救助現場で敵襲→窮地に現れたのは……
お待たせ、新キャラ登場だよ。
読者の皆様、御機嫌よう。
私の名は、ヨランテ・キュラソー・オズワルド・ルイン・ラヴェンナ・エリクサー・セルカリア・トランセンデンス・オーマ・レディオアクティブ・スパルガヌム・カインドネス
……本名を、春日部ユイカ。
「全くもう……仕方のないお人ですわね。どんな無茶をしたのだか知りませんけれど……」
「大方、二輪免許取り立てのガキが浮かれて事故ったようなモンだろうぜ……」
お世話になった大恩のある盟友の窮地へ駆け付けた、元・戦闘型の悪役令嬢にして現・魔術戦士風の会社員ですわ。
「実際ガキって歳じゃねえがまあ、死越者としちゃまだまだ未熟なワケで……その辺のギャップが色々拗れて暴走しちまったんじゃねえか?」
同行者は人狼のアーネスト・ルプス="ヘイズィムーン"・コールレイン様……何度か仕事でご一緒させて頂く内にプライベートでも良くして頂ける仲になったお人……まぁ、所謂彼もまた盟友の一人ですわね。
「ええ、どうやらそのようですわね……見てご覧なさいよコールレイン様、彼の側に転がっているこの死骸……
もう原型を留めていなさすぎて生前の姿を想像するのも一苦労ですけれど、状況からしてこの方がお殺りになられたの事実だけは一目瞭然ですわ」
「ああ全くだ。……匂いからして人馬系、羽毛が混じってる辺り天馬人ってトコか……?
俺でもそのぐらいしかわからんが……明らかに死骸へ攻撃を加えた痕跡がありやがる。
この男がそこまで暴れたってんだから、相当ムカつく奴だったんだろうぜ……」
そして我々二人が助けに来た“大恩のある盟友”が誰かは……読者諸氏でしたらもうお察しですわよね?
……そう、我らが本作主人公、死越者の北川ナガレ様ですわ。
事の経緯としましては……
その時、丁度美鋤市に出向いていた私が用事を済ませ帰宅しようとしていた時、北川様の伝手で知り合ったエンジニアの早川様から連絡があったのが発端でしたわ。
連絡内容は至ってシンプル……『彼が倒れたので近場にいるなら救助に向かってほしい』との事。現場は美鋤市中央区、盛村上駅側の繁華街"朱色町商店街"……幸いにもその時丁度盛村上駅を目指していた私は、人目も憚らず擬態を解除、羽搏き空へ舞い上がり――といって、深夜帯でしたのでそこまで人目もありませんでしたけれど――現場へ急行したのですわ。
道中同じく早川様に頼まれて駆け付けたコールレイン様と落ち合った私は、共に現場へ急ぎましたわ。
そして場面は冒頭へ至り、私たちは疲労の余り意識を失って倒れ伏す――それこそまさしく死体のような有様の――北川様を発見し今に至るのですわ。
「さてともかく、長居は無用ですわね。北川様を回収してサイトウ地区へ戻りませんと……って重っっっ!?」
早速北川様を持ち上げようとした私……けれど彼の身体は何がどう詰まっているのやら、私では満足に持ち上げられないほどの重量でしたの。
「カインドネス係長、無理しちゃいけねーぜ。
まずそもそも霊体系以外のアンデッドなんてのは総じて見た目の割に結構重てぇし、
まして変身を覚えた死越者はそっから更に目方が増える傾向にあるんだ、下手に持ち上げようとすると腰やっちまうぜ」
「た、確かにこの重さを無理に持ち上げたら地獄を見そうですわね……」
一応これでも混成魔人……それも牛獣人や有隣獣人など力自慢で知られる種族の血が混じっている関係上、腕力には自信があったのですけれど……地味にショックですわ。
「然しそれならコールレイン様も危ないのではなくて?」
「大丈夫大丈夫、俺無駄に再生能力高ぇから椎骨砕けても半日寝てりゃ全快するし」
