になってるけど、
中にはどこの世話にもなってないフリーランスだっているし、
常にどつき合ってなきゃ気が済まないような喧嘩好きもいれば、
中には自衛だとかを含む、必要最低限以上の争いは避けるようなのもいるからね。
『オーウ、その件かネ。マ、大方ジュイサンの予想通りト思ヨー?』
『言っちまえば偶然だよなァ。
飯食ってたらなんか、半グレっつーの?
ガラ悪ぃ連中が言い争ってたんで型に嵌めてやった帰り道、
偶然そこの男前ウェアウルフ君が革命派のゴミ共に追い回されてんの見掛けてよぉ~』
『二人揃テお酒でテンションバグてたから軽い気持チで後追かけたヨー』
「いやー、慌ててたんで最初マジで気付かなくて……
お二人から事情聴く迄まさかそんなことになってようとは思わなかったんですよね~」
その後三人が語った内容をまとめると……
「コールレインさぁん! こっちこっち!」
「この軽トラの荷台に載せちゃって下さい!
そのまますず屋まで運びますからっ!」
「佐藤さんに赤路さん! 助かりました!
じゃあ宜しくお願いします!」
「ッフゥーン! 逃がすわけないだろ人狼めッハァーン!」
「オウてめぇらぁ! この汚ぇ街があのクソ野郎のヤサらしいぜっベイベェー!
ゴミ溜めなら不幸な奴ぐれぇいくらでも居る! 点数稼ぎも兼ねて街ごと救済してやんなッベイベェー!」
どうにか泥得サイトウ地区へ辿り着いたコールレインくんはキタガワの身柄を自警団へ引き渡した。
けど必然、その判断は豚肉塩漬け隊の奴らを街へ呼び寄せる結果を招いちまった。
「「「「「「ヒャッハァァァァァ! 宝の山だァァァァァァ!!!」」」」」」
「「「「「「「点数荒稼ぎで大出世序でに彼氏もゲットするわよよぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」」
迫り来る量産型淫魔軍団……
絵面だけなら絶望的に絶体絶命……
だが当然、そこで敵の好きにさせないのが泥得って街なのさ。
《敵接近を確認!
砲撃隊、撃ち方用ぉぉぉぉぉぉ意ッ!》
「「「「「「「「――!!」」」」」」」」
《ッ撃ェェェェェエエエエエエエ!》
拡声器越しに響く号令のまま、一斉に火を吹くは無数のバズーカ。
「「「「「「「ぎゃああああ!?」」」」」」」
「「「「「「「ぐわああああ!?」」」」」」」
「「「「「なにぃぃぃこれぇぇぇ!?」」」」」
「「「「「「「なぁぁんだよもぉぉぉぉ!
砲撃かよぉぉぉぉ!?」」」」」」」
放たれた闇色の火球は、迫り来る革命派の量産型淫魔どもを吹き飛ばした。
並みの軍隊ならこれだけでもう被害は甚大、間違いなく再起不能だったろう。
けどそこは流石、しぶとさにだけは定評のある革命派の量産型ども……
魔力膜でもって一切の爆炎爆風を無力化した奴らは、怯まず突撃してくるのさ。
「「「「「「「なぁぁぁめんなぁぁぁああ!!!」」」」」」」
「「「「「「「全員ブチ犯ぁぁぁぁぁす!!!」」」」」」」
当然そんな状況でも、泥得を守る戦士たちは怯まない。
《敵、最接近!
