新たなる死越者の参戦→魔物会社員ヨランテも便乗
射手座の死越者フオン・ジュイ、その能力とは?
読者の皆様、御機嫌ようですわ。
私の名は、ヨランテ・キュラソー・オズワルド・ルイン・ラヴェンナ・エリクサー・セルカリア・トランセンデンス・オーマ・レディオアクティブ・スパルガヌム・カインドネス
……本名を、春日部ユイカ。
『あたしの名は、フオン・ジュイ……
魔界二十三閥族第十六位「極東四七守護霊会」で世話んなってる、
"射手座の死越者"さ……』
(成る程どうりで……)
(そら雰囲気に覚えがあるワケだぜ……)
革命派傘下の戦闘部隊()"豚肉塩漬隊"に囲まれていた所を、新キャラの腕利き死越者様に救われた、戦闘型悪役令嬢改め魔術戦士風魔物会社員ですわ。
『さてさてお二人さん、怪我ァないだろうね?』
「ええ、お陰様で無傷ですわ。感謝してもしきれないくらい……」
「危ねえ所を助けて頂き感謝申し上げます、死越者のご婦人」
『礼には及ばないさ。偶然通りがかった所にチョッカイかけたら上手く行ったってだけだからねェ。
ま、単なるババアの気まぐれってヤツさ……』
フオン女史は自嘲しておられますけれど、ともあれ彼女の介入に救われたのは紛れもない事実……
我々二人とて革命派淫魔への対抗策がないわけでは決して御座いませんけれど、ある種専門家である死越者の方々に比べれば出力や安定性の面で心許なくもあり、特にこの規模の大群を相手取るにあたって死越者の方の参戦はひたすらに心強く頼もしいものでしたの。
『それで、だ。お二人さん、この場はあたしに任せて逃げちまっていいよ。
自慢じゃないがこれでも場数は相当踏んでる方だし、戦い方の方もどっちかってえと大勢相手の方が都合がいいからね……。
精々そこでノビてる新入りの坊やを助けておやり……死越者ってのは確かに高規格だけど、結局は信じ合える仲間在りきのもんだからねェ』
いかにも悪党・怪物然とした人相からは想像もつかない暖かいお言葉……ここは本来、彼女の意思を尊重し、指示通りこの場を後にするのが無難で賢い選択なのでしょう。
けれど私、どうにも今は敢えて知能指数を下げたい気分でしたので……
「お心遣い痛み入りますわ、気高くお美しき死越者様……
然し乍ら私にも、悪役令嬢上がりの会社員としての……魔界二十三閥族に属す者としての意地と面子が御座いますの。
貴女様のご好意を無碍にする意図などありませんけれど、貴女様の仰る通りにこの場から引き下がるなど、私の意地と面子が許しませんわ!」
我乍ら愚かしい判断とは思いますけれど、予てより心底腹立たしく思っていた革命派に、経費で買った市販品とは言え仮にも配下を奪われたとあっては気が収まりませんわ。
『へえ、言うじゃないかい……いいねえ、気に入ったよ。
そういえばまだ名を聞いてなかったね……お嬢ちゃん、あんた名は?』
「はい。私、魔界二十三閥族第一位『株式会社逢魔ヶ時魔道会』総務課係長、ヨランテ・CORRECTORS・カインドネス……またの名を、春日部ユイカと申しますわ。
どちらでもお好きな方でお呼び下さいまし」
『へえ、二つの名を持つとは興味深いじゃないか。短い間だろうが宜しく頼むよ、春日部係長っ』
さて、斯くして私はコールレイン様に北川様を託し、フオン様と共に革命派との戦いへ身を投じようとしましたわ。けれど……
「よォ係長ぉ~、この場でそんな事言ってくれんなよ~。
んなカッケエ台詞言われちまったらよ、俺もあいつら相手にひと暴れしたくなっちまうじゃねーかよ」
唐突にコールレイン様がそんなことを言い出しましたの。
ま、確かに彼は私より遥かに革命派を憎んでおられますし、そう言いたくなるのもわからなくはありませんけれど……
「ああー……いえその、確かにお気持ちはお察ししますけれど、コールレイン様は私と違って明確な役割があるでしょう?