「……ヒーリングファクターでもお持ちなんですの?」
「まあ、近いもんは持ってるかな。てかそれ以前に俺も一応見た目相応の筋力は持ってっからね〜」
その言葉は真実だったようで、コールレイン様は未だ目覚めぬ北川様を軽々担ぎ上げてしまわれたのでした。
かくして我々は急ぎサイトウ地区へ向かおうとしたのですけれど……
「……ところでよぉ、係長。唐突に話題は変わるんだが構わねーか」
「ええ、構いませんけれど」
「全く突拍子もねー質問なんだがなぁ係長……2023年公開の『ゴジラ-1.0』って見たか? 山崎貴監督のヤツ」
コールレイン様からの問いかけは、本当にまるで突拍子もなくて……けれど私、なんだか一連の流れにデジャヴュを感じずにはいられませんでしたの。
ともあれ、返答は一つ……
「……いえ、見てませんわね。山崎監督というと『ドラクエ』が散々だった記憶が強くて……然し、何故唐突に二年前の映画の話を?」
「シチュエーションが似ててなぁ……」
「それって、どんな感じか聞いても宜しくて?」
「ああ、いいとも。……単刀直入に言うならまあ、所謂詰みかけって感じだなァ」
「なんてこと……」
刹那、私は彼の言葉の真意と、我々を取り囲む厄介な無数の気配を気取ります。
「確かにこれは、詰みかかってますわね……」
気配の主とは、夜闇に紛れいつの間にやら我々を包囲していた無数の女人魔物……即ち革命派の構成員たちに他なりませんでしたわ。
「ィやぁ〜、お二人さんッ! 深夜のデート中お邪魔してしまい申し訳ないネッハァァーン!」
緊迫した空気感に釣り合わない芝居がかったハイテンションな態度で口を開いたのは、恐らく集団の指揮官・幹部クラスと思しき四人組の内の一人……
「先ずは自己紹介をしておこうかッフゥーン!
ボクは"スワンキグナ・スディック"! 革命派のエリート戦闘部隊"アイスヴァイン・スクワッド"の航空隊副隊長さッッハァァァン!」
スワンキグナ・スディックと名乗る青い髪の女……種族は姿からして白鳥型のハーピー、革命派の淫魔化個体なだけあって確かな美貌の持ち主であるのは明らかでしたわ。
けれど問題はその身なり……大まかには女性バレエダンサーを思わせる衣装なのでしょうけれど……
ハーピー用の改造が施されてている点を考慮しても明らかに布地は少なく露出過剰、加えて股座部分にはやけに太長い白鳥の生首が生えたような、如何にも下劣で悪趣味極まりない装飾が悪目立ちしていて……自身の癪に障る喋りや所作も相俟って、バレエ、ひいては西ヨーロッパ文化全般への著しい冒涜を感じずにはいられないデザインなのは言う迄もありませんわね。
「では次は、オレだぁ~……
アイスヴァイン・スクワッド、突撃部隊長のォ~……"ラドンレイク"ッッッ、"サマーオイル"ゥ~……
オレを呼ぶならそう呼ぶがいいぜッ、ベイベェ~……」
これまた癖の強い口調で喋る、筋肉質な淫魔型竜人のラドンレイク・サマーオイル……タンクトップにスパッツという服装自体はスポーティな印象を受けますけれど、脂ぎったような光沢を放つ日焼けしたような肌はどうにも健康的とは言い難く、当人の喋りも相俟って総じて不快と評す他ないのが実情ですわね。因みに頭髪と鱗は黄色でしたわ。
「……"鳳鉄"。アイスヴァイン・スクワッド前線総指揮……」
四肢が猛禽の脚のごとく発達し、背に巨大な翼を持つ燃え盛る鳥人……鳳鉄と名乗ったらしいその女は、その場の誰よりも大柄な体躯を中華風の重厚な鎧で覆っており、赤色だらけの見た目そのものは極めて正統派……けれど、だからこそどんな本性を隠していてもおかしくはない以上、決して油断していい相手ではないのでしょう。