騎兵隊、前へぇぇえええ!》
「「「「「「「……………」」」」」」」
《突撃ィィィィ!!》
「「「「「「「ウオオオアアアアア!!」」」」」」」
パワードスーツ姿のバイク乗り"騎兵隊"たちが、青いビーム・カタナみたいなの武器を手に突撃……。
それを見た量産型どもは彼らを接近戦一辺倒と判断し遠距離攻撃で対処しようとするけれど、バイクから展開されたらしいバリアに阻まれ消えていくばかり。
「行くぞお前らぁぁぁぁ!」
「「「「「「「「「応ッッ!」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「静寂のッッ! 光刃ンッッッ!!」」」」」」」」」」
「「「「がああああ!?」」」」
「ちからがっ!」「力が抜けるぅぅぅ!?」
「ウッソ、なんでぇ……!?」「立て、ないッッ!」
「魔力っっ……! オレの、魔力がぁぁ!」
「魔力が抜けていくぅぅぅ!!」
騎兵隊が一斉に武器を振るうと、そこから出た波動は量産型どもに襲い掛かり、触れた途端に奴らの魔力を奪い去っていく。
並の淫魔より魔力への依存度が高い革命派の量産型どもは、殆ど満足に立てなくなっちまったのさ。
「ッフゥーン! なんて酷い有り様だッハァーン!」
「あの程度の攻撃で身動き取れなくなるとかアイスヴァイン・スクワッドの隊士として恥ったらねーぜベイベェー!」
「ッハァーン全くだよッフゥーン! とは言え殺すのも惜しいし
ここは総本山へ転送しておくよッヒィーハァーン!」
青髪のお下劣低俗バレリーナと黄色くて飛ぶヤツは次々やられる部下を思い遣るでもなく、最低限の慈悲なのか転移魔術で総本山へ戻したらしかった。
「よっしゃ、やったぜ!
これで邪魔な雑魚どもを気にせずあのゴミどもと戦える!」
一旦街の中へ避難していたコールレインくんは、撤退しつつある泥得の自警団と入れ替わる形で変態どもの前へ姿を表したのさ。
「おう、ゴミども。こっから先お前らは未来永劫立入禁止だぜ、
悪いこたぁ言わねー、痛え目見たくねーなら立ち去んな」
「ッハァーン! 誰かと想えばチョコマカロ~ンと逃げ回ってばかりだった薄汚い犬ころじゃないのさッフゥーン!」
「ベタベタに古臭ぇ台詞吐いてカッコつけたつもりかンナロォー……
そっちこそ命が惜しけりゃ素直に逃げとくのが得策だぜッベイベェー?」
双方一歩も退かない睨み合い……
「……大人しく引き下がるつもりはねぇらしいな」
「ったりめぇだっベイベェ、こちとら革命派最強の戦闘部隊アイスヴァイン・スクワッドの看板背負ってんだぜベイベェ?」
「ッフゥーン! ここで戦闘放棄など一生の汚点ッ!
アイスヴァイン・スクワッドの幹部たるもの、革命派の敵を前にして逃走などないのさッハァーン!」
「ケッ、ゴミの癖して一丁前に吐かしやがる。
だがそれならこっちも好都合……試しときてぇ新技もあるし、てめえらで練習すんのもまあ悪かねえっ」
そうしてコールレインくんが身構えた、その刹那……
「ッハァーン! 無礼な態度、実に失礼だなッフゥーン!
どうやら君にはッ
然るべき " 制 裁 措 置 " が必要らし――『下へ参りマッサンの主演はガオシルバァァァァ!』
「ロウキィィィィィィ!?」
青髪のお下劣低俗バレリーナがカッコつけようとしたその瞬間、奴は頭上から降って来た巨大な質量によって完膚なきまでに圧殺されちまったのさ。
「なッッ!?」
「ぬうおわあああああ!? スディィィィィィィック!」
一体何事かと困惑するコールレインくんと、いきなりすぎる仲間の死に動し取り乱す黄色くて飛ぶヤツ。
「ベッ、ベイベェェェェェ! よくもスディックを殺りやがったなッベイベェー!?