貴方がここに残ってしまったら、誰がサイトウ地区まで北川様を護送しますの?」
そう、まさに問題点はそこでしたわ。
確かに彼の変身する"狗人刑吏サーラメーヤ"は革命派の淫魔たちにとって死越者に匹敵する天敵となり得る形態ですし、近頃は素早い発動が可能になりつつあるのも相俟って戦力としては申し分なく、何なら共闘して頂けるのはとても有り難いのですけれど、
とは言え彼にここで参戦されてしまうと誰が北川様をサイトウ地区まで運ぶのかの問題が出て来てしまいますので……
「コールレイン様の代わりになるような方が居られるのならまだしも……」
「……まあ、そうだわな。ここは大人しく退くとするぜ。
もしアレだったら連絡くれよ、すっ飛んででも駆け付けっから」
「ええ、もしもの時は頼みますわ」
斯くしてコールレイン様は北川様を担いでその場を後にしましたの。
「ッハァーン! 考えが甘いんだよッフゥーン!」
「逃がすかよッベイベェ~! 行くぞオメーらァ~!」
「「「「「アイアイサァァァァッ!」」」」」
ともすれば当然、豚肉塩漬け隊が彼を黙って見過ごすワケもなく……航空隊副隊長と突撃部隊長、そして奴ら同様に飛行能力を持つ幾人かの隊員たちは彼を追って飛び立ってしまいましたわ。
まあ、あの程度の変態珍走団に後れを取るようなコールレイン様ではないでしょうし、一先ずは眼前の敵に集中しなくてはなりませんわね。
「あっれれぇ~? 逃げなくてよかったのぉ~?」
「自ら敗北を選ぶとは愚かなり。やはり柘榴石眼様の祝福を受けぬ者など所詮はその程度か……」
「ご心配どうも~。けれど心配ご無用ですわ。
作者の書いたフリーメモによれば、フオン様のお力添えがなくとも革命派の殲滅は十分に可能とのことでしたのでっ」
『曰く、あたしが呼ばれたのはこの子たちがあんたらに苦戦するからじゃなく、あたし自身の活躍を描くためらしいからねぇ~♪』
「はぁぁぁ~? なぁ~にいってるかぜんぜんわっかんなぁ~い♥」
「フン! この期に及んでメタ発言で現実逃避とは、勝呂様の崇高なお考えに理解を示さぬ貴様らなど所詮はその程度か!」
『やかましいねえ。一々あの色ボケバカ夫婦を引き合いに出さなきゃまともに喋れないってのかい?
てかあたしらこの通り隙だらけなんだしさっさと襲ってくればいいものをダラダラと御託なんか並べちまって……史上最も優れた種族の誇る戦闘部隊が聞いて呆れる有り様だねぇ~』
「クッッ……! 黙れ黙れ、存在そのものが生命倫理への冒涜である貴様らがあの方々を侮辱するでない!
柘榴石眼様と勝呂兼幸様こそは至高かつ珠玉の存在! 魔界二十三閥族如き下賤なカスどもは気安く名を口走ることさえ許されぬ程のお方であるぞ!」
「はぁぁぁぁ~ん♥ ファンちゃんさぁ~♥ もういいじゃ~ん♥ どーせコイツらバカだしアタシらがなにいってもつーじないってぇ~♥」
「フン、それもそうか……であれば望み通り、正面から素手で叩き潰してやるわ!