「ハァ~イ♥ ドロメディーア・チェインバインドでぇ~っす♥ アイスヴァイン・スクワッドの衛生部隊長やってまぁ~す♥ あとカレシ募集中でっす♥ 宜しくねぇ~♥」
衛生部隊長を名乗るスライム淫魔のドロメディーア・チェインバインドは、喋りは元より身なりまでふざけ散らかしたような『見るからにこちらの神経を逆撫でしにかかっている奴』といった印象を抱かざるを得ない不愉快な奴でしたわ。
何せその格好ときたらほぼ全裸も同然……一応スライムという種族の特性上なのか乳頭や局部こそ隠されているものの、一糸纏わぬ透き通ったピンク色の身体に樹脂製のカラフルな鎖を亀甲縛りの如く巻き付けただけの姿は凡そ地上波ゴールデンタイムに生出演が叶うとは思い難く……申し訳程度の衛生兵要素として頭に乗せられた小ぶりなナースキャップを見ていると無性に腹が立ってくるのは何なのでしょうね。
「係長さんよォ、なんか俺気分悪くなってきたんだけど帰っちゃダメかなァ……?」
「ええ、私も同じ気持ちですわ……今すぐ逃げ出したいくらい。
けれど恐らく、この方々は只では帰してくれないでしょうね」
「やーっぱそうだよなぁ、めんどくせーなあ……」
こういう時、話を進めるべく取るべき行動はほぼ一つ……対話を試みることですわ。
「これはこれはご丁寧にどうもですわ。
名乗って頂いた以上はこちらも名乗るのが礼儀というもの……
私、新進気鋭の配信切り忘れ成り上がり系悪役令嬢バーチャルストリーマーの五千兆円坂チャグロサソリと申しますわ。
こちらはリアルマネージャー執事のセクシーバトラー・スパダリモフモフワンコマン。
二人合わせて――
「ッハァァーン! ウソは良くないねッフゥーン!」
あらヤダ、どうやら偽名を名乗っても通じなさそうですわね。なるべくなら本名は名乗りたくなかったのですけれど。
「出鱈目な偽名名乗ろォ~たってそうはいかねーぜェベイベェ~」
「魔界二十三閥族第一位『株式会社逢魔ヶ刻魔道会』春日部ユイカ係長並びに第十八位『月夜議事会』幹部マインデッド直属の配下、守衛頭コールレイン……」
「隠そ~ったってそうはいかないんだからぁ~♥」
「……どうやら全てお見通しのようで」
「侵略とセックスしか頭にねえイカレトンチキとは言えバカじゃねえらしいな」
「ま、名乗る手間が省けましたわ……。
で、ものは相談なのですけれどね豚肉塩漬隊の皆様方?
私ども今物凄く急いでおりまして、差し支えなければ道を開けて頂けると有り難いのですけれどっ」
「ッフゥーン! それはできない相談だねッハァァーン!」
「お前らがオレ達の要望を聞き入れるんなら話は別だがなァベイベェ~」
「単刀直入に言う……守衛頭コールレイン、貴様の担いでいるそのリビングデッドの身柄を此方に引き渡して貰おう……」
「ってゆーのはぁ~♥ なんかそいつぅ~、ウチらの上司のカーフィールド副隊長を殺した仇っぽいってーかぁ~♥
ウチら的には〜♥ なんかぁ~♥ そいつカタにハメないとぉ~♥ なんかメンツたたないってゆーかぁ~♥
ぶっちゃけマジムカツクしぃ~♥ そのクソゾンビにはソーオーのバツを与えなきゃ的な的な的な〜?」
成る程やはりそういうことでしたのね……事情を察した我々は、然し当然ここで仲間を見捨てるような真似など致しませんわ。
つまり……
「成る程、そちらの事情はよくわかりましたわ……
では貴女がたのその申し出、お断りと言ったなら?」
「知れたこと……怨敵に加担せし者即ち怨敵の同類……」
「ッハァァーン! だったらそいつらもッフゥーン! 纏めて型に嵌めるだけさッヒィーハァーン!」
「そうかいそうかい……理解り易くて結構なこったぜ」
「でしたら貴女方全員纏めてたっぷり持て成して差し上げますわ!