どこのどいつだッベイベ――『不憫過ぎて救いたァァ~い♪ 呪われた少~ぉ、年ッ! の、名ァァァァはァァァァァ!』
「デエエエエエエエエエンジ!?」
お下劣バレリーナの仇討ちに躍起になる黄色くて飛ぶヤツ……恐らくやる気だけは本物だったんだろう。
けどそんな想いも空しく、奴はどこからともなくやってきた軽トラに容赦なく轢き飛ばされそのまま空中で一回転……
概ね『KICKBACK』のMVでトラックに轢かれる米津玄師みたいなもんだが、彼と奴との違いは身体の頑丈さだったらしい。
「ボヂダッ!?」
米津はトラックに轢かれても無傷のまま走り出したけど、黄色くて飛ぶヤツは――人間より何倍も頑丈な竜人の癖に――そうはいかず、轢き飛ばされた時点で全身複雑骨折の上に血まみれで内臓も破裂、トドメとばかりに頭から地面へ落ちて頸椎と頭蓋骨を損傷したのが致命傷になり、そのまま死んじまったってワケさ。
因みにバレリーナを押し潰した質量の正体はロジャースで、黄色いヤツを轢いた軽トラの運転手はタクシャカだよ、読者のみんなにしてみりゃ言う迄もなくお察しだろうけどね。
『イエエエエエエア! 最ッ高ォォーにブチ決まったぜぇ!』
『ムヒョッホヒョホホォーゥ! 革命派のゴミをブチ殺スノは楽しーネー!
令和ティクトカーの間で大流行り間違イナしだヨー!』
「……えぇー……?」
その後、何が起こったんだか判らず唖然とするコールレインくんを尻目に騒ぎ散らかすロジャースとタクシャカ
……二人のバカ騒ぎはその後酒が抜けきるまで続き――つまりタクシャカは飲酒運転ってことさ。……読者のみんなは真似するんじゃないよ?――その後酔いが醒めた二人はコールレインくんに謝罪しつつお互いに自己紹介。
語り合う中で揃いも揃って魔界二十三閥族で世話になってる上に、革命派を敵視する者同士だってんで意気投合しちゃったようでね。
その後、あたし等と合流すべく急いで駆け付け今に至るってワケさ。
『然しまあ、助かったよ。あのハーピーとドラゴニュートはどっちも厄介そうな手合いだったからね』
『いいってことよ。オレらも所詮、酔った勢いで暴れ散らかしただけつったらそうだしなァ』
『死越者は助け合イだテ、ジュイサン前に言うてたヨー。
だかラワレシらも彼を助けタヨー』
「いやあ、本当に助かりました。なんてお礼を申し上げればいいんだかわかりゃしねぇ」
『カメヘンヨー、月夜議事会サンには平素かラ世話ナリパナシだからネー』
「それでお三方、これから如何されますの? もし何もご予定がないようでしたら、今回の件に関して何かしらお礼をさせていただきたいのですけれど」
「おっ、そりゃ名案だな係長。
でしたらどうぞ皆様、うちの屋敷へお越し頂くってのはどうでしょうね?
うちの主君はとにかく来客を持て成すのが好き過ぎて禁断症状起こすようなタチなもんで……
私事なんですがここでお三方を屋敷へ招けねえとなると後が怖くてですね」
『アイエェ……何かエグいネー……?』
『呼べば喜ぶならまだしも、呼び損ねたら後が怖いってどういうこったよ……』
『然しそこまで言われちまったら逆に行かなきゃいけないって気がして来ちまうねぇ。
春日部係長、あんたも来るだろう?』
「ええ、よろしければ是非とも。コールレイン様、それで構いませんわね?」
「おう、勿論だ。マスターは係長のこともすげえ気に入ってるし、呼び損ねたら結構ヤバそうだからな……」
『だから呼び損ねるとヤバいって何なんだよって』
『ま、あの月夜悪いようにはされないだろうし』
『何なーラ楽しミニなて来たヨー。早いとこ出発進行だヨー』
てな感じで急遽『月夜議事会』幹部の吸血鬼ルージュ女史が住まう豪邸マインデッド邸へ向かう運びとなったあたし達……けれど、騒動はこれで終わっちゃいなくてね。
【……見付けたぞ、我が子らの敵どもめ……】
浮かれ気分なあたし達の元に、新たなる脅威が迫りつつあったのさ。
次回、牡牛座と水瓶座の死越葬態お披露目!