覚悟せよ愚物ども、貴様らの信じる"作者のプロット"など、柘榴石眼様・勝呂兼幸様ご夫妻の大いなる御意思の前には何ら意味を為さぬ事実を、悉く思い知らせてくれようぞ!」
威勢よく啖呵を切りながらクレイモアらしき長い双剣を構える鳳鉄……『素手で叩き潰す』とは一体何だったのかと突っ込みたくなりますけれど、革命派の言葉など所詮その程度と考えれば然して気に留めるまでもなく……ともあれ、戦闘の火蓋は切って落とされるのですわ。
「あっちの会社員はどうでもいいっ! まずは死越者を殺せぇぇぇっ!」
「死いいいいぃぃぃねえええええぇぇぇ死越者ォッ!」
「下品な乳ぶら下げて男誘惑できるとか考え甘すぎ縄文杉ィィィィ!」
「オメーみてえなクソは柘榴石眼様の統治される新世界にゃ不要なんだよおおおっ!」
「偉大なる勝呂様の名の下に、貴様を地獄へ送ってくれるわァァァ!」
『酷い言われようじゃないか、傷付くねぇ~』
蜥蜴人、半蛇人、猫獣人、犬妖精、小鬼……何れも革命派仕様に淫魔化された下品な身なりの雑兵たちが、フオン様へ襲い掛かっては各々四方から武器を振り下ろし……けれどそれらの攻撃を、彼女は余裕で躱して見せましたの。
そして透かさず左手を貫手の如く突き出し、狙いを定め……
『轻浮ねぇ。程度の低さが透けて見えるよ……そんな奴らは死ぬといい』
「ぐがっ!?」「ぎぃ!?」「ごぎょあ!?」「ぎょびべ!?」「づげっ!?」
迫り来る雑兵たちを次々と射殺してみせたのですわ。
射殺すといっても、彼女の手元には弓も矢も拳銃さえもなく、かといって攻撃魔術の気配もなく……まるで実体のない矢に射抜かれているような、奇妙な光景がそこにありましたの。
「何が起こっているのか今一理解が追い付きませんけれど、私もただ棒立ちになっているワケにはいきませんわね」
意を決した私は、対革命派構成員特化とも言える力を解き放つのですわ。
(現状のこの姿はあくまでも使い魔の使役や魔術での補助や妨害を行う為のもの……
直接的な戦闘能力も低くはないとは言え、奴らにはより命を奪う行為に特化した形で挑むのが相応しい……
というか、この姿だと革命派の防護膜を破るのが大変なんですのよね……)
あと、作者からも『強化形態早めにお披露目しといてね』って言われてますし、ちょうどいい機会ですわ。
「"救世主を騙る偽善者よ、まだ聴覚が真面に機能くならば聴くがいい"
"貴様らの理想、一切の害悪や不都合、苦難や災厄が消し去られ、美と愛と快楽しか存在し得ぬ世界など、不適切にして不愉快以外の何であろうか"
"生命は死を意識えばこそ生きようとする"
"心ある者は悪に打ち勝てばこそ善と義の真髄に到達しうる"
"自我ある者は過ちを乗り越え、己を省みればこそ真に正しき者となる"
"筆一本から城砦に至る迄全ての被造物は、破損欠損不具合を想定すればこそ上質に完成される"
"害悪や不都合、苦難や災厄もまた、世の均衡を保つには欠けてはならぬ"
"害悪があればこそ、戦わんとして善に目覚め、義を掲げ立ち上がる"
"不都合があればこそ、打開せんと尽力し知恵を身に着ける"
"苦難があればこそ、乗り越えるべく鍛錬に励み確かな成長を遂げる"
"災厄があればこそ、抗うべく守りを固め、団結し絆を深める"
"即ち貴様らの理想とは、その全てを奪い去る愚行に他ならぬ"
"世の全てを只、消費し増殖するだけの愚物に変える所業である"
"もし仮に貴様らの理想こそが正しく、我が信念が悪であるならば"
"我は貴様らを滅ぼそう"
"小洒落た理想を我が手で破壊そう"
"この世から成長を、進歩を、進化を、発展を奪い去る貴様らに抗えるならば"
"我は正しさに拘らず、却って自ら悪と為ろう"」
濃い紫の膜を纏う漆黒の流体……吹き荒れる風とも燃え盛る炎ともつかず、或いは無理に形容するならば"闇そのもの"とも呼ぶべきそれは、冗長に詠唱を続ける私の周囲を渦巻いて囲み、敵からの如何なる介入も退け乍ら身体に浸透し、私の身体を変成させて行きますの。
頭髪、皮膚、骨格、内臓……全細胞へ染み込んで馴染み切って、"力"を扱うに相応しい"姿"の出来上がりですわ。
『変成、"精神刈り砕く死神社員"……』
さあて、地獄をお見せ致しましょう。
次回、パワーアップしたヨランテがフオン共々大暴れ!
どっちがより重点的に活躍しようとも、革命派に未来はない!