いざ、領域形成!」
反撃の隙も与えぬままに、私は愛用する斧槍の石突で路面を打ち叫ぶように唱えましたわ。
すると辺り一面の空間がぐわりと揺らぎ、深夜の繁華街は瞬く間に広大な西洋風のダンスホールへと姿を変えますの。
「おお、スゲェー……係長、一体こいつはっ?」
「フフン……どうかしら? これぞ我が新奥義、幻惑城郭!
魔術により形成されたこの異空間からは主たる私の許可なくしてはそうそう簡単には出られませんことよ!」
「なるほどそういうことか……って、『そうそう簡単には』ってのが引っ掛かるんだが?」
「……先日覚えたばかりでまだ安定性に欠けるきらいがありますのよね。予期せぬ衝撃で強制解除とかありますし……」
「大丈夫なのかよ……」
ともあれ、大規模な戦いで街に被害を出さないようにするにはこれくらいしか手立てがありませんもの。やらないよりはマシなハズですわ。
「ちょっと、何なのここ!?」
「出られないんだけど!」
「部隊長ー! どうしましょうかっ、部隊長ーっ!」
「ッハァーン! 落ち着き給え諸君ッフゥーン!」
「こんなもん所詮コケ脅しだろッベイベェ~」
突然の出来事に豚肉塩漬隊の方々は大いに混乱しているようですけれど、こんなのはまだまだ序の口も序の口……お楽しみの本番はここからですわッ!
「幻惑城郭が城主の権限に於いて命ず!
我が親愛なる配下たちよ、至急我が敵を迎撃し迅速に撃滅せよ!」
私の号令へ応じるように虚空から現れる"配下"たち……その姿は机や椅子、箪笥や照明器具といった調度品や、彫刻・絵画などの美術品が怪物になったかのよう。
「係長、奴らは?」
「市販品の簡易ゴーレムですわ。見た目や機能を自由にカスタムできるのであんな感じにしていますの」
「市販品かよ。てっきり係長の自作かと思っちまったぜ。
……然し市販品で大丈夫なのか? 確かに戦闘能力は申し分なさそうだが」
「心配ご無用でしてよ。諸事情から防御面が少々心許なくはありますけれど、その分攻撃面は抜かりありませんもの。
ご覧なさいよ、もう豚肉塩漬隊の雑兵たちの過半数ほどが死に絶えていますわ。
このまま行けば全滅するのも時間の問だ――「炎ガ如キ侵略熱波ッ!」
私の台詞を遮って叫ぶ鳳鉄の巻き起こした炎の波は、召喚された市販品簡易ゴーレムをも包み込み……けれど、焼き焦がすには至りませんわ。
「……フッ、フフフッ……
オーッホッホッホッホッホッホぉ!
起死回生の悪足掻きかしら焼き鳥さんッ! 如何に防御面が心許ないとはいえ、それでも幾らかの耐性強化は施してありましてよっ?
ましてそんな付け焼き刃のとろ火なんかで我が親愛なる配下たちを焼き払おうなど、短絡的にして愚の骨頂と言わざるを得ませんわね……
……え?」
王道の悪役令嬢めいた煽りをかます最中、私は明らかな違和感を察知しましたの……。
「な、何故簡易ゴーレムたちの動きが止まってるんですの……?」
「……てかよ係長、動き以前に見た目も変だぜ。係長が出したゴーレムってあんなクソ鬱陶しいエロソシャゲ広告に使われてそうなAI生成画像っぽい見た目じゃなかったろ」
「言われてみれば、確かにっっ……!?」
一体これはどういうことなのか……面食らう我々へことの真相を開示してきたのは、異常事態を起こした張本人の鳳鉄でしたの。
「……これぞ我が奥義『炎ガ如キ侵略熱波』……」
「え? 『ホムラの手コキでちんちん1000パーセント』?
幾ら革命派でもお下品が過ぎるクソダサな技名ですわねぇ」
「……違う。そうでは――
「そもそも私、『ゼノブレイド』なんてまるで知りませんけれど、ホムラ女史のチャームポイントといったらやはりあのご立派なお乳なわけですし?」
「……違っ――
「手コキ止まりというのはどうにも宝の持ち腐れと言わずにいられないのですけれども?」
「だから……そもそも――
「オイオイ係長さんよぉー、あんた仮にも悪役令嬢キャラでやってて曲がりなりにも本作のヒロイン枠なんだからそういうどストレートな下ネタで話脱線さすなよなー」
「貴様ら、我が話を――
「あらコールレイン様、それは古臭い固定観念ですわよ?
時は令和、まさに多様化と多様性の時代。
であればストレートな下ネタを口走るラノベヒロインだって居なきゃおかしいじゃありませんの」
「いやそれを多様化だ多様性だの一言で片付けるのはまた違うんじゃ――
「 話 を 聞 け ェ い ! 」
怒り狂った鳳鉄が脳天より射出した極大の火炎弾は大広間の天井にて炸裂……その衝撃は幻惑城郭を強制解除に追い込むほど凄まじく、我々二人は豚肉塩漬隊諸共一瞬にして元居た深夜の繁華街へと戻されてしまったのですわ。
「きぃさぁまぁらぁぁぁっ! よくも我を愚弄してくれたなぁぁぁぁっ!?
よいか!? 貴様らの足らん脳でも理解できるよう説明してやるからよぉく聞け!
先程の奥義は名を『炎ガ如キ侵略熱波』というっ!
断じて『ホムラの手コキでちんちん1000パーセント』などではないっ!
そしてその効果とはっ! 我が翼より迸る炎を浴びし者を我が魔力にて消毒め救済することであるぞっ!」
「救済ぃ〜? 救済ってどういうことですの〜? ねぇ、鳳鉄?」
「そうだなぁ。脳が足りてねえ畜生じゃその説明でもわかんねーぞ。ちゃんとわかりやすく説明しろよな鳳鉄ゥ」
「キエエエエアアアアアッ! 我はおおとりテツではない、ファン・ティエだっ!
二度と間違えるでないぞ!」
「え? Fantia? オメーそんなに金欲しいのかよ」
「ファン・ティ『エ』!!
訂正してやった側から間違えるヤツがあるか!!!
そもそも我は革命派の中でも高級取り故態々支援などされんでも生活には困っとらんわ!!!!」
「なぁに、貴女? そうやってツッコミ序でに自分語りなんかして……
高給取りアピールでマウント取りとか正直ダサくありませんこと?
そもそも誰も貴女如きの収益になんか微塵たりとも興味ありませんし、貴女さてはネットの匿名コミュニティで隙あらば自分語りをしては場の空気を澱ませ周りから煙たがられるタイプですわね?
ほんと、そういう癖は治しておいた方がいいですわよ、ねえファンザ?」
「"ファン・ティエ"だああああああ!! いい加減にしろよ貴様らあああ!」
「ッハァーン! 落ち着きなよ鳳鉄ッフゥーン!」
「兵士どもはやられちまったがまだ数はこっちのが有利だぜッベイベェ~?」
「そーだよぉ~♥ こんなやつら、チャチャっとブッツブシちゃえばいーじゃぁ~ん♥」
「……ぬ、う……そうで、あったな。
係長春日部ェ! 貴様の手持ちであった簡易ゴーレムどもは今や自我を得て我が軍門に下ったぞ!
我が奥義による救済を受け、一端の革命派淫魔と化したこの者らは最早無敵!
貴様が金にものを言わせて強化した嘗ての配下に裏切られる絶望に打ちひしがれながら死に往くがよいわァ!
往けい、新生鳳鉄親衛隊の者どもよ! 柘榴石眼様の崇高なる理想に糞を垂れ、勝呂様の世界救済を願う慈悲の心に小便をぶちまける愚物らに絶望を味わわせてやるがよい!」
「「「「「「畏まりました、鳳隊ちょ――っぐぎょわあああああああ!?」」」」」」
一匹残らず安っぽいデザインの、モンスター娘の出来損ないみたいな見た目になってしまった簡易ゴーレムたちが身構えた、その刹那……
"それら"は見た目に違わぬチープな悲鳴を上げ、皆一様に脳天から血を吹き出しながら倒れ伏し、そのまま軒並み死に絶えてしまったのですわ。
「なっっっ!? ああっっ! わ、我の、親衛隊がっっ!
我が魔力を授けこの世で最も優れた存在となった筈の我が部下がっ、こんなにもあっさりとっっ!
誰だ……?
誰だっっ!?
誰だあああああああ!?
我の部下を殺したのはぁぁぁぁ!?」
予想外の出来事に動揺し、狼狽する鳳鉄の姿は実に哀れで……いっそ傑作と言ってよいほどの傑作でしたわ。
さて、それはそれとして"新生鳳鉄親衛隊()"を一瞬にして全滅させたのは一体どこの誰なのか……その答えが明らかとなるのに、そう時間はかかりませんでしたわ。
『クックックックックックック……
フアーッハッハッハッハッハッハッハァ……』
芝居がかった笑い声を上げ乍ら、虚空から姿を現す一人の女……
外套に身を包み姿はうかがい知れないものの、身に纏うオーラは彼女が只者でないことをひしひしと物語っていましたの。
『相も変わらず滑稽なこったねェ、革命派さんや……』
「ぬぅっ……! なんだ貴様はっ!? 名を名乗れィッ!」
『ふん。あんたら如きに名を教えてやるのはシャクだが……
ま、そこなお嬢ちゃんと兄さんには名前だけでも憶えて帰って欲しいからねェ。
仕方ない、名乗ってやろうじゃないか』
鳳鉄に詰め寄られた彼女は、身に纏う外套を"ばっ"と脱ぎ捨て派手に名乗りますの。
曰くその名は……
『アニソンランキング系の番組で自分の好きな曲がないと、
自分の青春を全否定されたように思えて無性に腹が立つ女ァ~
フオン・ジュイ!』
――〔ベーッツェッデーン♪ ゼッゲーレッ♪〕――
(……山城拓也かよ!? てか被害妄想ヤベェな、アニソンランキングで自分の好きな曲がないぐらい許してやれよ……)
(しかもご丁寧にあの独特のBGMまで自分で流して……無駄に手が込んでらっしゃいますわね……)
名前からして恐らく中華もしくは朝鮮系と思しき、フオン・ジュイ女史……身体的な年齢は恐らく二十代後半から三十代序盤程度、髪型は藤色と白からなる所謂"プリン頭"風のセミロングで、上品に纏まり乍らも露出の高い旗袍に身を包む、淫魔と見紛う程の美貌と色香の持ち主でしたわ。
顔立ちは所謂"狐顔"というのでしょうか、その目付きは異様に怪しく妙に鋭く、加えて肌は血の気や生気が感じられず、磁器か石膏像、はたまた大理石の床面を思わせる冷たい白色をしておりましたの。
そして何より印象に残るのは、その異様極まりなく極めて異質にして、妖怪変化や怪物を想起させる得体のしれぬ雰囲気……百戦錬磨の魔物でもそう纏い得ぬそのオーラは、我々にとって不気味な一方懐かしさや安心感をも覚えさせる奇妙な代物でしたの。
(この雰囲気……覚えがありますわね……でも一体何故?)
(そうだ……俺は間違いなくこの女と似た雰囲気の奴を知っている……だがどうしてだ?)
脳内に浮かぶ疑問……それに対する回答もまた、フオン・ジュイ女史は即座に齎して下さいましたわ。
『或いは、こう名乗るべきかもしれないねェ……
あたしの名は、フオン・ジュイ……
魔界二十三閥族第十六位「極東四七守護霊会」で世話んなってる、
"射手座の死越者"さ……』
(成る程どうりで……)
(そら雰囲気に覚えがあるワケだぜ……)
そう。彼女……フオン・ジュイ女史こそは、北川様と同じ"死越者"だったのですわ。
次回、新キャラ"射手座の死越者"華人フオン・ジュイの実力や如何に!?




